※これは妄想腐小説です※
















「本当に助かりました。ありがとうございました」

風見は食堂から来賓室へと移動した章和と潤哉に労いの言葉と珈琲を出した






「…で?」


「で?…とは?」


「……私達がこの部屋に招かれたということはまだ相田さんは帰ってきていないという事ですよね?」


「…はい。所長はまだ帰ってません。
…というか今日はここにはもう戻ってこない…です」


「はい?……どういう事…ですか?」

章和は腕を組み風見を睨みつけるように見た






「………。」


「章君。…気持ちは分からなくもないけど抑えて?風見君が泣きそうな顔してるから…」


「…私、出し抜かれるのとか嫌いなんですよね…それを風見君にされるとは…思ってませんでしたよ?」

章和はフフフッと笑ったが目は一切笑ってはいなかった






「章君!!…はぁ~。
風見君。そんな怯えなくても大丈夫だからね?」


「どうして怯えるんです? フフ」


「章君!もう俺が話すから黙って!!…風見君?質問に答えてくれる?」

潤哉の問に風見は泣きそうな顔でコクッと頷いた






「清雅君に頼まれたの?」


「……はい。来ないで欲しいと言ったけど二條さんは必ず来るだろうから足止めしといてほしいと…」


「なぜ?」


「…邪魔されたくないと仰ってました」


「邪魔?どこに行ったの?」


「…行き先は分かりません。でも3人で車で出ていかれてました 」


「3人…?」


「…はい。所長と山中君、それとトモ君の3人です 」


「「トモ君?」」

風見の言葉に黙って聞いていた章和も聞き返した






「は、はい。トモ君は山中君を連れてきてくれた子です。運良く…連絡先が分かったので連絡したらすぐ駆けつけてくれて…
というか半ば強引に来て貰ったと言った方が正しいかもしれません…」


「…どういう事?」

潤哉の問いかけに風見は言ってもいいのかどうか悩んでいたが






「私達には聞く権利がある。そう…思いますよね?風見君?」

章和の一声に逆らってはいけないと思った風見が今日の出来事を話した










「それは、また…凄いね 」

風見の話を聞いた潤哉が感心したように声を漏らした






「潤哉君?感心したら駄目ですよ…当局に見つかっていたら大変な事でしたよ?」


「あ!そっか!大丈夫だったの?」


「…はい。直ぐにトモ君が間に入って止めてくれたお陰で山中君も落ち着きましたし…人通りも少なかったですから 」


「それは何よりでしたね…で?なぜ3人で出て行く事になったんです?」


「それは……」

風見は答えに渋り目を泳がせた






「…また裏切られた。彼はそう思っちゃったんだね…」


「っ!!!」


「…なる程。そういう事ですか…」


「僕が!…僕が悪いんです。山中君に何があったのか、山中君の事情を知りたいと思って…勝手に連絡先を書き写しちゃったんです。
山中君には内緒で事を運ぼうとした僕達が悪いんです…」


「大人なら、ましてや施設側としては正しい判断だと私は思いますが?」


「…僕もそう思ってました。
でも、山中君が奪わないで…と、邪魔しないで…と言ったんです。そして皆いらないとも…

僕達は彼に寄り添うチャンスを自ら手放してしまったんです。

彼の為を思ってした事がただの僕達のエゴだったと気づかされました…
山中君が本当に必要としていたのはトモ君だけだった…

それを、僕達は取り上げようとしていたんです…そんな事されて、ここにまだ居たいとは___ 」


「うん。思わないよね。」

風見の言葉の後を潤哉が続けて言った






「…はい。」

風見は申し訳なさそうに俯いてかえした






「ではなぜ相田さんも一緒なんです?普通、自分を陥れた人間と一緒に行きたいと思いますか?」


「それは…トモ君が……」


「また…トモ君ですか……?」


「はい…。」


「…今度は何?」


「…ちょっとした騒ぎにもなったし、取りあえず“グリーンハート”に戻ろうと言ったのですが、山中君が絶対に嫌だと頷いてくれなくて…困っていたんです。そもそも僕達の話を聞いてくれる気は無かったみたいですが…
それで所長が提案したんです…「じゃあ、家に来ればいいよ」って。」


「はっ!?相田さんが言ったの!?」

章和は驚いて目を見開いて聞いていた






「は、はい!そうです!「家はセキュリティーもしっかりしてるし、居心地も悪くないと思うんだ!きっと君も気に入ると思うな~」と言って半ば強引に2人を連れて行きました…」


「……信じられない 」

章和が先程までの眉間に皺を寄せた険しい目ではなく、事実を受け止められないようなそんな顔で呟いた






「…二條さん?」

風見は態度が変わり今は何かを考え混んでいるような章和が不思議に思って問いかけた






「風見君。章君は…気にしないでいいよ。
それで?山中君は普通に従って車に乗って行ったの?」

潤哉が隣の章和を見た後、話題を逸らすように風見を見て聞いた






「あ…いえ!最初はずっと嫌だと言っていましたが、トモ君が『僕は用事があるから今日はもうさよならしなきゃいけない   でもまた会いに来るから』と見せていて…それを見た山中君が、離れたくないと暴れるように取り乱し始めてしまって…」


「……?」


「その時所長が、「じゃあ、車で送っていけば長く一緒にいられるよ?」とまた山中君に提案したものだから…山中君は渋々所長と一緒に車に乗って行きました。
…トモ君はそんな2人に無理矢理連れ込まれていましたが……

その後に所長から連絡がきて、二條さん達を足止めしてほしいと言われました。
今、どこに居るかも仰ってませんでしたけど、山中君と一緒に居るから安心して!とだけいって電話は切れまし。…これで全てです。」 








潤哉は聞きたい事が多すぎて困っていた。
でも果たして風見に答えられるのか…。



風見は見た事、聞いた事を全て話してくれているのは分かる。

では何故、不信感を抱かないのか…

長年一緒に働いているから、清雅を信頼しているのは分かる…

“グリーンハート”に戻りたくないという山中君を無理に引き止めてまた騒ぎになったら…というのも分かるが、何故自宅なのか?

能力者専用のシェルターという名のホテルでも良かった筈だ…

それなのに態々自宅を指定した?



風見は勿論清雅の自宅を知らない筈。

長年一緒にいる俺達ですら知らない…隣に放心状態で座っている章和でさえも教えてもらった事がない。…というか決して言わない。

そこは清雅の本当の性格を知っていたから誰も踏み込んで聞こうとはしなかった。


そこに連れて行った?施設の子供と会ったばかりの子を…?
…なぜ?
…優しいから?
それとも別の何かがあるというのか…?



疑問は膨れるばかりだ。その中でも風見が答えられそうな疑問が1つある…






「あのさ…トモ君だっけ?その子が見せた…って言っていたけど、言ったじゃなくて、どうして見せた…なの?」


「…あ、メモ帳に書いて見せてくれるんです」

潤哉の問に風見は、これ位の…とメモ帳の大きさ位の四角い形を指で作って潤哉に答えた






「メモ帳に書く…?」

潤哉は、はっ?と不思議な顔をして聞き返した






「書いて、会話するんです。トモ君は話せないので…」


「…え?」