旅の寸景(2) 落城ホテル | 落人の夜話

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城跡紀行家(自称)落人の
お城めぐりとご当地めぐり

武漢コロナウイルス禍による緊急事態宣言下、籠城し続けた今年のゴールデンウィークも最終日となりました。

例年ならば恒例のUターンラッシュ大渋滞が報道される頃ですが、そんな現象もなく、私の記憶にもない形のGWが終わろうとしています。

皆さんいかがお過ごしでしょうか。

 

思えばここ10年ほど、私のGWは主に旅先でありました。目的地は東北地方であることが多く、去年もそうでした。

 

旅には3つの楽しみがあると思います。

企画する楽しみ、訪ねる楽しみ、そして、思い出す楽しみです。

なので旅に出られなかったこのGWは、旅の思い出に浸って寸景を追加してみますね。

 

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秋田県内の某所。

 

と今回は敢えて詳しい場所を伏せさせていただきますけども、とある寂れた温泉地の一角です。 

車窓の端に天守閣のような建物が見えた私は、車を降りて探索してみる気になったのです。そこで夢に出そうな光景に出会いました。


 

渋い朱の屋根をのせた三重の天守…

いや、天守閣“風”の建物。

 

手前に原型を留めないほど無茶苦茶になってしまった屋根は、おそらく積雪の重みで潰されたんしょうが、位置的には焼け落ちた御殿を連想させます。


夢か幻か。私にとっては冗談半分に頬をつねってしまうような、ちょっと衝撃的な光景でした。


 

この国が「バブル景気」と呼ばれる好景気にあった1980年代、ここはホテルとして営業していたそうです。 

いつ頃まで営業していたのか定かではありませんが、この様子では少なくとも廃業後10年以上は経過してるんじゃないでしょうか。


あの天守風の建物は客室だったでしょうか。そして屋根が崩れたあの“御殿”の痕は、おそらく宴会場とか厨房のあった建物だったでしょうか。

 

「落城…」

 

思わずそんな時代錯誤な言葉が口をついて出た私は、勝手にここを「落城ホテル」と名付けました。

 

 

 

川に面した物見櫓のようなこの建物は、思うに食堂か浴場あたりだったのでしょう。 

トタンを打ち付けられた上階の窓、その下の窓はガラスもなくなって開きっさらし。廃墟マニアなら鼻息も荒く潜入するパターンでしょうが、城跡マニアの私は遠慮しておきました。


その代わりググってみたんですが、やはりどこの世界でも先達は居るもんですね。そっち方面のサイトでは既に探索されているものがありました。

 

しかしまあ、どうでしょうね。 思えば城跡だって一種の廃墟ですよ。

系統でいえば親戚みたいな趣味かも知れません。

 

 

裏にまわったら…いや、本来こっちが表になるのかな。

とにかく「落城ホテル」を反対側にまわってみると意外にも生活道路に面していて、さすがにそこはパネルでガードされていました。

近くでみると壁が剥がれ落ちてて危なげですが、何かの事情でずっと放置されているんでしょう。ときどきそんな廃墟、見かけますよね。

 

破風まで乗せた屋根に、青空を流れる白い雲が映えてまぶしい。

華やかなりしころは、あのカーテンのない窓から観光客が顔を出し、殿様みたいに煙草でもふかしながら町を睥睨したでしょうか。

景気のいい時代、浮かれたご時勢と羽振りの良さに任せてこれを建てた経営者も居たんでしょうが、ほどなく左前になって放棄したんでしょう。けども長らく後始末もされず、こんな風に放置されてしまっているのは、例によって権利関係だか何だかの絡んだ大人の事情ってやつでしょうか。

そんな盛者必衰みたいな人の気配に惹かれてしまうところもまた、城跡と廃墟、やはり似たような部分があるのかも知れません。

 

 

ただ気になるのはこの温泉地。

歴史のある温泉を抱えながらそれを推す様子はあまり感じられず、「落城ホテル」などが妙に目立ってしまっているあたりは、なんだかご当地のために残念な気がします。

ご当地だけでは財政や人口の問題などもあって対応が難しいところもありましょう。県レベルの関心がもっとむけられるといいなと思いましたが、いかがなものでしょう。がんばれ秋田県。

 

とはいえマニア的には…いや、個人的には印象的だった旅の寸景。

しっかり楽しませていただきましたけども^^;

 

 

 

クローバー訪れたところ

【落城ホテル(仮)】秋田県某所