伝えるべきこと:小森美登里著『優しい心が一番大切だよ ひとり娘をいじめで亡くして』 | “迷い”と“願い”の街角で

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確固たる理想や深い信念があるわけではない。ひとかけらの“願い”をかなえるために、今出来ることを探して。

「優しい心が一番大切だよ。その心を持っていない、あのコたちの方がかわいそうなんだ。」

そう母親に告げた数日後、当時高校生だった小森香澄さんは、自らの手で命を断ちました。母親の小森美登里さんが著した『優しい心が一番大切だよ ひとり娘をいじめで亡くして』では、娘への愛、娘を失った悲しみや苦しみ、娘をいじめた者や何も対策をとらなかった学校への怒り、そして、社会・世の中に対する想いなど、様々なことが綴られています。


今述べたように、様々な内容の詰まった本ですが、その根底に貫かれているのは、まさに香澄さんが残した「優しい心が一番大切だよ」というメッセージに通じるものだと思います。


人が人をいじめていい理由は、人が人を傷つけていい理由は、この世に一つも存在しない。人は人を傷つけてはいけない。母親の美登里さんはそう強く主張します。そして、優しい子がいきにくいことに、優しいだけでは幸せになれないことに疑問を投げかけるのです。


価値観が多様化する社会の中、それぞれ異なる人格や個性を認め合う「優しい心」がより大切になってくることでしょう。幸せな環境が人を幸せにし、人の幸せが幸せな環境を生み出す。周囲の優しさが人を優しくし、人の優しさが周囲を優しくする。自分と人の「優しい心」を大切にすれば、必然的に自分も人も幸せになれるといって過言ではないのではないでしょうか。


逆に、「優しい心」が非難されるのであれば、「優しい心」を踏みにじることが許されるなら、人の不幸が周囲を不幸に、周囲の不幸が人を不幸にする負のスパイラルになってしまいます。だからこそ、「優しい心が一番大切」なのです。その影響の大きさを考えれば、単なるキレイゴトと一蹴することなど、できるはずもありません。


しかし、現実の世の中を見れば、多くの人が「人が人をいじめていい理由」を、「人が人を傷つけていい理由」を躍起になって探しているようにさえ感じます。転じればそれは、「自分がいじめられていい理由」に、「自分が傷つけられていい理由」になってしまうにもかかわらず。


人が人をいじめていい理由は、人が人を傷つけていい理由は、この世に一つも存在しない。美登里さんはそう主張していましたが、多くの人は、それを当然の主張だと受け取るでしょうか。今、この社会に生きる人たちうち、どれほどの人が、自信を持って、胸を張って、美登里さんと同じ主張をできるでしょうか。頭で、理屈で分かっていても、心から言い切れるでしょうか。


氾濫する情報の中で、次世代に伝えるべきは本当の「一番大切なこと」です。私たち自身がそれを見失ってしまえば、伝えようもありません。私達が、私達の社会が「優しい心」を見失ったまま、「優しい心」を涵養する教育を主張しても空疎です。「優しい心が一番大切だよ」というメッセージに、私達は、立場にかかわらず、一人の人間として、どう応えていくのか。難しい宿題です。


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