※これは妄想腐小説です※

















蒸し暑かった日中が嘘のように涼しい気温となった夜

ライトアップされたマンション入口の脇にある植え込みの淵に腰をかけ、慧翔は帰って来る住人を待っていた






「へぇ…意外ですね。潤哉君と違って干渉しないと思っていたんですが。私の予想が外れましたね…」


「俺もそのつもりだった。けど潤哉が体調崩したからそうも言ってられなくなった 」


「…なる程。潤哉君の為ですか 」


「部外者だろ?俺達。だから俺は口出さないって決めてたんだけどな…」


「私も慧さんはそう考えて動くと思ってましたから…まさか家の前で待たれるとはね…。」


「…悪い。俺もバタバタしててこの時間しかなかったから待たせてもらった 」


「で?」

章和は腕を組みつまらなそうに慧翔の前に立った






「……で?って何だ?」


「そこまでして私に会いに来たんでしょ?何か言いたいのかと思って…」


「…顔を見に来ただけだ 」


「ほんとに?慧さんの顔はそう言ってませんけど?」


「…俺の顔を読むなといつも言ってる 」


「はいはい。じゃ、私の顔も見たんだし帰ったらどうです?」


「章っ!!」


「なんです?」


「……なんでもない 」


「…はぁ。慧さんはいざとなるとヘタレですよね?」


「俺はヘタレじゃない!!」


「他は知りませんけど、私達の前ではヘタレますよ?そこが私達には嬉しい時もありますけど…正直今はいりません 」


「……章?俺達の関係は壊れないよな?また4人でバカみたいに笑えるよな…?」


「慧さんの不安要素はそこですか…まぁ、慧さんらしいと言えばらしいけど…。
私になんて言って欲しいですか?
“大丈夫”とでも言ってほしいんですか?」


「……。」


「図星ですか…ハァ~。ま、相田さん次第で“大丈夫”になるでしょうね 」


「…清雅には会ったのか?」


「いえ。あれから1度も会ってません。」


「え?会ってないのか?俺はてっきり___」


「私が“グリーンハート”に殴り込みにでも行ってると思いましたか?残念ですがあそこにもアレ以来行ってませんよ…
そもそも、今私が用があるのは相田さんでは有りませんしね…。」


「どういう意味だ?2人の事なんだから会ってお互いに話し合うんだろ?」


「…潤哉君も似たような事言ってましたよ。
でも、勘がいいだけに違う言い方でしたけどね…」


「…?」


「はぁ。そもそも慧さんは間違ってるんですよ…

相田さんと私が話し合ってどうなるんです?
どうして家に入れたの!?…なんて私が言うとでも?
ハッ。あり得ないでしょう?
相田さんの家だ。私にとやかく言う権利なんて最初からないんですよ…だから話し合って解決なんて安直な考えは止めて下さい 」


「じゃあ!じゃあどうするんだ!?このまま___」


「私が黙って見ていると思いますか?…思わないですよね?伊達に長く一緒に居ませんよね?」


「…ああ。分かってる。お前の性格も、どれ程清雅を想ってきたかも…」


「流石!幼馴染み!じゃあヒントあげますよ 」

章和は怪しげに笑い慧翔を覗き込むように見た






「ヒント?」


「ええ。大事に育てた花があります 」


「…花?」


「その廻りに雑草が生えました 」


「………?」


「花にしか興味がない私はどうしますか?」


「…雑草をむしり取る…………。っ!!」


「ご名答~邪魔な雑草は駆除しないとね~?」


「あ、章!それは___」


「なんです?慧さんは潤哉君と違って口を挟まないんでしたよね?…でしたら何も言えないと思いますが?」


「そうだけど…まだ子供にそんな事!それに清雅だって___」


「相田さんにはバレないように動きますから平気ですよ?得意ですしね私。それと私が用があるのは山中君ではなく成人してるもう1人の方ですから 」


「…成人してるもう1人って…まさか“トモ君”とか言う奴か!?」


「ええ。やっと探し当てましたよ。中々辿り着けなくてこんなに時間がかかりましたけどね…」


「…章でも探れなかったのか?」


「そうです。人は誰しも痕跡を残すものですが、この人にはそれが全く無かった。
まるで幽霊みたいにパッと出てきた。それが数年前。それ以前は私でさえ探り当てる事が出来なかった 」


「…そいつに会うのか?」


「会うというか、働いてる会社に押しかけようかと考えてます 」


「おい!いきなり会社になんて!!」


「大丈夫ですよ。勤務先というか配属先?とでもいうんですかね…その前で仕事が終わる頃に待つっていう事ですから!
いくら私でも本社に行ったら摘まみ出されますよ 」


「本社?有名なのかその会社?」


「…ああ!そう言えば慧さんの所も使ってましたね!“TOKYOクリーンサービス” ね?大手でしょ?」


「っ!!章!止めた方がいい!あそこは___」


「口出さないんでしたよね?」


「でもな!?あそこは本当に__」


「知ってますよ?あそこはクリーンが売りですからね。従業員の身元も徹底してるし、もし不祥事なんてあったらそれ相応の処罰が下されるって…」

章和は冷ややかな目で淡々とこたえた






「じゃあ分かってるだろ?もし少しでも問題が起こればどうなるか!?
____っ!章?分かっているから…だから…なのか…?」



慧翔は章和の肩に両手を置き揺すって言った

章和はその手を払いのけて慧翔を睨むように見た






「…だったら何です?私にはそいつがどうなろうと関係ないのでね。
慧さんは係わらないで下さいね?会社ぐるみの付き合いでしょ?
私は私で勝手にしますから。
それじゃ私は行きますから。あ!潤哉君には言わないで下さいね?
また体調が悪化したら嫌なので…じゃ 」


そこまで言うと章和は手をあげて帰ろうとマンションの入口へ2、3歩進んだが、振り返り立ち止まったまま黙っている慧翔に言葉をかけた






「あ、そうだ!
慧さんが言ってる“トモ君”ですけど、本名は“大澤 智仁”と言うらしいですよ。
ま、もう関係もなくなるから別にいっか?

……忘れて下さい。それじゃ…」


顎に手を当てじっと慧翔を見ていた章和だったが、漸く踵を返して中に入って行った






慧翔はそんな章和の視線にも気づかずに俯き何かを考えているようだった




「……“TOKYOクリーンサービス”の大澤?
まさか…な……」


慧翔は不安が一瞬頭を過ぎり小さく呟いていた




まさに、今、仕事でバタバタしている原因の中で同じ苗字の者が浮上していた

話が聞きたいと、電話で問い合わせても決して本人について詳しい事は言わない徹底ぶりに業を煮やして、本社の“TOKYOクリーンサービス”に出向き、その重要人物と漸く会える段取りを付けたばかりだったからだ…



これまでの労力を考えると、章和が言う人物と同じ人ではないことをただ願うしかない慧翔だった…