※これは妄想腐小説ですBL要素が含まれます
~間違われた方、苦手な方はお戻り下さい~





















~智仁side~



僕はよく夢を見る

見たくなんてないのに…
忘れたいのに、忘れる事を許さないかのように夢は僕に付きまとう…



見る夢は大体決まっている
想い出したく無い過去の記憶…
それがランダムで再生する……

最近はずっと同じ夢…
理由は分かってる
会いたくない人に…会ったから…








あの暗い部屋に閉じ込められて、外の世界から遮断された生活が何年も続いていた
もう、慣れた…というか、そこに居ろと言われたから、その言葉に従っただけ…
僕に拒否権は存在しないから…


そんな時に現れた男…
新しく身の回りの世話を任されたと言ってやってきた
名前を近藤と名乗った


初めは優しかった
優しい言葉と柔らかい笑顔…心配していると言った時の僕を見る眼差し


僕を気味悪がらない初めての大人
そんな人は初めてだったから
嬉しかった…

僕は徐々にその人に打ち解けていった

誰かと会話する事を禁止されていたけど、その人は外で何があったのか楽しそうに笑いながら教えてくれた
僕もそれを楽しく聞いていた


僕がつい喋ってしまっても怒らずに、もっと話していいと言ってくれた…
そんな2人だけの時間が続いていた


僕は本当に楽しかったんだと思う
その人が来てくれるのを待つようになったし、久しぶりに会話が出来て笑う事も許されたから…



初めて近藤とあって1年が経とうとした時、それは起こった……







信じていたのに

此処から連れ出して、外を見せてくれるって言ったから
その言葉を信じていたのに…

裏切られた



初めからそんな気などないと笑われた

忌み嫌われた憐れな子供に優しくして懐かせてからどん底に突き落とす…
その時のお前の顔が見てみたかったんだ…と
勝手に信用して騙されたお前が馬鹿なんだと言われた…


僕はその時どんな顔をしていたんだろう…?
でも楽しそうに笑っていたから
お望み通りの顔だったんだろうな……




信じたかったのに…
僕を人として見てくれた大人を信じたかったのに…

僕が13歳のその日…
裏切りと絶望と苦痛を味わった


その日言われた言葉…
その日の痛みや恐怖は、何年経っても僕を苦しめる
忘れたいのに…
無かった事にしたいのに…
決まって夢に現れる…
人を信じるなと言いたいかのように定期的に…



その過去を夢に見て目が醒めると、僕は絶望感に襲われる…
そしてそんな事から早く抜け出したい、考えなくなりたい…
早く僕を終わってしまいたい…
それだけに囚われる…


そう、今みたいに……






目を開けると知らない天井があった
身体を起こすと…やっぱり知らない部屋
明るい方を見ると窓があった
気付いたら窓の方に足が向いていた
太陽の光が差し込み、温かい……


やめて欲しいと思った…


絶望感に陥っている今は正直、見たくなんてなかった
終わりを望んでいるのに、それなのに…

青い空が窓の外に広がっていたから…


つい時間を忘れて眺めていたくなってしまう…
大好きな空の、訪れるであろう色のコントラストをまた見たくなってしまう…

望んではいけないのに…
僕の望みは…ただ一つだけ……なんだから…



僕はカーテンを締めた
見たらダメだと思ったから
薄暗くなった室内…
でもこれでいいと言い聞かせて、一つだけある扉を開けた



「トモ君!!」



扉を開けると聞いた事がある声が僕の名を呼んだ

見渡せばやっぱりホテルでもなく、あの屋敷でもない…
此処はどこ?
それにどうしているの?
その人達は…?


そう思っていると二條君が僕の所まで走ってきた
目の前で止まると、僕をジッと見つめてくる
何も言わず…
でもその目に涙を浮かべて今にも溢れそう…

どうしたの?
どこか痛いの?
悲しい事があったの?
そう思っても、二條君は何も言わない…

あ、そうだった…
僕、声にだしてなかった



『どこか…痛い…の…?』



声を出して聞いてみた
でも二條君から応えはない
口を結んでしまったから…
でも涙はとうとう溢れてしまった

その涙を拭う事もせずに相変わらず二條君は僕を見てる


こんな時はどうすればいいんだっけ…?

泣いている人がいる時は……
あぁ、うん。そっか…
忘れていたけど、確か…こうやって……



「…トモ…君………」



僕は二條君を抱きしめた
泣いてる人にはこうするって教えて貰ったから…

二條君も僕に腕を回して、今度は声を上げて泣き始めた
何度も僕の名前を呼びながら…
肩が震えていた
具合が悪いのかな?
僕はまた聞いてみた



『具合が…悪いの…?お医者様…に…診てもらう?』



でも二條君は首を振って違うと言った
僕に回している腕に更に力を込めると僕の肩に顔を埋めて動かなくなった…
時々鼻を啜る音が聞こえるからまだ泣いてるよね?
具合が悪い訳じゃないと言ったけど、本当にどうしたんだろう?
やっぱり悲しい事があったのかな?
聞こうとしたけどやめた…
聞いた所で僕にはどうする事も出来ないだろうし、余計なお世話だと思ったから……


動けないまま見える範囲で辺りを見わたすと、何処かのお家みたいだった…
さっき見た窓からの景色は地上から離れていたから、マンションの一室なんだろうけど…

やっぱり僕の知らない所だ

本当に此処はどこなんだろ?
僕はホテルのエレベーターを待っていたはず…
それなのに此処はホテルじゃない…

頭がボーとしていたのは分かるけど、歩いて向かった事も、あの時待っていた事も覚えてる
でもその後の記憶が……


そんな事を考えていると、ある視線に気付いた
そっちを見ると僕達を見ている2人の男の人…
1人と目線があった…

あれ……?

この人知ってる……
隣の人も知ってる…
それに何処かで……会ってる?
どこで………?

想い出せそうで、想い出せない……

そんな時、ずっと動かなかった二條君の腕の力が弱まったのに気付いた
それに声ももう聞こえてこない…
僕は聞きたかった事を二條君に言ってみた



『ねぇ…此処は…どこ?』



二條君は僕の声にバッと顔を上げて僕を見た
目が潤んでるし赤い…
表情もまだ暗い…?



「…此処はマンションの一室です」



…うん。マンションは分かってるんだけど



『どうして…僕は…此処に?』



ホテルに居たはずなんだ
これから先生と呼ばれている人に会うから



「……今日から此処がトモ君の家だから 」



……?
よく分からない
僕に家と呼べる処は確かに無いけど、でも此処は違うと思う
だって1度も来たことも無いし、それに…もう家なんて物は僕には必要がないものだから…



「トモ君の部屋はさっき出てきた所だよ」



……僕の部屋?
二條君は何を言っているんだろう?



「トモ君は此処で暮らすの。俺の部屋はトモ君の隣だから用事があったらなんでも言ってね?」



…此処で暮らす?
二條君…と?



「当分の間は此処に居ると思う。でも移動しなきゃいけなくなるかもしれない…今はまだ大丈夫だと思うけど。でも安心して?その時は俺も一緒に付いていくから!トモ君の側にいるから!」



……当分?……安心?
…やっぱり二條君の言っている事は分からない
僕には行かなきゃいけない所があるんだよ?
一緒になんていられないし、当分って言うほどの時間なんて…もう…無い………

あっ!

そうだ時間!
今、何時?
時計を探して見ると、壁に掛かっていたその針はもう少しで4時を指そうとしていた…
ホテルでの待ち合わせは午後1時だった
それから3時間も経っているの…?

……嘘…でしょ?

…行かないと


僕は歩きだした
たぶん位置的にあそこに見えてる扉の先が玄関
そこから外に出て……

っ!?

…行かないといけないのに
どうして?どうして邪魔するの二條君?



「ごめんトモ君…」


『…どうして?』


「出たらダメなんだ…」


『どうして?…僕…行かないと』


「行かせられない 」


『どうして…そんな事…言うの?
僕が行かないと………え?……僕…どうやって…来たの?…ホテルに居たよね?
…でも今はここ……僕1人では…これるはずない…だって…』


「…そう。トモ君を連れ出したんだ 」


『…え?…そんなの無理だよ…だって…』



…だってそうだよ
僕の側には2人も付いていた
僕に自由なんて無い
それに…僕を逃がす筈も無い



「…2人が見張るように付いていたんでしょ?
知ってるよ…」


『……どう…して…』


「聞いたから…。その2人を掻い潜るようにトモ君をホテルから連れ出した。
全部計画してたんだ。あの日、あの時間にトモ君があそこに現れるのを知っていたから…トモ君を連れ戻したかったから…だから俺達は……」



二條君の顔が険しい
…計画してた?
…僕を連れ戻す為?
…俺達?
分からない…分からないよ…
どうしてそんな事するの?
どうして!
僕はそんな事望んでない!


僕は二條君の言っている事が分からなくて、それでも僕が居なきゃいけない場所は此処では無いという事は分かってるから、取り敢えず此処を出ようと思った…
行かなきゃいけない…
だから駆け出そうとした

したのに…

今度は後ろから腕を捕まれて前に走り出せない…
振り返るとさっきソファーからこっちを見ていた1人が僕の腕を掴んでいた

逆の手で振り払おうとしたのに、その腕も、もう1人に掴まれて身動きがとれない



『離して……』



そう言ったのに2人は首を横に振るだけ
手を引こうとしてもビクともしない…
どうして?



『離して…僕……行かないと』



そう言って腕を動かすけど、2人はやっぱり首を横に振るだけ
何も言わない…
でも…その顔は二條君と同じだった
今にも泣きそうな…そんな悲しい顔……

どうしてそんな顔するの?
僕は行かなきゃいけないのに…
行きたいだけなのに……

どうしてそんな顔で僕を引き止めるの…?
悲しそうな顔…

僕が……させてるの?


分からないよ…




違う……
分かりたくない…
知りたくない…
知らない方がいい…

僕の中でそう…叫んでる

分かったら…怖い
知ったら…怖い

怖い…?
何が…?






ダメだ…答えなんていらない
考えたらダメなんだ…
僕が望む事は一つ…
ずっと待ち望んだ事だったはず
その為に僕は生きている
生かされてきたんだから……



だから早く此処から出ないと…
余計な事を考えてしまいそうになる
だって………此処は……

……怖いから……





腕を何とか2人から離そうと藻掻いていると、後ろから二條君の腕が伸びてきて僕の顔を固定するように回された
そして手で顔を傾けられると、晒された首にチクッとした痛みがはしった…



『ぅっ!』



そして耳元で



「ごめんね…トモ君……」



二條君の泣きそうな声が聞こえてきた…

何をしたのか聞きたかった
何がごめんなのか聞きたかった…
…でも身体の力が抜ける感じと共に、目の前が真っ暗になってしまった……