作家ってやっぱりすごい。特にずっと作家を生業としている人は尋常ではない。浅田次郎はそのひとりであると思った一冊。 物語に出てくる天才作家、北白川右京。この人こそ、浅田次郎ではないか、と思わしめた。
王妃の館
集英社
浅田次郎著
物語は、パリで300年の伝統を誇る「王妃の館(シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ)」に泊まる幻のツアーに参加する人々が繰り広げる。しかし、このツアーは普通ではない。149万8000円の超豪華「〈光(ポジ)〉ツアー」と、19万8000円の格安「〈影(ネガ)〉ツアー」を同時に催行する詐欺まがいの旅行だったのです。またその参加者がおもしろい。光(ポジ)ツアーには、成金王とその彼女、パリに自殺目的で参加した夫婦、10年の不倫の末に捨てられたOL、そして天才作家の北白川右京と編集者。影(ネガ)ツアーには、元警察官、オカマ、元ゼロ戦乗りであり夜学の先生夫婦、そして編集者2人などなど。同時にルイ14世と「王妃の館」を取り巻く物語も進む。時代、世界を越えて交差し、進む二つの物語。花の都、パリ。今はあまり憧れではなくなったけど、憧れの旅行先であったパリ。パリの街並みを守り続けたパリ市民の心意気と新しいものに変化し続けた日本人の心のうちを描く一説は、今身近な大阪駅の地下街を考えるに寂しい想いが募る。
あまり美人ではないホステスのミチルが10年の不倫の末に捨てられた香への言葉が秀逸。「あなた本当の苦労をしてない。だから小さな幸せを感じられない。あなたぐらいのしんどいことは普通」。しかし、そう言い捨てながらも、その裏で、いつもひとりで暗い表情の香をどうにかしてあげたいと画策している。人を思いやるということが、この物語には溢れている。自分もそうなりたいというのは簡単だけど、私はこの物語を通して自分の中にある「自分だけが良くあれば良い」という黒い部分に否応なく気づかされた。さらに光は影がなればならないし、影は光がなければ影ができない、ということにも・・・。
王妃の館
集英社
浅田次郎著