※これは妄想腐小説ですBL要素が含まれます
~間違われた方、苦手な方はお戻り下さい~




























~渉羽side~





惺史君が中に入って10分後…。



爽やか青年の加藤さんが、白い扉の前でスタンバっていた俺に笑いながら“どうぞ”と言ってくれた。







…早く惺史君に追い付きたい。



追い付いて興味の無い惺史君に色々と説明しながら一緒に見て回りたい。


俺が隣にいれば惺史君は少しでも楽しいと思ってくれるかもしれない。

そして、俺がファンの天ノ先生の事を少しでも認めてくれるかもしれない。







……そう思うものの、やっぱり絵の前をスルーする事はできなくて、結局追い付くどころかこうして足を止めて見入ってしまう訳で…。



ここら辺はフライングして1度見てるんだけどな…。






〖ミィ―ァ~♪〗



「ん?そう白い猫だよ。凄いよね…。
写真みたいなんだけどこうやって近付くとちゃんと描かれてるって分かるんだから…。」



〖ミャァ~〗



「ん?可愛い白猫ちゃんだよね。」



〖……ミャゥ…〗



「ん?真空の方が可愛いに決まってる♪」



〖………〗



「あれ?違った?」







真空の言ってる事が俺には分かる訳がなく、適当に相槌をうっていると真空が俺を見上げながら変な顔をした。



……惺史君、真空のこの顔は何でしょう?







「真空…ごめん。俺じゃ役不足だ。」



〖…ミャ。〗







分かってくれたらしく真空がコクン…と頷いてくれた。


……本当にできた子だよ、この子は。







真空のバッグを背中に背負い、真空を前に抱いて絵の道を進む。



画廊の時と同じような造りだからどう進めばいいかよく分かる。

今日は真空も一緒だからブースの前に書いてある言葉を口に出して読んでから中に入っていく。




…気付いた事は、最初から真空の瞳がウルウルとしている事だった。

水分量が多いというよりも、今にもこぼれそうな感じだ。



……感動してるのか?



真空は絵心もあるんだな…流石だ。








真空を見つつ、俺も以前はすっ飛ばしてしまった絵をじっくりと見ていた。








殆どが白猫を描いた物だったけど、中には灰色の子猫と並んでる姿もあった。




何処かの窓から並んで外を見てる後ろ姿とか、毛繕いをしている姿とか…凄く可愛いんだけど、この灰色の子猫って……ブルーに似てる?



いや、考えすぎか。







俺は鹿賀オーナーに言われていた“手”の事も注意深く見ていた。





……似てるか?


手を広げて絵と重ねて見るけど…この手はどちらかというと丸くてなんかぽてっとしてるような…?




……違うよな?






俺が手を出してるとその掌に真空が顔をスリスリとしてきた。







〖ミィ―ァ~?〗







可愛いなぁ~と思いながらその小さい頭を撫でた。




次の絵、次の絵と進んで行くと相変わらずウルウルとして絵を見ている真空だったけど、1匹だけが描かれている灰色の子猫の絵を見てとうとうポロポロと涙を流してしまった。


この絵を見る前に書かれてあった言葉は…


だけど僕は忘れない


だった…。







真空は何を思ったんだろうか。



確かにポツンと描かれている子猫。

寂しそうに俯いている気もする…。




泣いてしまった真空はそれ以上絵を見ようとせずに、背中を向けてしまった。


俺はぎゅっと抱きしめその背中を撫でる事しかできなかった。






……どうしよう……あっ!惺史君!



俺はそのブースを出ると惺史君を探す為に少し小走りで次の絵へと向かった。

だけど、そこにも惺史君はいなくて…真空がチラッと絵を見たけどまた涙が…。





あぁ!惺史君…本当にどうしよう💦





俺は真空の顔を手で隠しながら、また次の絵へと向かった。


君の元へと僕は走る”と“君を守りたいから”と2つの絵を足早に通り過ぎると、次の絵の前には…

ありがとう”と…。





そして、それを俺はつい声に出して読んでいたんだ。


次の瞬間、大人しかった真空が俺の腕から抜け出してその絵の中に入っていった。





入った所で立ち止まっていた真空は絵を見上げていた…。




そこには手で顔を覆う男の人の額に、目を閉じて自分の額をあてている白猫がいた。

その絵の隣には…






僕は君を想ってる
側にいれて嬉しかった
宝物をありがとう
幸せをありがとう

笑っていて…それが僕の願いだから








…これは別れの絵なんだと俺にも分かった。


そして……胸が苦しくなった。



まるで自分の事みたいに思ってしまったからだ…。





いつしか俺も泣いていた。






〖ミャァ…〗






真空がその絵を見ながら小さい声で鳴くと、また走り出してしまったから、俺は目を擦りながら真空の後を追った。




だけど走るのが早い真空には追いつけなくて、次のブースに入っていく真空の黒いシッポを見つけるのがやっとだった。


だけど真空がその中に入って行くと白い布の間からピンクの何かが風に舞って床に落ちたんだ。


俺は、あの最後の絵まできたんだと思った。






この前見た、あのピンクの花びらで埋め尽くされていたあの絵まで…。


あの時は出口から入ってしまったから、こちら側に書かれている言葉は見ていなかった。

走るのを止めて、その書かれている物を見ると…





きっといつの日か…” だった。







……。




俺は白い布を開けて中に入った…。



中に入るとピンク1面の床に真空の姿があった。

そしてあの絵を見上げて涙を流していた。





切なくて、悲しくて、苦しくなっていた俺は、真空を抱きしめてあげたいのにそれをしていいのか戸惑っていた。



涙を流す理由を聞いてあげたい。

“大丈夫”そう言って背中を撫でてあげたい。



…だけど、その2つとも俺には出来ないんだ。





真空から話しを聞く事も、何をもって“大丈夫”と言ってあげられるのかも分からない。

さっきみたいに適当な事を言える状況じゃないんだから…。




真空…ごめんな。

俺じゃ何もしてやれない…。






『渉羽君…?』






出口の方へと続いてる場所から入ってきたらしく、俺が探していた人がやっと来てくれた。






「惺史…君…」



『うん。』



「真空が……泣いてしまって…」



『うん。』



「俺じゃどうする事も出来なくて……」



『簡単だよ。抱っこしてあげたらいいんだ。』



「だけど…俺じゃ役にたたない。
真空の話しを聞いてあげる事も…言葉をかけてあげる事も…何も…」



『言葉はいらないよ。
言葉がなくても想いは届くから…。』



「……」



『渉羽君が真空にしてあげたい事を、してあげて?』






…惺史君の言葉は魔法みたいで、俺は言われるがままに真空に近付いた。

さっきまではあんなに動くのを躊躇っていたのに、それが今はない。



俺は真空の隣に膝をつくと、両手を前に出して真空の名前を呼んだ。






「真空…俺の所に…来て?」






ピクッ!と、なった真空はウルウルしてる瞳でゆっくりと俺を見ると……






〖ミィ―ァ!〗






そう鳴いて俺の腕の中に跳びこんできた。


俺は何も言わずその小さい体を強く抱きしめた。




優しく、優しく…それだけを考えて真空の背中を撫でていると、落ちついたのか腕の中で真空がゴソゴソと動き出した。


そして、ピョン!と耳が腕から出ると続いて可愛い顔も出てきて俺と目があった。


どうやら涙は止まったらしい…。






『フフ。』



「あ、惺史君…」



『ねぇ渉羽君?そのまま真空を抱っこしたまま聞いて?』



「え…?」






立ち上がった俺の隣に来た惺史君は、真空の頭を撫でると、視線を絵の方へと移した。


俺はそんな惺史君の横顔を見ていると、惺史君は話しを続けた。






『…俺ね?もう嘘がつけないんだ。』



「……は?」



『だから、何かを隠したい時には話さないっていう選択肢しかないんだけど……』



「……ん?」



『誤魔化したりは出来るんだけどそれだとこれから先…きっとお互いに困るなって思って。』



「…えっと、惺史君?ごめん話しが見えないんだけど?」



『…渉羽君、真空を好き?』



「勿論!」



『俺も好き。』



「ん?知ってるよ?」



『……渉羽君より…大切なんだ。』



「え?」



『…俺には真空が1番大切で、優先したいのも真空…なんだ。』



「……え?」



『……。』



「えっと…ごめん。やっぱり意味が分からないよ。」



『……』



「惺史君?それがどうしたの?
そんなのは分かってるんだけど…?」



『え?』



「え?」



『いいの…?』



「良いも何も、それが惺史君でしょ?
俺は真空を1番に想ってるっていうそんな所も含めて惺史君を好きって言ってるんだから、正直…今更どうしたの?ってちょっと思ってるんだけど…?」



『……』



「え…?俺、なんかマズい事言った?」



『……ううん。そっか…』



「さ、惺史君?」



『……フフ♪渉羽君好き。』



「なっ///////!
ちょ、それ今言うの反則だから/////!」



『フフ♪』



「もぉ!惺史君///// 
…でも急にそんな話ししてどうしたの?何か不安な事でもあった?」



『…俺、真空を優先させちゃうから…そのお店とかにはあまり行けない。
真空と一緒にいたいから、真空がいけない場所には行きたくないんだ…。
それで、渉羽君が___ 』



「ごめん!それは俺が悪いんだ!俺の考えが足りなかったんだ!
真空が猫なんだって忘れてたというか、一緒に行けると当たり前に考え過ぎてて…本当にごめんね?
今度はもっとちゃんと調べてから、3人で楽しめるデートにしようね?」



『……今日も楽しいけど?』



「…あ、でもほら…惺史君はあまり絵とかに興味が無かったんじゃない?
俺が凄いファンだから、惺史君にも…って思って誘っちゃったけど、惺史君に好きかどうか聞かなかったから…。」



『…好きってこの絵を?』



「う、うん…。
俺は先生の画集を毎日見てる位ファンだし、この絵だって泣いちゃうくらいだし、欲しいって思っちゃうくらいだけど…」



『……この絵、そんなにいい?』



「なっ!……いや、うん…。
価値観は人それぞれだろうけど…あまり先生の事を悪く言わないでくれると有難いかな…?
最近ファンになったばかりの俺が言うことじゃないんだけどさ…。」



『……絵は好きだよ?この絵も勿論気に入ってる。
だけど渉羽君が先生と呼ぶ “天ノ御空” は好きじゃないかな。』







……分かってる。


好みも人それぞれだって…。

だけど、やっぱり好きなモノを否定されたように言われると…こう……モヤモヤする。



それも大好きな恋人だから尚更強く言えなくて余計モヤモヤする。


これが惺史君じゃなかったら、確実にキレてる。

何も知らないくせに!と言って画集を見せてやりたくなる。




……だけど、惺史君なんだよな。




はぁ……。







『…ごめん。
そんなガッカリさせるつもりはなかったんだけど…』



「…いや、いいんだよ惺史君。
好みは人それぞれなんだから…。
ただ、ちょっと残念だなって思って。
惺史君も先生の作品を好きになってくれたら、一緒に画集を見たりして楽しいだろうな…って思っただけだから…。」



『……』



「…はぁ。」



『…この物語…どうだった?』



「……え?」



『渉羽君は気に入った…?』







相変わらず絵を見て話し掛けてくる惺史君。

俺はその横顔も好きだからいいけど、そんな風にじっと見てるなら、天ノ先生が気になってるって事じゃないの?






「気に入るも何も、作品を見て感動しっぱなしだし、さっきも泣いてきたばっかりだよ。
この絵は2回目だから、まだ我慢できてるけど……やっぱり欲しいなって欲がでちゃうかな。」



『……ごめんね?これはあげれないよ。』



「は…?」



『…たぶん真空が側に置きたいって言うと思うからね。』



〖ミャア!〗



「え…?」



『ほらね?』



「は…?え?……は?何?」







俺が意味が分からなくなっていると、俺の腕の中から出てきた真空が惺史君に向かって、前足を伸ばした。


気付いた惺史君が真空を持ち上げて抱っこすると、真空は直ぐさま惺史君の首元にスリスリとしていた…。





……あ、そういえば惺史君と一緒だったはずのブルーがいないな。




…って、そうじゃなくて!!







「惺史君?」



『なに?』



「今…“あげれない”って聞こえたんだけど……?」



『あぁ、うん。ごめんね?』



「……」



『この絵は真空の絵だから、真空が欲しいって言ったら家に持って帰るつもりだったんだ。
…だから渉羽君にはあげれなくてごめんね?』








…ちょっと、整理させてもらっていいかな?


いや、でもその前に……






「惺史…君?惺史君が……この絵を描いたの?」



『うん。』



「惺史君が……天ノ御空…先生なの……?」



『…だから、先生呼びは嫌いなんだってば。』



「っ!?」



『渉羽君、先生はやめてね?』







取り敢えず、取り敢えず……






「えっ――――!!!?」






叫ばせてもらっていいかな?




って、もう叫んだ後だけどね……