※これは妄想腐小説ですBL要素が含まれます
~間違われた方、苦手な方はお戻り下さい~





























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この岩肌や、そこから海に伸びるように作られた、デコボコしている石の波止。



間違いない…


ここは僕が毎日通っていたあの海の場所…







…でも、そんなはずないよ……








ここは危険だからって地元の人も近づかないし、それに岩場の陰になってるから見つからないはずなのに…







それなのに…どうして……






どうして…ここに両手を広げて立っている人の後ろ姿が描かれてるの……?







まるで……


まるで…僕がそこで海に向かって歌っていたのを知ってるみたいに……










ギュ…
『…どうして…こんな……』



〖どうかしましたか?〗



『……あの…』



〖はい?〗



スッ
『これを…見てもらえますか?』



〖いいんですか?〗



『…はい。』



〖では失礼します。……ああ、美しいですね。〗










…そう…とても綺麗なんだ……


でも……









『…それを…本当に成瀬先生の弟さんが描かれたんですか?』



〖でしょうね。弟から預りましたから。〗



『そこ……僕の地元の海…なんです。』



〖小野君の地元…という事は、以前話して下さった伊豆ですか。〗



『…はい。』



〖伊豆の夕陽はこんなにも綺麗なんですね。〗










…綺麗……そんな風にあの頃は思わなかったかな…


ただ、天気のいい日は海に反射して眩しいとは感じていた…




ああ、そんな所もこの絵はそっくりなんだ…


だけど…




ううん。だからこそ本当にどうして…って思うんだ…









『…成瀬先生の弟さんは…なぜ知っているんですか?』



〖はい?〗



『なぜ…この海にいた僕の事を…知っているんですか?』



〖“僕”とは…ここに描かれている後ろ姿の人物が小野君だと?〗









…分からない。


分からないけど、あんな所に行くのはあの頃は僕だけだった。






でも…あの頃なんだ……


そう、何年も前の…あの頃の僕……









〖…なる程。
私が小野君に聞いた住所を弟に言っていないかを知りたいんですね?〗










僕の地元の住所は成瀬先生にしか言ってない。


だから考えられるのは、成瀬先生が僕の地元の話を弟さんにして、それで偶々、弟さんがこの場所の絵を描いた…


という事ならまだ…まだ……納得できるかな…って……









〖小野君、私の職業を覚えてらっしゃいますか?〗



『…え?それは勿論ですけど…?』



〖では私に守秘義務があるのもご存知ですか?〗



『!』



〖言えないんですよ。それがいくら弟であってもね。〗









…言えない?

だってあの時だって!








『でもあの時、成瀬先生の弟さんが言ってくれた言葉があったから成瀬先生は桃井さんの以来を受けなかったと言いましたよね?』



〖え?ああ…〗



『それに香り袋の事だって、僕が匂いに悩んでた時にタイミングよく下さいましたよね?』



〖小野君は匂いに悩んでいたのかい?〗



『…え?だからあの時に弟さんは気を使って僕にあれを下さったんですよね?』



〖そうなのかもしれないね。〗



『じゃあやっぱり__ 』



〖でも私も知らない事をどうやって弟に教えられるんだろうね?〗



『……え?』



〖ん?〗









っ!

そうだった……


僕が湿布の匂いに過敏になったのは、あの吉岡さんの事があってからだ。


佐東さんには処分して欲しいと言ってたけど、あれさえ無ければ問題なかったから、誰にも匂いの事なんて言ってない。



勿論、退院する3日前に初めてあった成瀬先生にも一言も……





…え?


じゃあ…どうやって……










〖フフ。私が以前“不思議ですよね”と言ったのを覚えてますか?〗



『!』



〖弟は不思議な事を沢山してくれるんですよ。
まるで何もかも知っているかのようにボソッと的を得たことを言ったり、私にはどうして必要か分からない物を届けて欲しいと言ったりとね。
小野君の名前や顔すら本当に知らないだろうに…〗



『っ!』









…そうだ。

あの封筒に入った手紙にも“君へ”と書かれていた…



僕の名前なんてどこにもなくて、“君”  とばかり…








…弟さんに話してないと成瀬先生は言った。


成瀬先生が僕に嘘をつく理由もないし、凄い弁護士さんだろうからそういう所は守る人なんだと思う…






…じゃあ成瀬先生の言う通り、弟さんは本当に僕の事など何も知らないっていうの?



言ってくれたというあの言葉も、僕の為に作ってくれたあの香り袋も、この絵だって何も知らずに…?







……嘘…


だって、そんな事できる訳___










〖疑う気持ちは分かります。
小野君にはとても不思議な事だらけでしょうから。
でも、私は言いましたよね。“弟は間違わない”と。〗



『!』



〖だから私は何の疑問もなく弟の言葉を聞くし、弟に渡してと言われた物は確実に渡します。
私は弟を一切疑いませんから。〗



『……信頼…されているのですね。』



〖いいえ。それ以上ですね。
現に間違ってはいない事を小野君が既に証明して下さいました。
弟のお陰で私は2度も貴方の苦痛を見なくて済んでいるんですから。〗



『!』



〖ただこの絵は…すみません。
私は何も聞かされていないので、どうして弟がこの絵を描いたのか分かりません。
もし小野君が見たくもないという事なら__ 〗



『できません!』



〖……〗



『捨てるなんて…絶対にできません……』



〖…そうさっきの手紙には書いてありましたか?〗



『はい…』



〖…そうですか。
でも小野君が困るようなら私が持ち帰りますよ。
見たくもないというなら…ですが。〗










見たくない…って訳じゃない。


ただ、その絵を見ると大声をあげて泣きたくなってしまうくらい胸が苦しいんだ…




あの頃の、夢を必死に追いかけていた自分を思い出して…

“戻りたい”って思ってしまって…苦しくなる……









〖…小野君。〗



『あ…すみません成瀬先生……でも絵は持ち帰らないで下さい。
僕にと頂いた物をお返しするなんてできません。』



〖…そうですか。〗



『はい。…あの、成瀬先生。』



〖なんでしょう?〗



『…僕が弟さんとお話する事はできますか?』



〖……〗



『…難しい…ですか?』



〖小野君が受け取って下さった事は私から伝えますよ?〗



『あ、それはありがとうございます。
でも…僕は弟さんに直接聞きたい事があるんです。』










色々あるけど1番はこの絵の事…


どうしてこの風景を描けたのか…という事を……




それに、あの手紙に書かれていたこの絵の事で“迎えにいってあげて” とは何の事を言っているのかを聞きたくて……








…でも、それは難しいかもしれない。


だって、成瀬先生の顔が少し険しくなった気がするから…









〖…小野君がとても優しい方なのは承知してます。ですが__ 〗








成瀬先生が言葉を発した時点でやっぱり無理そう…と思っていた時、2階の部屋が勢いよく開く音がした。





バンッ!








そして…







パタパタパタ

〈秋!秋どこ!!〉








ニノさんが階段をかけ降りて来た。


お仕事部屋にいるのは知っていた。

でも、そんなに慌ててどうしたのかな?







パタパタ!

〈あ!秋いた!〉



『ニノさん…?』



〈あ!成瀬さんこんにちは!〉



〖お邪魔しておりますニノ倉さん。〗



〈お話中にすみません!でも秋に直ぐに言いたい事があって!〉



〖どうぞ。〗










…なんか、ニノさんが興奮してる?


いつもより落ち着きがないというか…










〈ありがとうございます!という事で秋!〉



『は、はい。』



〈少し遅れてごめん!でもやっと出来たんだ!〉



『え?』



スッ!
〈はいこれ!〉









そう言って目の前に出されたのは、ニノさんに貸しておいてと言われて朝渡した僕のスマホ…


出来た…って何の事?








〈秋!退院おめでとう!はいこれ俺からの退院祝い!〉



『…え?スマホが…ですか?』



〈違う!中身の方!〉



『…え?』



〈秋にって想って作った曲入れといたから聞いてみてよ!〉












……え?