※これは妄想腐小説です※
~間違われた方、苦手な方は戻って下さい~


















暫しの沈黙を破ったのは長世の静かに怒っている
冷たい声だった



「内密に処理しようと画策した結果ですね。

知っていますか?
このカメラに映った男の身長は179㎝。
大澤君は小柄ですから似ても似つかない。

外部の我々が調べただけで短期間でハッキリと結論がでたのに、あなた方は何をしていたのですか?
勿論、公にはしたくなかったのでしょうから、鑑定を依頼しなかったのでしょ?
民間でも出来るんですよ?

それすら頭が回らないとは情けない。
それとも自分1人で解決しようと息巻いたからですか?
確信などせずに周りに聞いていれば直ぐに分かる事なのに。
それすらもしなかった。ただの驕りですね。」


「っ!違います!私共がもっとちゃんと聞いていればこんな事には__」

慌てて坂元支配人が口を挟んだが長世は構わずに続けた






「もうなってしまった。既に遅いのですよ。
我々は時間もチャンスも与えた。
他社に首を突っ込む程、馬鹿じゃないし軽率でもない。

それでも、我が社が関係していると言われれば黙っていない。
まさかそれすらも考えていなかったなどとは言わせません。
彼が1人で突っ走った結果がこれです。
程々、呆れますが……。
そんなに急いで何がしたかったんでしょうね…?」

長世は坂元から視線をチラッと慧翔に移して言ったが、言われた本人は何を考えているのか俯いたままだった






「お待ち下さい!確かにこの件は__」


「私からは以上です。あとは…社長?」

長世は制止する坂元支配人の言葉を聞かずに松丘に視線を向けた






「終わったか?」

松丘は腕を組み椅子にふんぞり返るように座っていたが長世の言葉に姿勢を戻した






「一応は…」


「じゃあ、言わせてもらう。

長世はああ言ったが俺はチャンスを与えようなどとは思っていない!
ただ大事な社員を、大澤を、そして俺達を疑ったからには、その根性をぶっ潰してやろうと思ったから、お前達がぐうの音も出せないような証拠を持ってきてやっただけだ!
案の定、何も言い返せないだろうが?
ざまぁみろ!!」


「…社長、口が__ 」


「何だ長世?体面はもういいだろう?
こいつには礼儀も義理も何もない。お前があれ程言っても何も言わないんだ。
こいつに今更何を期待するっていうんだ!?」


「確かにそうなんですけどね。…俺は少しの期待があったんですが。ハァ~。」


「今更だろ!俺はこんな不愉快な場は早く退場したいんだ!」


「はいはい。どうぞ。俺も早く帰りたいです」


「岡多!」

松丘は叫ぶように岡多に声をかけた






「…はい、ここに。何でしょうか松丘社長?」

岡多は後方で聞いていたが松丘に呼ばれ、未だ俯いたままの慧翔の後ろに立った


「言っておいた通り、今日を以て契約を解消する!」


「っ!!!」


慧翔は松丘の言葉にハッと顔を挙げた。
勿論、会議室内にいた櫻庭関係者の者達も驚きを隠せずに慌てだした。

だが、岡多だけは分かっていたかのように冷静に振る舞った






「承知しました 」


「ま、待って下さい!?岡多さんどういう事ですか!解消って!?」


「言葉通りです。我が社とTOKYOクリーンサービスさんとの契約が今日で終わるという事です 」


「そ、そんな!急に!?今まで客室から厨房その他も全て委託していたのに…
それじゃ……明日からこのホテルはどうすれば!?」

慧翔は縋るように岡多に詰め寄った






「ホテルだけではありません。櫻庭との契約解消ですので 」


「なっ!!!」




「…覚悟もなしに喧嘩を吹っかけてきたのか?愚かだな!」

慧翔の驚く顔を鼻で笑い、松丘が冷たく言い切った






「ま、待って下さい松丘社長!」


「待たん!!」

ハッとした慧翔は松丘に懇願しようとしたがその言葉を松丘は一言で切って捨てた






「言っただろう!?俺達は早く帰りたいと!
…行くぞ智仁!」


「ま、待って下さい!お願いします!!」

「お待ち下さい!松丘社長!」

「お待ち下さい!!」


慧翔に引き続き、坂元支配人や他の人間も松丘を止めようとするが、一切聞き耳を持たない松丘は立ち止まらずに智仁の手を引いて立たせその手を掴んだまま大股で歩きだした


何人も声をかけ考え直して貰えないか問いかけるが松丘は目つき鋭いまま、歩みを止めようとはしなかった




だが、テーブルを回り込むように歩いていた松丘が急に立ち止まり後ろを振り返った






「……?どうした智仁?」

そう。腕を引かれて歩いていた智仁が踏ん張るように立ち止まったからだ






「…帰るぞ?んっ?何だ?」


松丘が少し屈み目線を合わせて顔を覗きこんだ

智仁は頭を数回横に振ってから、口を動かした



その口の動きを読んでいるのか、松丘は黙ってジッと見た






「……智仁。それは関係ない。会社の為、ただそれだけだ 」

松丘がそう言うと智仁はまた頭を横に振り再度、話すように口を動かした






「………そんなに大事か?」

松丘が聞くと智仁は大きく頷き松丘を見つめた




先程まで煩いほど慌てていた慧翔も櫻庭の社員も固唾を飲んで2人を見ていた






お互い見つめあったままだったが、根負けしたかのように松丘が、屈んでいた背を伸ばし手を額に当てて大きなため息を吐いた



「…………ハァ~~~。」


「社長の負けですね」

長世は口元に手を寄せ嬉しそうに笑いながら言った






「煩いぞ長世!!……おい!岡多!?」


「はい。」

松丘が呼ぶと他とは違い、慌てていない岡多がスッと松丘達の前に立った






「櫻庭社長はいつ帰国される?」


「五日後です」


「…分かった。それまでは猶予をやる!
今まで通り変わらずにスタッフを派遣する。だがそれを過ぎたら直ぐに破棄する!」


「畏まりました。そう社長に報告致します 」


「俺の方からも連絡する」


「ありがとうございます。宜しくお願い致します」

岡多はそう言うと松丘達に向かって頭を下げた






「お前らの為じゃない!勘違いするな!!」

松丘は頭を下げている岡多を見ずに周りにいる櫻庭の社員を見渡して怒鳴るように言った



そして再び向きを変え智仁を見た






「これでいいか?」

その言葉に智仁は首を動かさずにただ、唇を噛むようにじっと松丘を見上げた






「……………長世?どうするよ?」

松丘はさっきまでとは違い眉尻を下げ、縋るように弱々しく長世に意見を求めた






「プッ!!」


「おい!?」


「ああ、スミマセン。
まずは帰ってゆっくり話あいましょう?
大澤君も急に連れてこられてよく事情が分かっていませんし、ちゃんと説明してあげないと!ねっ?」

然程悪いと思っていない長世が松丘を見てそれから智仁の肩に手を乗せて同意を求めるように言った





「分かった。取りあえず帰るぞ智仁?」


松丘はそう言ったが中々動こうとしない智仁に再度声をかけた






「…智仁。俺は気分が悪い。
だから一緒に付いてきてくれるか?」

松丘が困った顔でそう言うと智仁はハッとしたように漸く歩きだした



そのまま腕を引かれ入り口の扉までくると岡多に声をかけた






「岡多!お前も一緒に来い!!」


「はい 」

岡多は短く返事をし直ぐに歩きだすと、それを見た松丘は扉を開けた



その後に続くように腕を引かれて歩いていた智仁が扉の前で立ち止まり、黙ったまま呆然と立ち尽くしている櫻庭の社員達に退室の意味で頭を下げた






「智仁!」

智仁は松丘の大きな声と共に腕を強く引っ張られ、蹌踉めきながら会議室を後にした



2人が去った事に、ハッとした坂元支配人がいち早く後を追いかけてホテルの制服を着た数人も走り出した



残るのは、スーツを着た本社の人間と、状況を必死に理解しようと頭を悩ませている慧翔、隅で目立たないようにしている者と、慧翔を見てため息をついている岡多。

……それと、2人と一緒に行く筈の者がまだ残っていた






「初めて会話するし、大澤君を怖がらたくはないから大人しくしていたけど…」

そう言うとツカツカと慧翔の前に歩きだし目の前に立ち見下ろして言葉を続けた






「櫻庭の人間にこんな馬鹿がいるとは思わなかったよ。」

その言葉にハッとした慧翔が漸く目の前の人間を見上げた






「俺、これでもチャンスをあげようとうちの社長を宥めてたんだけどね。
お前の父ちゃんも兄ちゃん達もどんな人達か知ってるからさ…

でも、お前は期待外れだったな!」

慧翔はその言葉にムッとして知らないうちに睨むような目つきになっていた






「へぇ~。いっぱしにそんな目するのか…人間らしい感情持ってんじゃん?だがな……
遅ぇんだよ!
人としてやる事やれよ!それすらも分かんないようじゃお前は終わりだよ 」


「長世さん。そろそろ_」


「岡多君…今、こいつに話してるから黙ってくれる?」


「……。」


「やられたらやり返すだろ?普通。

俺は社長達と違って甘くないからね…。
猶予なんて言ってるけど俺にはカウントダウンだ…その日が来たら遠慮はしない。

それだけお前は俺達を怒らせた。
…この意味が本当に分からないようなら今度こそ覚悟しておけよ…」

長世は慧翔を見下ろし、誰もが怯むような目と怒気を含んだ低い声で言った






「…さてと!岡多君行こうか?そろそろ社長のお叱りの声が聞こえそうだ~」

長世は先程とはまた違った軽い口調で岡多に言って歩き始めた



それに従い岡多は慧翔に「失礼します」と一礼すると長世の後に続いた






「あっ!」

長世が開いたままのが扉からを出ようとした時に思い付いたようにたち止まり振り返った






「君のさ~お友達にも言っておいてくれない?
探るような真似はやめろって。
今度また同じような事をしたら……ね?分かるよね?」


長世は少し大きな声で言った


そして睨むような目は会議室の隅に向けられていた…






「…長世さん。行きましょう 」



その言葉に促されるように長世は会議室から出て行った






長世と岡多が出て行って、スーツ姿の男達は慧翔の元に走り寄るが慧翔は頭を抱えて椅子に座り込んだ



そして隅にいた人間も壁に寄り掛かるように凭れ大きなため息を吐いた

その顔は悔しそうに歪んでいた……