※これは妄想腐小説です※
~苦手な方、間違われた方は戻って下さい~























~章和side~





ハァ~。

…チッ。やられた。
あの副社長、完全にこっちを見やがった。
最後のあの言葉は明らかに私に言ってましたしね…

まさか勘づかれていたなんて驚きです。
社長も睨むように終始私を見てましたし…侮ってましたね。あの会社のこと…。
寧ろ怒らせたら怖いのはあの長世副社長の方なのかも…
滅多に表に出ないからリサーチ不足。私のミスですね…

さて、あの手が使えないとなると…作戦変更ですか。
この後に捕まえるつもりでしたが流石に警戒されてるでしょうし…
困りましたね。
ま、諦めませんけどね……。






今の問題は目の前で頭を抱えてるこの人でしょうか…?


先程人払いをした後はずっとこの態勢ですが…何を考えているのか、顔が見えないかハッキリとは…



悩んでる?何を…?



まさか、さっきの長世副社長の言葉に…?



ハァ~。こういう時に頭が良すぎるのってのも考えものですね…

たぶん今、慧さんの頭の中では5日間で、どうやってTOKYOクリーンサービス並の会社を探し出すか…って悩んでるんでしょうね…


馬鹿ですね…ありませんよ?そんな会社。



数社にお願いすればこのホテル位なら何とか出来るでしょうが、相手は櫻庭との契約を打ち切るって言ってるんですから、規模が違いすぎます。
他に委託できる会社なんて無いでしょうに……。



きっと櫻庭社長は事前に松丘社長達から連絡を貰っていた筈。

だから岡多さんがこの場にいた。

そしてその時に何かを交わした筈。






慧さん分かりませんか?

猶予、チャンス、時間。そう言っていたじゃないですか…



櫻庭とは古い付き合いの松丘社長達も、櫻庭社長からお願いされたら無下に出来ませんよね…

だから慧さんの動きを待った筈。



それでも慧さんは話し合いと言いながら、相手を罵倒し問い詰め、最初から決めつけた…

言われた方はよく耐えていたな…と正直、私ならキレて言い返していた。


ああ、あの人は話せないんでしたね…
話せ…ない………?
なんだ?何か引っ掛かる………何に……?







熱くなると周りが見えなくなる慧さんだから、両隣りに座る2人も見えてなかったんでしょうが……

誰もが2人の気迫に押され怯えていましたよ?



そんな慧さんだから2人はもう我慢の限界だったんでしょうけどね……








ねえ慧さん気づいてませんか?



相手から確実な証拠を見せられ、新たに特徴まで教えられ、あなたの考えがキッパリ否定されたというのに……



あなたは1度もあの人に謝罪していないんですよ……?



長世副社長が言っていた若いから…という言葉。


若いから誰でも熱くなる。間違いも侵す。それでもチャンスを与えてあげてもいいと考えた先にあなたの謝罪があったら?


それで今回の件は全て治まった筈ですよ?

きっと、櫻庭社長との間にもそんな事を交わしたんじゃないですか?





あなたが発した言葉は辛辣で自分勝手でしたが、それでも相手側はあなたの謝罪があれば…
と大人の対応をした。最大の譲歩をあなたは見逃した……



ここで悩んでるより、直ぐに追いかければまだ良かった筈なのに…既に選択を何個も間違えている…






これは…助言するべきなのか?

全てを知っている岡多さんが敢えて放置した…
という事は自分で気づかなきゃダメということか……


櫻庭社長も慧さんの性格を知っているから、何も言わないのかもしれない。

寧ろ慧さんから連絡したら早い気がする。




でも…頑固だからなこの人。自分が発案した事だから今回の件も誰にも頼らずに内密に動いていた…勿論社長にも言ってないんだろう。


私だって1人では無理な時は人を頼るのに…


ほんと、融通がきかないんだからこの人…






言うべきか……言わずに黙っておくか……






ハァ~~。
そんな項垂れないで下さいよ…。


…まっ、私の行動があっちの怒りに更に拍車をかけたとなったら後味悪すぎますしね。








「慧さん!……慧さん!!」


「…なんだ章、お前…まだいたのか…?」


「ずっといましたよ!」


「…そっ…か…」

やめてほしいですね。………その泣きそうな顔…






「無駄ですよ慧さん 」


「…はっ?…何が…?」


「他の業者では全てを賄えませんから!」


「__っ!!お…前…なんで…」


「私に…それを聞きますか?」


「俺の顔を…詠むなよ…」


「今回は顔じゃなく背中ですけどね?」


「せ、背中も詠むなよ…」


「ハァ~~~。」


「な、何だよ?俺、今お前の相手できる程の元気ねぇよ…」


「…でしょうね」


「だったらそっとしててくれよ…」


「無理ですね。」


「何でだよ!」


「私が困るからですよ。あなたがそのままでは私の計画が崩れる!」


「し、知らねえよ…それに、あの人……」


「大澤 智仁ですか?」


「…そう。俺、話せないとか知らなくて…」


「…私は知ってましたよ?」


「はっ!?なんで言ってくれなかったんだよ!」


「…なんて言うんです?
寧ろ、一時はここに出這入りしていた人間なんですから慧さんの方が知っていないといけない筈でしょ?」


「…そうだ。俺は知ってなきゃいけなかった…」


「ホテルで働く従業員は知っていたみたいですね?坂元支配人も言っていたし。
なぜ、相談しなかったのですか?聞いていれば間違わなかった筈ですよ?」


「…俺が焦った。いや、焦ったのもあった。
でも、信用を…少し無くしていたのかもしれない。」


「…犯人を易々と入れた事?それとも自分が大切にしてきた庭の異常に直ぐに気づけなかったホテルの人達に?」


「…どちらもだ。だから本社の俺の部下を中心に内密に進めた。それが間違いだった。」


「誰も責められませんよ?そんな事をする人間がいるなんて普通気づきませんし、花が枯れてしまうのにもそれなりの時間を要した筈。直ぐに気づくなんて不可能でしょう?」


「周りが見えて無かった。
俺が熱くなりすぎたせいだ。態度にも出てたんだろう。ホテルに来ると皆ビクビクした態度だった。だから余計胡散臭く感じて、あの時の言葉でさえ俺は勝手に関係ない事だと決めつけていた。

皆には、すまない事をした…。ここで働く人に少しでも疑心を抱くなんて…俺は櫻庭の人間失格だな……」


驚いたな…。あの慧さんが悪いと直ぐに口に出すなんて。
でも、違うんだよ?そこも大事だろうけどもっと優先しなきゃいけない奴がいるだろ?






「…長世副社長の言葉が大分効いていますね?」


「あ?ああ…。あの人の言葉は…事実だな……」


「怖かったですよね?声を荒げた訳でも無いのに、それでも怒りを含んだ冷たく刺さるような声 」


「ほんとだな。章なんて可愛い方なんだって実感したよ…」


「私は慧さんには手加減してますからね…それに私は言葉は凶器にもなるって知っていますから…選んで使い分けていますよ?」


「…凶器?」


「…でしょう?慧さんは松丘社長に怒鳴られましたよね?どう感じました?」


「…怒り…かな…。
なんで俺を何も知らない人からこんな扱い受けなきゃいけないんだ!?って思った…」


「で?それでも何も言い返せませんでしたよね?どうしてです?気迫に推されてですか?」


「…それも…ある。
でも事実だった。松丘社長も長世副社長も事実だけを言っていた。だから何も言い返せなかったし俺に否があったから受け止めた。まぁ、最後の言葉は謎だけど……」


「ハァ…それが重要なんですけどね……」


「章?どういう意味だ?」


「教えて欲しいんですか?…じゃあ頼み方があるでしょう?」


「は?新作ゲームを買えってか!?」


「はぁ?ま、それは魅力ですよ。確かに。…でも仕方ないから今回は言葉だけでいいですよ 」


「頼み方……?
教えて…下さい。とかか?」


「なんだ、出来るじゃないですか。言葉を忘れたのかと思いましたよ 」


「???」


「ハァ~。
慧さんあなたは頭が良い。でも馬鹿だ。」


「おいっ!!」


「ほら馬鹿だ。さっき自分で答えを言っていたんですよ?」


「はっ?」


「…仕方ないな。
慧さんが言い返せなかったのは事実を言われたから。そう言いましたよね?」


「…言った 」


「自分に否があるとも言いましたよね?」


「…言ったな 」


「だから受け止めたと言いましたよね?」


「言ったよ!それが何?」




「では、事実無根で否がない人間が、相手から凶器にも似た罵声を浴びせられたらどうなりますか?
それを黙って聞いているしかない人間はどんな気持ちになるんでしょうね……」



「………っ!!」


「ハァ~やっとですか…
そこに長世副社長の言葉です。時間、猶予、チャンス。期待…とも言っていましたね…あとは何でしたか?」


「……人としてやる事やれよって………。
俺はどうして気づかなかった!!これじゃ__」


「後悔…ですか?遅すぎませんか?
だから…馬鹿だと言ってるんです。
気づかないなんてどんだけ熱くなっていたんですか?
でも奇しくも時間はまだある。それも__」


「あの人が作ってくれた…ようなもんだよな……」


「私的には微妙な気分ですがね…」


「…章 」


「何です?
私と慧さんでは元々問題が違うでしょ?何を躊躇っているんですか?
人としてやる事やりなさいよ!」


「っ!ありがとう章!ホントに助かった!」






ハァ~。
やっと走って行った。ここまで言わないと分からないって本当に慧さんは……。




あの時、松丘社長を止めたのはあの人だった。

何故…?
慧さんから謝罪のひと言も無かったのに、彼は気にしている素振りすら見せなかった。

ずっと監視していたから分かったが、初めて聞いた内容に驚きと悲しみ。終始そんな顔。
横の2人の方が解りやすい程怒っていたし…




でも止めた。
それでまた慧さんはチャンスを貰えた。これでちゃんと謝れば櫻庭にのし掛かる負担もなくなる。
それを意図した……?

でもそんな顔じゃなかった筈……



「そんなに大事か?」松丘社長が聞いていた。
それにあの人は大きく頷いた。

口元が見えなくて読む事は出来なかったけど…
何かもっと身近な…大事な事。



TOKYOクリーンサービスが撤退して打撃をくらうのは櫻庭系列。
あの人が派遣されていたのはこのホテルの………っ!庭か!!


身近で大事なものの正体は庭か!




ふっ…。反論せずに黙っていたのに漸くだした意見が庭を守る為なんて……。




従業員が口を揃えていい奴だって言う訳が分かったよ。
そしてそんな事をする奴じゃないって、もっとちゃんと聞いていれば最初からこんな大事にはならなかったって訳ね。

…慧さん。大分出だしから間違ってたんだ。








「……ホント…やりにくいな…」



章和はそう静かに呟くと漸く一波乱あった会議室を後にした…