※これは妄想腐小説です※
“グリーンハート”があるこの場所は住宅街というよりも工場や倉庫など大きな建物が多く建っている。
最寄り駅を使う人達も自ずとそこで働いている人が殆どの為、朝と夕方のラッシュ時だけ賑わう位でお昼前のこの時間には降りる人は数人しかいなかった。
「待ち合わせここでいいの?」
「はい。電車を使うと言っていたので駅前で待っていると伝えました。この辺の地理にも詳しくないでしょうし、何かと都合がいいかと 」
「そうなんだろうけど、その人来たら分かるの?」
「僕は1回会っているので分かりますよ。そうじゃなくてもたぶんすぐ分かると思いますけど…」
「ああ、綺麗な子って言ってたね?そんなに?」
「そうですね。所長も会えば分かると思います 」
「……来ないって可能性は…ないかな?」
「所長?もしかしてビビってるんですか…?」
「だって!あんなメール送っちゃったんだよ!?それも年下の子に!申し訳なくて顔向けできないよ……」
「…いいですか?先ずは謝る!絶対です!何のために一緒に来たんですか?」
「…はい。謝る為です 」
「我々は山中君の事で感謝こそすれ、疑うなんて……以ての外です!」
「分かってるよ~でも山中君を利用しようとする悪どい奴かと思ったんだよ~そしたらそんな…大人でもないとか…もうどうしよう~俺、恥ずかしい……」
「あ!ちょっと所長!そんな所に隠れても駄目ですから!こっちに来て下さい!
……所長の言う事も分かります。彼らを利用しようとする人間が多いのも事実ですから…ですが!今回は所長に否があります!全面的に!!だから隠れてないで出て来て下さい~!」
風見は並んである自販機の後ろに隠れている清雅を引っ張りだそうと服を掴んでいた
「あ!電車きましたね!これに乗るって言ってましたから、ほら行きますよ!」
風見が指さした駅のホームには丁度電車が入る所だった
「もう!覚悟決めて下さい所長!どんな事言われても所長が悪いんですから、ちゃんと受け止めないと!」
「…分かってるから~何でも聞きますから~そんな引っ張らないでよ~服が伸びる~」
「じゃあちゃんと歩いて下さいよ!駄々っ子みたいじゃないですか!」
「俺は子供じゃ……。ねぇ風見君?学生って事は学校は…?今日平日だよね?まだ昼前だし授業とかあるんじゃ……?」
「…そうなると、所長がサボらせたって事になりますね 」
「嘘ー!?俺は何てことを…どうしよう…これで親御さんにまで怒られたりとかになったら……」
「そうなったら僕も一緒に謝りに行きますので…だから所長立って下さい!そんな所で屈まないで下さい!!」
清雅がヘナヘナとその場に屈んでしまい風見が肩を叩いて立ち上がらせようとしていた時「あっ」と風見が声を出し、清雅を放って小走りに行ってしまった
「所長!所長!!」
風見の声で顔をあげた清雅の目には2人分の靴が並んで見えた
「所長!この方が山中君の言っていた“トモ君”です!」
清雅は風見の言葉に意を決して立ち上がり、風見と同じ位の身長で隣に立つ彼を見た
「しょ、所長!?」
風見は驚いて声を上げた。驚くのも無理はない。何故なら清雅が智仁を抱きしめていたからだ。
風見が駅から出てきた智仁を見つけ、小走りに駆け寄り軽く挨拶をした後、すぐに清雅の前に向かった。
呼びかけに漸く応じた清雅が智仁を見るなり、驚いた顔をして暫く動かないと思ったら、急に智仁に抱きついた。そして今は涙を流しながら智仁を強く抱きしめている…
最初は何が起こったかわからず驚いていた智仁だったが、ふと我にかえり清雅の腕から逃れようと足掻いてみた。
たが如何せん智仁の両腕ごと強く抱き締められていた為どうすることも出来なかった
そんな智仁の苦しそうな表情に気づいた風見が漸く清雅の腕を離そうと手をかけた
「所長!何してるんですか!!離して下さい!」
「嫌だ!やっと逢えたんだ!離さない!!」
清雅は首を振り更に強く智仁を抱く腕に力を込めた
「……っ」
「あっ!所長やめて下さい!トモ君が苦しがってます!!」
「えっ!?」
風見の声でハッとなった清雅は、力を緩め体を離して智仁の顔を伺うように見た
「だ、大丈夫!?ごめん嬉しすぎて力入りすぎていたかも…どこか痛い所ある?大丈夫??ねぇ?何か言って!」
清雅は智仁の両腕を手で掴みながら覗き込むように顔を近づけ声をかけた
智仁は苦しかった息を整えてから首を横に数回振った
それからポケットからメモ帳を取り出しペンで書き始めた
何事かと思って清雅と風見はお互いに顔を見合わせた。そんな2人に智仁はメモ帳を胸の辺りに持ってきて見せた
『僕は話せません だからこうやって紙に書いてもいいですか?』
「…え?話せない?」
「…あ!だから山中君は電話は駄目だといったんですね?」
風見は納得したかのように手を叩いてうんうんと頷いた
『その涼君の事でお話があると伺ったので来ました』
「あ、その事なんですが…所長?…所長!?」
「えっ?…何?」
清雅はボーとしているのか、先程から智仁しか見えていないように目を離さない
「何じゃありませんよ!彼に言わなきゃいけない事がありますよね?」
風見は出来るだけ小声でまだ呆けている清雅にだけ聞こえるように言った
「あ…そっか。えっと___」
『僕が迷惑をかけてしまっていたのなら謝ります』
『 でも騙すとかそんな気はありません 』
『ごめんなさい』
清雅が何から話せばいいのか迷っているうちに、智仁は書いていたメモ帳を2人に見せてそして頭を下げて謝った
「ま、待って!違うんだ!誤解なんだよ!俺が、俺が悪いんだ!俺が考え無しにあんなメール送っちゃったから…」
頭を下げる智仁の腕を掴んで、誤解を解こうと清雅が必死に弁解しているその時…
「何をして…いる…の?」
清雅の後ろから声が聞こえた
「っ!どうしてここに!?」
風見は驚き声を上げた
「後を…つけたの。
2人がこそこそ出て行ったから。まさか…と思って。
そしたらやっぱり…
ねぇ?何をしているの…?どうしてトモ君と会っているの?どう…し…て?」
バチッ
「山中君落ち着いて!?」
「トモ君と会う為に、僕に連絡先の紙をださせたの?…練習って言ってたのに、この為に利用したの…?」
バチッ バチ
「山中君違うんだ!落ち着いて!君の為を思ってした事なんだ!」
「うるさい!! バチッ
どうして邪魔をするの…奪わないでって言ったのに…バチバチ バチッバチ
いらない…
僕の邪魔をするなら皆イラナイ____」
ギュッ
「___えっ?」
清雅も風見も近寄れない中で智仁だけは平然と涼に歩みよりそして…抱きしめた
「…トモ君………」
涼が落ち着いたと思った智仁は体を離し目を見て優しく微笑みメモ帳にスラスラと書き出した
『今日はね電車で来たよ』
「……電車?」
『やっぱり少し遠いね』
「…そうなの?」
『そうなの』
「トモ君あの…ね…?」
『会いに来ちゃった』
「…え?」
『涼君に会いに来ちゃった』
「…っ!」
『勝手に来てごめんね?』
涼は書かれてある言葉と智仁の優しい顔を見て涙が出た。それでも泣いてる所を見せまいと俯いてフルフルと首を振るしか出来なかった
トントンっ
肩を優しくたたかれ反射的に顔をあげると智仁がメモ帳を差し出してきた
『こういう時どうすればいいかもう知ってるよ?』
メモ帳を見せた智仁は微笑みながら両手を前に出して涼を待った
「ふっ…ぅぅぅ」
涼は智仁の首に顔を埋めるようにして強く抱きつき声をころして泣いた
そして智仁もそんな涼の背中を優しく擦っていた
少しの騒ぎになっていた駅前は人が少なかった事も幸いに、清雅と風見が何とか収め徐々に静かになってきていた
「…所長。帰りましょう。山中君を抜いて話をしてはいけなかった…ということですね 」
「………。」
「所長どうされました?」
「っ!う、うん。いや、何でもないよ…」
「…そうですか?…では早く帰りましょう?でも山中君は一緒に帰ってくれますかね…?」
「大丈夫じゃないかな…彼がいる限りは……」
「………所長?」
風見はどこかおかしな清雅を感じ取っていた。
先程の智仁を見た時の行動もそうだったが、今の清雅もどこか怖いような…そんな感じさえする程の目をしていたからだ。
いつもの優しい清雅とは違う、何かを秘め隠したような目を…