※これは妄想腐小説です※













「慧さん…ここって………」


社員専用の駐車場に停め、2人は車を降りた。




そこは少しだけ小高い丘の上にあり、高さのある建築物の窓には幾つもの灯りが耿々とついていた。

そう此処は……






「潤哉行くぞ?」

慧翔は足早に社員専用入口へとむかった。






「慧さん!説明して?どうして此処なの?
俺が来た時はいつも携帯つながってたし、建物の中だって__」


「中にはあるっちゃあ、あるぞ?
でもそこに清雅は入れないからな~
あと残るは一カ所!そこには清雅も行ける。
そしてお前も何度も行ってるはずだぞ?」


「は?それって庭の事でしょ?でもあそこにはそんな場所___」





ピピピ  ピピ ピ    ピ ピピ    ピー 

[IDヲ スキャン シマシタ]     ガチャ

慧翔が、暗証番号を入力しIDを翳すとロックが外れ扉が開いた






「従業員通路で悪いけど、表に廻るよりこっちの方が早く行けるからな 」

慧翔は迷わず進みその後ろを潤哉はついて行く。
その顔には不信感があらわれていた。






「何?信じらんないって顔して…」


「…だって、本当にあそこは………」



「…潤哉知ってるか?今は“庭”って俺達は言ってるけど、元々何て呼ばれてたか 」

慧翔は後ろを振り返らず、ただ前を見て潤哉に問いかけた。
潤哉からは表情が見えなかったが、慧翔の声がどこか沈んでいるように聞こえた。






「元々?いや、知らないけど…」


「…昔は《鎮守の森》って呼ばれてたらしい 」


「鎮守の…森?此処に森があったの?」


「ああ。この丘の上に木が生い茂る大きな森があって、その真ん中あたりに小さな社があったらしい。

昔、大分昔らしいけど………。
ここら一帯で大火事があったそうだ。

平地は火の渦にまかれそこに住む人々は逃れるようにこの丘へと逃げてきた。

当時は藁の屋根の家とかだっただろうし、木もそこら辺に植えてあったんだろう…たから火の回りも速かったはずだ。

そしてここにも火の手が迫ってきた。
凄い勢いで丘を駆け上るように__」




ゴクッ…    潤哉は生唾を呑み込んだ。






「その時人々は思ったそうだ。
もう逃げれないと…諦めるしか無いと…。


でも…火の手は向かってこなかったらしい 」 






「えっ!?どういう事?」


「森の廻りだけは焼けなかったらしいんだ。

すぐそこで火は燃え続けていたのに、何故か森に入れないように丘の中枢辺りで火が渦巻いていたそうだ…」


「そんな事って……」


「森に逃げた人々は安堵した。
それでもその火の手は凄まじく漸く鎮火したのが3、4日後だったそうだ。」


「…逃げた人は?皆、皆無事だったの?」


「ああ。全員無事だったらしい。」




潤哉は ホッと一息ついた。    しかし…





「でも、その後は?食糧だって何も__」


「森は野生の果実や茸が豊富だったそうだ。
湧き水もあった。だから何とか凌げたらしい。」


「凄い!じゃあ食べ物には困らなかったんだ!」


「昔の人は逞しいからな。」


「本当そうだね。今の俺達じゃどうなるか… 

あれ?でも再建は?棲んでた所も焼けちゃったら家も何も無いだろうし、もう此処を離れるしか…」


「造ったらしい。」


「はっ?造った?何を?」


「住める家を」


「ど、どうやって!?」


「森の木を使って」


「えっ…森を?

助かったのはその森のおかげじゃ無いの!?
それなのに、森を削ったの?

そんなの…いくら生きるためとは言っても……酷すぎるよ 」

潤哉は立ち止まり悲しそうな顔で唇を噛みしめていた





ポンっ!

「そんな悲しい顔すんなって!」

慧翔は立ち止まってしまった潤哉に歩み寄り肩を叩いた。






「お前が優しいのは分かるけど、まだ続きがあんだって!」

慧翔は優しく笑いかけた






「…続き?」


「ああ。昔の人は信仰が強かった。今なんて比べものにならないくらいな!

火の手から守ってくれた森に感謝し、食べ物を分け与えてくれた事にも毎日感謝した。

だから命の恩人である森を傷つけようとする人なんて誰一人いなかったんだ。」



「じゃあ、何で森の木を…?」


「木を伐った訳じゃない。
そんな道具も何も無かったしな。」



「伐ってないの?じゃあどうやって__」


「倒れてきたそうだ…。」



「木が!?」


「うん。当然逃げてきた人達は、遠くの暮らせる場所を探すしかないって話あってたそうだ。

でもその時、誰かが言ったらしい。

『ここから離れたくない。此処に居たい』

その言葉を聞いた途端に、地響きが鳴った。
慌てて人は社の側に集まると、大きな木が倒れてきたらしいんだ。何本も何本も…。」



「木が…勝手に?」


「そう。それは驚いたらしい。

逃げるところも無いから社の側から動けずにいる人達を避けるように、木は倒れてきた。

暫くして音が止み森を見上げると、まだ小さい木を残して大きくて太い木が殆ど倒れていたらしい。」



「それって、それってもう…」


「奇跡?」


「うん!うん!!」

潤哉は目を輝かせ何度も頷いた






「ハハ! 当時の人もそう思ったらしい。
その御陰で苦難はあったけど再建もできた。」


「再建は長い道のりだったんだろうね……」


「でも、ほら!昔の人は逞しいからな!」


「そうだね」


「いくら時間がかかって苦悩していても、その時助けて貰った事は忘れなかったんだ。

疲れていても、毎日必ず森に足を運んで社に向かって感謝の言葉を捧げたらしい。

『鎮守の森様。今日も生きる事ができました。有難う御座います』って。

それから此処は“鎮守の森”って呼ばれ続けてた」



「凄いよ!そんな話俺知らなかった!」

潤哉は興奮したように声を上げた。






「潤哉が好きそうな話だよな!
俺は、代々受け継がれてきたっていう子孫の人から聞いた話だけど、事実らしい。」


「でも、森っていうほど元々ここに木はあったっけ?」



「時は残酷なんだよ…。
大きな木が無くなった事によって、地盤は緩み、大雨がきたときに崩れていったらしい。

それからも…人が自分達の便利さに託けて丘を切り崩したりして、今のこのサイズまで小さくなってしまったらしい……。」


「……人も…なんだ…」



「ああ……その内の一人に俺も入っているんだろうな…」

今度は慧翔が悔しそうに言った後俯いてしまった






「違うっ!慧さんは違うじゃんか!!慧さんはいつだって__」



「…ありがとう。潤哉。でも___       ガチャ



慧翔は俯いていた顔をあげ、庭に続く従業員専用の扉を開けた






「でも何?」

潤哉は慧翔の後に続き入口を抜けて庭へと出た






「…行けないんだ。」


「行けない?」


「ああ…。

見えるか?こっちの入口からは近いんだ。あの辺りが“鎮守の森”て呼ばれてた処だ。」

慧翔の視線の先には暗い夜でも分かる程、一際大きな木がたっていた。
そこは潤哉も未だ足を運んだ事が無い場所だった。






「俺、まだあっちの方行った事ないんだよね。いつも桜の木に魅了?されてあそこから動けないから…」


「そっか…潤哉はまだ行った事ないのか 」



「慧さん…は?」


「1度だけ…。 その後は……行けてない。」


「さっきも言ってたけどそれって…どういう事?苦手な物とかあるの?」


「ないよ。ただ、もう近くにも行けないんだ。

……怨まれてるからさ………俺…」







慧翔は悲しく目を細め、闇に浮かぶ黒く型取った木の方を見つめた。