麻里恵ちゃん


幼稚園から小学6年生まで同じクラスで、

中学、高校と同じ学校に通った、

「麻里恵ちゃん」という友達がいた。


幼稚園から小学校低学年までは、

いつも一緒で仲良しだった。

毎日一緒に学校へ行き、一緒に帰り、

放課後も麻里恵ちゃんの家で遊んだ。

両親共働きだった麻里恵ちゃんの家には、私の母が作らない料理がテーブルや冷蔵庫の中にお皿にラップをかけて沢山おいてあった。

玉葱とかつお節のお味噌汁、ロープが巻き付いたボンレスハムを厚めに切り、たっぷりマヨネーズをつけて食パンに何枚も挟んで食べる。大きな和の器に入れられた茶色い煮物。


毎日りかちゃん人形で遊んでいたけれど、

ある日麻里恵ちゃんは金髪のリナちゃんを買って貰ったと嬉しそうに持って来た。

お兄ちゃんがいる麻里恵ちゃんは、

いつもお兄ちゃんがね、って私に話をしてきた。私はなんだかとても羨ましかった。

麻里恵ちゃんは背が小さくて、私とは頭ひとつ分違った。

お兄ちゃんはとても背が高くて、四つ歳が違った。

何年も毎日放課後の麻里恵ちゃんの家に行ったけれど、ほとんどお兄ちゃんには会ったことが無い。


小学五年生くらいになった時、

麻里恵ちゃんの家にすみちゃんも遊びに来るようになった。

すみちゃんが持って来る読んだことの無い漫画を3人は会話もせずに何時間も読み耽った。

私が麻里恵ちゃんに話しかけた。

麻里恵ちゃんは漫画から目も離さず、何も答えなかった。

私は聞こえていないのかと思って、同じことをまた麻里恵ちゃんに言った。

でも麻里恵ちゃんは何も答えなかった。


少しして、すみちゃんが麻里恵ちゃんに話しかけた。

麻里恵ちゃんは漫画から目を離さずに何も答えなかった。

私はすみちゃんに、

「聞こえてないみたいだよ」

と言ったら、

「聞こえてるよ」

と麻里恵ちゃんに睨まれた。


麻里恵ちゃんと約束したわけでは無かったが同じ高校に通うことになった。

高校は駅から歩いて20分以上もかかる場所にあり、毎日駅から歩いた。

向かう方向が同じだったのでなんとなく麻里恵ちゃんと一緒に通うことになった。


時間によって違う友達も一緒になることがあった。

麻里恵ちゃんはその友達と会って一緒に行くことになると、いつも相撲の話をしていた。

私は相撲のことなんか全く興味が無かったので、一言も会話に入れないまま、20分以上の道のりを歩いた。

何度そういう登校があったろう。

最初は会話に入ろうとしたけれど、麻里恵ちゃんは私に話かけてこなかったし、何度かそういうことがあって、私が入れない会話の時は無理に入らないようにした。

わざとに私が出来ない会話をしたのか、

本当に相撲が好きだったのか、今となってはどうでもいい。

他の友達に会ったら自然と麻里恵ちゃんから離れてその子と登校するようになった。


なんとなく、そんなこともあって、

麻里恵ちゃんととりあえず高校三年間一緒に登校したけれど、少し距離が出来た。私の方には…。

麻里恵ちゃんが私のことをどう思っていたのかは、私にはわからない。


高校三年生の卒業式の日、一緒に登校した。

麻里恵ちゃんに、

「学校決まった?住む場所決まった?」

と聞かれた。

「うん。決まった」

それだけ、私は答えた。

でも私はどこに住むとか、連絡先も教えなかった。

麻里恵ちゃんも聞いてこなかった。


今、この歳になって、麻里恵ちゃんはどうしているだろうとふと思うことはある。

何年か前にあの地元のスーパーに行った時、麻里恵ちゃんのお母さんが赤ちゃんを抱っこしているのを見かけた。

あれはお兄ちゃんの子か麻里恵ちゃんの子かは、わからない。


麻里恵ちゃんは、私のこと思い出すことがあるのだろうか。