※これは妄想腐小説です※
~間違った方、苦手な方は戻って下さい~





















~智仁side~


車が角を曲がりちょっとした坂道を登っているのを感じた…


その振動に以前会社の送迎車に乗って通っていた時のことを思い出して、震えが更に強くなった…

それに呼応するように腕を掴む手にも力が入っていた…




程なくして車が静かに停まった…




僕は目を閉じたままだった…




副社長と社長の視線を感じる…

でも目を開けたくない
開けるのは怖い…



だって僕は此処に来ちゃいけないから…






「…智仁。着いたぞ 」



社長が僕の震えたままの肩に手を置いた



その言葉に漸く僕は目を開けて社長に振り返った
でも、口が動かない…





ここが何処なのか僕はもう知ってる…

前まではここに来るのが楽しみだった
今でも無性に来たくて…会いたくて…それでも来ちゃいけないから我慢してたのに…



どうして…






「…すまない智仁。でも大事な話があって此処に来るしかなかったんだ 」



でも僕が此処に来れなくなったのは社長も知ってるよね?
理由だって…迷惑をかけるからちゃんと正直に言ったのに…それなのに…どうして僕を…


僕は震える両手で社長の腕を掴んだ







「…黙って連れて来たのは悪かった。
でもお前は先に言ったら一緒には来てくれなかっただろう?
…でも、これだけはハッキリしている。
今日、此処で話す内容で会社のこれからも左右される。それにはお前がいてくれないと困るんだ…」



「…大澤君?場所はホテルの中にある会議室なんだ。庭からは反対側で見えない。
それに、ちゃんと周辺も調べているから君が危惧する事は起きない。これは保証するよ。それと…君には気が重いかもしれないけど、社長の言った通り会社の為なんだ。どうか分かって欲しい…」



社長はまだ震えてる僕の手に手を重ねて言う

副社長も困った顔で僕の顔を覗き込んでる

どちらの声も優しく僕に問いかけてる





社長も副社長も狡いよ…。


会社の為って言いながら、そんなに優しく言われたら僕にはどうする事も出来ないよ……

僕には恩しかないんだから…







「…すまない智仁。ありがとう。じゃあ行くぞ?直ぐに終わらせて…帰ろうな…?」



僕は頷くしかなかった。

気が重い……それ以上に不安が押し寄せてフラフラする…脚に力が入らなくて倒れそうだ…


車から降りて既に蹌踉けてしまった僕を副社長が支えてくれた

社長も心配そうに黙って見てる……



ダメだ…また迷惑かけちゃう
迷惑しかかけてないのに……


早く行ったらその分早く帰れる。この場所から離れられる…だからしっかりしなきゃ……



僕は副社長に大丈夫と目で言って、社長の元へと歩いた

前には社長、後ろには副社長。間に挟まれて隠れるように歩きその会議室に向かった





辿り着いた会議室は僕も何度か掃除を担当していたから懐かしさもあった

その前まで来ると僕達を入口から案内してくれていたスーツの男の人がノックをしてから扉を開けた


最初は社長、その次に副社長が入って。僕は少し入るのに躊躇ったけど扉を開けて待っているスーツの男の人に促されて中に入った




中に入ると坂元支配人がいた。他にも見たことがあるホテルのスタッフの人が2人…
あとはスーツ姿の人。
知らない人ばかりで萎縮してしまう。


…どうして僕を見るのかな?
社長達の中に明らかに場違いな僕が入っているから…?
その視線が痛くてちょっと俯いてしまう……




そんな時、副社長が僕に小声で教えてくれた






「あそこ…坂元支配人の隣に立ってる若い人分かる?あれが櫻庭 慧翔(さくらば けいと)。
このホテルの経営者、櫻庭家の三男だよ 」


その副社長の声に僕は顔をあげて見た

会った事もなければ見た事もない。
でも、短期間しかいられなかったとしてもお世話になったホテルの経営者なのだから挨拶しなければ…
そう思って見たけど………





……ビックリした。





だってその顔は鎮守様とソックリだったから……



違うか…鎮守様が人間の真似をしてるって言ってたから、こっちが本物か…

本物なんて…まるで鎮守様が偽物みたいに言っちゃったけど…
鎮守様はちゃんと居る。

あの庭に行けば、あの顔で優しく話しかけてくれる。
いつも僕に微笑んで…………






会いたいよ…鎮守様にも、桜のおじいさんにも…


ダメだって分かってるのに…
行っちゃいけないんだって頭では分かってるのに






こんなに近くに来たからなのかな…






会いたい…よ…