※これは妄想腐小説ですBL要素が含まれます
~間違われた方、苦手な方はお戻り下さい~





















慧翔はデレデレした顔で腕の中にいる智仁をみつめ続けていた

その後ろの方では舌打ちとそれを宥める
“まぁまぁ”という声…そして誰もが羨ましく、嫉ましそうに慧翔を眺めている中、章和がツカツカと歩いて側まで行くとスパーン!と軽快に慧翔の頭を叩いた…






「痛っっってぇな!急に何すんだよ章!」


慧翔が叩かれた頭を擦りながら章和に振り返り恨めしそうに睨みつけた。

だが、慧翔は直ぐに失敗したと思った…

そこにはジト目で冷ややかに見下ろす章和が立っていたからだ…
思わず慧翔が“ゲッ”と呟いたが、無意識であった…






「いい度胸ですね?しまいにはゲッ…ですか慧さん?」


「えっ!?俺、そんな事言った?」


「確かに言いましたよ?自覚なしですか?
はぁ…取り敢えずトモ君を離してくれます?」


「え…………やだ。」


「はぁ―――?やだって何ですか?
トモ君を抱きしめていいなんて誰が言ったんです?
誰も許可してないでしょう!早くその手を離しなさいってば!」


「なんで章の許可がいるんだよ!?
お前だってさっき散々抱きついてたじゃないか!」


「私はいいんです!私はちゃんと認められてますから!」


「誰にだよ!?つうかなんで許可制なんだよ!
そんなん関係ないだろ!」


「…ほぉ―。そんな事言っていいんですか?
知りませんよ?私が助け船出してあげたのに無下にするなんて……。」


「そんなん願ってねぇわ!」


「…そこまで言うなら仕方ないですね。
じゃあ慧さん覚悟はいいですか?」


「はぁ?」


「…私、ここから離れますから…ね?」

章和はそういうと慧翔の肩にポンと手を置いて、意地の悪い笑顔を見せるとチラッと後ろを見た。

その視線を慧翔も辿ると、部屋の入口で此方を見ている一団が…。
その事に漸く気づき、章和の言葉の意味を理解した慧翔は離れようとした章和の服の裾を掴んでいた…






「…なんです慧さん?私の進言を無視したんですからその覚悟なんですよ…ね?」


「無理無理無理無理!」


「無理なんて今更でしょ?さっきから散々トモ君に触りまくって挙げ句の果てには抱きしめたんですからね~」


「ごめんごめんごめんごめん!!」


「今更謝ってもね~?私は百歩譲って見逃してあげてもいいですけど、あちらさん方が…何て言うか…ね?」


「いや!本当にごめん!つうか忘れてました!
申し訳ない!調子にのりました!すみません!」


「…さっきまであんなに感動する言葉を言っていたのに……今じゃこれですか?」



章和が “これ”と言ったのも無理はない…
今、慧翔はベッドの上で正座して章和と章和の後ろ、入口に立つ凄い形相の一団に向かって土下座していたからだ…

中でも松丘の形相が1番慧翔には鬼気迫っていた。
今は東矢間に宥められ渋々その場に留まってはいるが、このまま章和が離れたら絶対に殴られる勢いだと感じ身震いしていた…


忘れていた…
正直本当に慧翔は他の人の存在を忘れていたのだ…
慧翔も慧翔で向かい合う智仁しか見えていなかった。
いや智仁がいるのに他に目をやるなど考えてもいなかったのだ…

自分が何を言ったのかは覚えている。
だが、自分がどんな顔で智仁を見ていたかは分からない。
でも安易に想像できてしまう自分は、デレた顔をして自分の世界を作っていたんだろう…という事を松丘達の形相を見て一瞬で判断した結果が、この、土下座だった…

皆か本当に心配しているのに、それを無視し自分1人だけ話し盛り上がってしまった結果、皆の前で抱きしめてしまった…

自分はしたくてした。
というかほぼ身体が勝手に動いていた。
だが、智仁ファン達は一筋縄じゃいかないくせ者揃い…何をされるか……
どうか穏便に事を済ませようと慧翔は下げた頭をあげずに、ひたすら願っていた。

頼りの章和の服は離さずに……





その隣で突然の土下座をした慧翔を呆然と見ていた智仁だったが、さっきからずっと気になっていた事があった。
それを確かめたくて土下座を続ける慧翔の腕を手で掴んだ。


その事に気付いた慧翔がハッとして顔をあげると智仁の方に身体ごと向けた…


智仁の視線は慧翔の顔ではなく、慧翔が着ているスーツの胸元に向いていた。
慧翔も近くにいた章和も不思議そうに智仁を見ていた…

すると、智仁の掌が迷うことなく、慧翔の左胸に押し当てられた。
それは優しく包むようにそっと…


そして懐かしむように目を細め…






『…鎮守様………』

切なさを含んだ小さい声で呟いた…


章和はえっ?と驚いた。
その名を以前智仁から聞いた事があったのだ…
だが、その時に智仁から聞き出せたのは、慧翔と笑った顔が似ているという事と、その正体がどういう訳か、櫻庭ホテルの庭にある木だという事。
俄には信じられない話しでも、智仁が言う事なのだから…と、疑うことなくまるっと信じた章和だった。

その鎮守様がなぜ今?と章和が思っている隣で、慧翔は突然の事に驚いたのだろう。
意味なく目を泳がせている。
だが、思い出したように あっ!と声をあげ、スーツの左胸の内ポケットに手をやり、中から何かを取り出すとそれを智仁に見えるように翳した…






「…もしかしてこれの事かな?」


『…うん……これは鎮守様の葉…。どうして櫻庭さんが持ってるの?』


「御守りだよ!」


『…御守り…?』


「そう。実はこれは清雅がくれたんだ…」


『…所長…さん…?』


「うん。此処に来る前に俺、ホテルにいてその時に清雅から電話で庭園に来るように言われたんだ。
でも急いでいるから断ったら、こないと後悔するって、大澤君の為になるからって言われて俺は急いで向かったんだ。

実は俺、あの庭園で唯一入れない場所があるんだよね…。
でもそこで清雅が待ってるって言うから行ってみたら、何故か今日は入れたんだ。

驚いたよ。
いつもは電話も通じない場所なのにその時だけは電波も繋がるし、俺でも入れるなんて…」


「えっ!?そんな場所があの庭にあるんですか?」

章和は驚いて慧翔に聞いた






「あぁ。あの1番大きな木がある処だ。
あそこは以前の森の跡地でそのまま現存している場所なんだ。
何故今日に限って近づけるのか不思議に歩いていると、その木の下に佇む清雅を見つけた。

清雅は俺が声をかけると、この葉を俺に渡してきた。
これを持って大澤君の所に行くと良いって。

俺は清雅にこれから行く事なんて話してないのに…何故知ってるんだ?って聞いたら、
“この木が教えてくれた”って言うんだ…」


「…え?」


「ハハ。俺も今の章と同じ顔したよ。
お前大丈夫か?って聞いたら清雅は苦笑いしながら、
“そんな事言うと慧ちゃんもっと嫌われるよ?”
って言うんだ。

流石に意味が分からなくて本気で清雅が心配になっていたら、今度は真剣な顔で、
“この木の葉を持って大澤君の処に行って?
大丈夫。きっと慧ちゃんの声は届くから”って、
“その葉が大澤君を光で照らしてくれるから”って…」


「相田さんがそう言ったの?」


「あぁ。ハッキリとな…意味は正直分からなかった。
今でも分からないけど、大澤君の名前を聞いたら受け取らないわけにはいかないだろ?
だからポケットにしまって、御守りは大事にするからって清雅に言うと、
“その葉があればきっと大丈夫だから”って手を振って見送ってくれたんだ。
それからかな…。
なんか自信というか、冷静でいられたっていうか、あぁ。大丈夫なんだって安心感が湧いてきたのは…」


慧翔はそう言いながら指で挟んだ葉をクルクルと回しながら見ていた。


その葉は青々としていて、灯りがともされた室内にいても、まるで太陽に照らされているかのように光り輝いて見えた。

章和も慧翔もまじまじとその不思議に光る葉を見つめていると、智仁がその葉を慧翔の指ごと両手で優しく包むとその手に額を当てて泣きながら
“鎮守様” と震える声で言った…


すると智仁の手で包まれている葉が一層輝きを放った。
慧翔と章和が驚いて目を見開く中、その葉は智仁の手の中で脈打つかのようにゆっくりと光を点滅させた…

そして2人は不思議な聲を聞き更に驚いた…






……智仁 


『はい……鎮守様…』


その聲が誰なのか直ぐに分かる智仁を2人はバッと同時に見た。
だが、智仁の顔を見た瞬間、2人は声を出すことが出来なかった…

智仁が嬉しそうに微笑んで涙を流していたからだ…
まるで愛する者の聲を久しぶりに聞く事が出来、喜んでいる…。
誰もが美しいと声を揃えて言う程の表情を智仁がしていたからだ。

そしてとても神聖なきがして、口を出すことを憚られる感じがした。
2人は口をつぐみ静かに成り行きを見守る事にした…
 





ワタシの愛しい仔  漸くお前の本来の声が聞けたな  


『……はい…』


ワタシが送った光は届いたのだな?


『…はい………温かかった…とても……』


それは良かった  ではなぜまだ泣いているのだ?


『…だって………』


ワタシはお前に泣かれるのは困るのだよ?


『…でも………涙が…止まらない……』


ワタシは此処から離れられない  
今はお前を優しく抱きしめてはあげられないのだよ?


『…はい……分かってます………でも……』


分かっているのなら良い 
では智仁ワタシの元へおいで?


『…え……?』


ワタシの側でなら好きなだけ泣かせてあげよう  
それなら心配は無い  思う存分泣いてよいぞ?  だが終わったらまたあの笑顔を見せてくれるか?  
ワタシはお前の笑った顔が愛しくて堪らんからな 


『………鎮守…様…』



智仁   皆 お前の帰りを待っているのだ  
此処でお前を待っている
我らは動けぬ  ならお前が来るしかあるまい?


『………はい…』


智仁ワタシと約束をしておくれ?
生きて此処に戻ってくると
そして元気なその姿を我らに見せると 


『……鎮守様………』


生きる  とその声で聞かせておくれ?


『…………生きる………生きて鎮守様に…皆に会いに行く…』


ああ  待っている
ワタシは お前の帰りを待っているから


『……はい……待ってて…鎮守様……』


智仁  ワタシの愛しい仔………




その言葉を最後に葉は光る事をやめた…

智仁は“鎮守様”と呼び続けながら嗚咽していた…
その肩を右と左から優しく抱いたのは慧翔と章和だった

鎮守様の聲はどうやら、3人にしか聞こえていなかったようだ…
何が起こったのか分からない松丘達がオロオロとしていたからだった…



智仁と2人にしか聞こえない特別な聲…
それは特別なようで、特別では無かった。
確実に絆が出来ていたという証拠だったからだ…


鎮守様は智仁に聞こえるように聲を届けた。
そして更に智仁を想い、智仁が自ら絆を繋げた者にも聞こえるようにしていた。


智仁を心から想い、その気持ちを智仁も受け取り絆を持つ事を許した相手なら、智仁の気持ちを聞かせて安心させてやろうとした、鎮守様の計らいであった…


そうとは知らない2人は、不思議な体験をしたと夢ではないかと思っていた。

でも智仁が漸く口にした“生きる”という言葉を心待ちにしていた2人は、鎮守様に感謝するのと同時に、自分達が出来なかった事をたった葉1枚にやられたのかと思うと複雑な気持ちでもあった…


章和は、智仁の中で鎮守様という余りにも大きな存在に興味が湧き、出来るなら会ってみたいと思っていた。
そして、智仁が言っていた慧翔に似た顔を拝んでみたいとも……


逆に慧翔は闘志と嫉妬が勝っていた。
自分以外に智仁をここまで泣かせる相手、聲だけで安心させる相手、そして生きたいと言わせる程の存在に…
慧翔は鎮守様を自分のライバルと勝手に決め1人で闘志を燃やしていた…



だが2人は同じ事も思っていた。
それは不思議な体験で聞いた、あの鎮守様の聲は智仁への慈愛に満ち溢れた聲だったと…

そして今はその鎮守様を想って泣く智仁を、泣き止むまで優しく見守ろうと2人頷きあって、どちらからともなく微笑みあった……