西村nyudow入道のブログ-台風観測のいまむかし  朝日新聞デジタル



台風に迫り続ける目 船・レーダー・衛星…時に命がけ


 最も激しい気象現象である台風。被害を減らそうと、台風の通り道に観測船を派遣したり、プロペラ機で突っ込んだり、ときに命がけの観測が続けられてきた。気象衛星が監視する現在は、洋上にあっても雲の形で勢力を判断できる。研究の前線では、台風誕生の謎に迫ろうと今年も観測船が南の海に出かけた。


 台風の発生数は平均して年間25.6個。うち11.4個が日本に接近し、2.7個上陸する。戦後まもない頃までは一つの台風で数千人の犠牲者が出ることも珍しくなかった。「台風物語」の著書がある減災コンサルタントの饒村曜(にょうむらよう)さんは「かつては島の観測データを電信で送っていたが、とらえられないことが多く、ほとんど不意打ちだった」と話す。


 1939年、日本最南端の沖ノ鳥島で測候所の建設工事が始まった。多くの台風が付近を通り観測に適した位置、戦略的にも重要で海軍が協力をしたが、難工事や時局緊迫で完成しなかった。


 戦時中は天気予報が軍事機密だったが、戦後、さまざまな観測がされるようになる。航空機観測は、米軍機が台風に突入して観測しながら、パラシュートをつけた観測機器(ゾンデ)を投下し、台風を立体的に調べた。発達した台風は高度約3千メートル、発生期や衰弱期には高度300メートルで観測した。「丈夫なプロペラ機で比較的安全な高度を飛んだが、遭難した飛行機もあった」と饒村さんは話す。日本を空襲したB29の改良機も使われた。



 ■富士山から800キロ探知


 47年からは定点観測船での観測が始まった。南方定点は紀伊半島・潮岬の沖450キロの北緯29度、東経135度。島がなく、気象通報をしてくれる船舶の航路からも離れているうえ、南から接近して関東から東海、近畿に直撃する台風の通り道にあたる。


 観測船は台風が来ても遠ざかるわけにはいかない。付近で船舶が遭難すれば救助に向かった。地味な存在だったが、54年に台風に遭遇した観測船の活躍が報道され、脚光を浴びた。観測船「あつみ」が帰港した9月17日、朝日新聞は夕刊で「観測に苦闘した『あつみ』帰る 血を吐く乗組員も 12メートルの大波にもまれて」との見出しで、記事とともに船長の日誌を掲載している。


 遠くの雲の動きを探れる気象レーダーが開発されると、各地に設置された。高い場所ほど遠くまで観測できるため、南海上から接近する台風に備え、富士山頂にレーダーが建設された。探知距離は800キロ。64年から観測を始め、99年まで観測が続けられた。


 現在の観測の主役は人工衛星。日本の静止気象衛星ひまわりは77年に打ち上げられ、現在は7号が東経145度の赤道上、パプアニューギニア上空3万5800キロから地表の4分の1を観測する。


 人工衛星の画像で、台風の中心気圧や中心付近の風速はどう調べているのか。


 米気象学者のドボラック博士が開発した衛星画像の雲の形と、飛行機などで観測した気圧や風速を比べ、統計的に台風の強さを推定する方法を使っている。


 目の大きさや明瞭さ、濃密な雲域の形状、帯状の雲の有無などから台風の強さを指数にして中心気圧や風速を推計する。気象庁アジア太平洋気象防災センターの藤田司所長は「大西洋の観測でつくられたドボラック法を北西太平洋の気候や気象庁の観測方法に合わせて改良している」と説明する。



 ■発生の謎、現在も船で


 研究の最前線では船による観測も続けられている。まだ、台風の成因はよくわかっていないからだ。この夏、海洋研究開発機構の研究船「みらい」がフィリピン東方沖に観測に出かけた。みらいは、旧原子力船「むつ」の原子炉部分を外してつくられ、海洋研究船としては大型だ。雨の3次元分布を観測するドップラーレーダー、表層から海中の水温や塩分、海流の測定器など豊富な機器を常備する、洋上の気象台だ。上空の衛星からではわからないことを「精密検査」する。海の表層の観測は、船が海水を乱すと正しい値が測定できないため、風や海流を見極め、ゆっくり進みながら船首から突き出した機器を使う。


 フィリピンやパラオでの地上観測と連携した今夏の航海では三つの台風に遭遇した。同機構の熱帯気候変動研究プログラムの勝俣昌己・技術研究副主幹は「今年の航海は史上まれにみる大漁だった」と話す。数多くの台風の卵のうち、成長して台風になるのは1~2割もないという。データの解析や観測を進め、台風誕生の謎を解き明かそうとしている。  (編集委員・黒沢大陸)


朝日新聞デジタル 2013年9月2日



参考


富士山測候所年表
http://npo.fuji3776.net/museum/timeline.html


野中到 寒中滞岳記 
(十月一日より十二月廿一日に至る八十二日間)
http://www.aozora.gr.jp/cards/001188/files/49588_38147.html



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