※これは妄想腐小説ですBL要素が含まれます
~間違われた方、苦手な方はお戻り下さい~




























ー温厚篤実ー








緑太が俺に呆れている……いや、失望しているというのがその行動で分かった。



俺の部屋からランを移動させた時、俺には一言も何も言わず、こっちを見もしなかったからだ。






……俺の所為じゃないはずなのに。



確かに声は荒げたし、いつもの俺らしくなかったのかもしれない。

でもそれは、ランが言うように”呪い“とかいうやつの所為で、急に苛立ったからなんだ。



だから俺が全面的に悪い訳じゃないはずなのに……







って、こんな事を考えるのも”俺らしくない“のか…



いつもなら、自分が悪いと思ったら直ぐに謝れるし、誰かの所為にもしない…

悲運と一緒にここまで生きてきたんだから、そんな事をしたら誰も俺なんかを相手にしてくれないと分かっているんだから…







……よし、行くぞ。



呪いだなんだのがあっても、どんなに関わりたくない人物相手だとしても、人として当然の事を先ずしないとな。




“ごめんなさい”のたった6文字。

時間にしても直ぐに終わる言葉。



だからきっと苛立ちだって起きないはず。

現に今はイライラなど感じないし、寧ろ申し訳ないという後悔と懺悔の気持ちでいっぱいなのだから…





…よし。






ガチャ!


勢いよくドアを開けて、謝る、謝る、謝る!それだけを考えていた俺の目に飛び込んできたのは床に上半身裸で倒れているランの姿だった。




だけど、そこでまだ俺は焦らなかった。


緑太なら無理矢理服を剥ぎ取って痛いという箇所を見そうだと思ったからだ。



そして緑太か脱がせたという証拠に、ランが着ていた衣装があっちとそっちに放り投げられてあったからだ…







ただ、今度は転ばないようにと慎重にランに近づいて行った所で俺は焦った…

そのランの背中をマジマジと見てしまったからだ。







っ!!








ハッキリと色の違いが分かるくらいに赤紫色に腫れてるランの背中…



 

俺が突き飛ばさなかったらこんな怪我はしなかったのに……









これじゃ動けない…どころじゃない。


こんなになっているのに何故これで痛いと言わないんだ?










それなのに“治る”とか“平気”とかばかりで頑なに病院に行かないと言う…


それどころか笑って冗談まで言うし、しまいには俺と普通に話せて楽しいとランが言ったんだ…







ランが呪いの対処法とかを見つけたとかで、確かに俺はイライラはしてない。

さっきのは間違いじゃなかったのか?というくらい普通に話せてる…










だけど今度は、俺はランと話していて……苦しくなった……





その、理由は分かってる…






苛々さえしていなければ、ランの言葉はこんなにすんなりと俺の耳に届くんだ…



だから“悪くない”と俺を庇っている所も、俺ばかりを気にして言う言葉も、“ごめん”とか“ありがとな”とか素直に口に出して人を思いやれるその性格が分かって…


苦しい……


こんなにも心根が優しい人を俺は傷つけたのだから……









そして…悲しくもなった……




俺が辛い顔をするから“忘れろ”とランに言われた事に……いや、言われた事にじゃないな。


“言わせた”という事にだ……








…ランはうつ伏せのまま話しているから、俺が何処を見ているのか気づかなかっただろ?



俺は痛々しい背中は早々に見れなくなったから、ランの手を見ていた。


だから“忘れてくれ”と言った時にランが手を強く握ったのが分かったんだ。




まるで、必死にその拳の中に本心を隠すように強く握っているかのように…








そして、今までのランの言動を考えると、それは“俺の為”というのが安易に想像できた。


俺を困らせない為、俺を辛くさせない為、俺を巻き込まない為にと……












…おかしな話だが、俺達は似ていると思った。



不運にばかり見舞われる俺と、呪いを受けたランが…







俺も、自分の所為で誰かが困るのは嫌だし、俺の所為で誰かを悲しませるのも嫌だ。



そして、俺の不運が誰かを巻き込み傷つける事になるなら、俺は…自分からその人の元を去る決断をする。




自分だけならいい…

でも、“誰かが”となると話しは別なんだ…










そこまで考えついて、やっぱり俺達は似ているのだと再確認した。


見えもしない抗えもしない“なにか”に雁字搦めにされてるのが同じだから…





そして不謹慎だけど、似ていると思うと俺は嬉しくもあったんだ…


ランは違う感情を俺に持ってくれているからそんな事は思わないだろうけど、俺は“仲間”が増えたような…そんな感じがしたからだ。













ただ、これから俺がどうするべきかは考えが纏まらなくてランにどう言えばいいのか分からなかった。




ランが“信じろ”とか“忘れろ”とか……両極端な事を言うから何がなんだか、俺の頭の中はまだごちゃごちゃだったからな。





でも、決してランは嘘は言っていないのだと思った。


言葉が足りないだけの、どちらもランの本心…だと俺は思ったから。







なら、似た者同士…いや仲間だと勝手に思ってる俺は、ランが思うそれを叶えてやりたくもなった。


…ただ、叶えるならどちらか一方になってしまうんだ。






“信じた”ものを“忘れる”なんてできないし、“忘れる”なら“信じる”事も無かった事になってしまうから……









 

だから、俺は色んな事を考える時間が欲しいとランに言おうと思った。



依頼したのだから、当分は一緒にいれるはず。

ランが対処法を発見してくれたから、こうして普通に話す事は簡単なはず。








…だけど、ランは“出て行く”と言った。


緑太への依頼は取り消して、緑太と話しをしたら出て行くと……









そこで俺はフリーズした。







もう少し先にその話を聞いていたら、俺は喜んでいただろう。


変な事は言うし、得体の知れないランには関わりあいたく無いと思っていたし、呪いとか意味の分からないものにも俺を巻き込まないで欲しいとさえ思ったんだから…。









でも、今は違う…


ランを“不幸な人生仲間”だと思い始めているし、ランの性格などを少しは知れて、一緒に暮らすのを受け入れ始めている俺がいるんだ。



そして俺には緑太という恩人がいるように、ランにも“仲間”として俺が何かしてやれる事はないかと思っている…それに他にも重要な事が……













緑太がランをひき止めようと話をしていたが、ランも決めた事は曲げるつもりはないのか、食い下がっていた。





そして、ランの口から出てきた“コウモリ”とかいうまた意味の分からないものの話し。




ただ、依頼をしたのがそのコウモリだとランが言った時に、俺は駄目だと思った。


このままじゃランはその頼れるコウモリの元に直ぐに行ってしまうんじゃないかと…そんな事はさせないと俺は思ってしまったんだ。





だから何か考え込んでるランに俺は言ってしまった……










《俺は呪いの所為であんな辛くなったのに、言うだけ言って去るんですか?》



『っ!』



《こうなる事を知ってたのに、俺に言うなんて自分勝手…だと思いませんか?
なんかお詫びはしてくれないんですか?》



[ちょっと緋路!また何言ってんの!
もういつもの緋路に戻ったんじゃないの!?]











…ああ、あのイライラはもうない。


これもランが対処法を見つけてくれたというお陰なんだろう。





…そう、ランのお陰なんだ。






俺が分からない訳ないじゃないか。


一緒に住むと依頼をしたはずなのに、“出て行く”と意見を変えたのが誰の為なのかって事を…






ランがどれ程優しい人なのか、俺はもう分かってるんだ。



それなのに俺は怪我までさせたのに、ランに1つも優しくしていない。

自分の所為なのに謝らせても貰えないなら、行動で返すしかないじゃないか。




動けないランの力になるしかお詫びできないじゃないか…






だから、卑怯な手を使わせてもらうんだ。



ランの事だからきっと…








『…ヒロ、本当にごめんな。
自分勝手でごめん。
でもお詫び…になるような手持ちも無いんだ。どうすれば……』









そう、言うと思った。


俺の為にと考えてくれるランならきっと本気で俺の言った事を悩んでくれるって…







…ごめん。

本当に…ごめんなさい。




俺を“好き”と思ってくれる事を利用して、最低な事をしてごめんなさい…










《…そう言われても、俺も直ぐには思いつきませんよ。
仕方ないので最初の依頼通り、当分はここにいて下さい。
その間に俺も考えるので。》









こんな最低な俺を嫌ってくれたら、呪いなんかもなくて、ランとも普通に笑って話せたりしないかと思ってる俺がいてごめんなさい…






だけど、今、俺はそれを望んでるんだ…


その強く握った拳が俺の所為じゃなくなる事を…











ギュ…
『…分かった。』



[ラン!?]




『緑太…言っていた通り世話になってもいいか?』



[っ!…俺は元々そのつもりだったし、この状態のランを他所に移すとか考えてなかったよ?]



『…優しいな。
本当に…2人共優しい。少しの間だか宜しく頼む。』



[ラン……]



《……》



『ヒロ……俺、十分気をつけるが、できるだけ早く思いついてくれるか?
もう、辛い思いはさせたくねぇんだ。
だから……こんな格好で悪いけど、宜しく頼むよ。』










…それも、俺が言ってしまったから気にしてるんだよね?


俺の所為なのに、決して俺の所為にしない優しいラン…









《分かりました、考えます。
こちらこそ、これからよろしくお願いします。》











俺は、ランがここにいてくれる間にどれ程のお詫びができるんだろうか……





















温厚篤実
(おんこうとくじつ)

穏やかでやさしく、
情が深いこと。
人情に厚く実直なさま。
誠実で親切なこと。