記憶というのは、

なぜか特定のものだけ覚えていて、

その特定の記憶を繰り返し思い出す。

嫌な記憶や、思い出したく無いことの方が意思に反して、

無意識にそれが蘇る。


幼い記憶で、よく思い出すものがある。

幼稚園の渡り廊下で、

私は当時の担任の先生の膝の上に、

抱かれている。

そこから春から私が通う、

小学校が見える。

私は泣きながらこう言うのだ。

「先生、私小学校行きたくない。先生に会えなくなっちゃうもん」

先生は嬉しそうな顔でこう言ってくれた。

「小学校に行っても幼稚園に遊びに来てね。先生待ってるからね」


〜。〜。〜。〜。〜。〜。〜。〜。


私の欲しいもの、選んできたものは、

いつも

何だったのだろう。

私が欲しいと思うものは、

自分が欲しいというより、

母親に褒められそうなもの、

誰かに欲しいと思われるようなものを、

選んでいた気がする。


「それ、欲しい」と言われたい。

言われたら、あげたい。

それいいねと羨ましがられたい。

そういうものを、

選びたい。

選んできた気がする。


贈り物は、秘密にしていたい。

いきなり、驚かせたい。



日曜日の夕方、夕食前に

明日の勉強道具を揃えていた。


あれ…

国語と、理科の教科書とノートが無い。

ランドセルの中にも、

机の中にも、

どこにも入っていない。


昨日土曜日には、あった。

学校の授業で使ったから。


でも、無い。どうしよう…


私は勉強道具が無くなってしまった不安でいっぱいになり、

台所に母親に言いに行った。


日曜日の学校。

誰もいない静かな学校は、

不思議な感じがした。

開校100周年の小学校はその日も、

格子の木の枠から夕陽が差し込んでいて


校舎の隣に住む用務員さんが、

教室まで連れて行ってくれた。

自分の席の机の中を覗くと、

国語と理科の教科書とノートが、

入っていたら。

「よかったね」

と用務員さんが、言ってくれた。

母親がすみませんと謝っていた。


なぜそんなことだけ、

覚えているんだろう。


誰かが漏らしたうんことか、

好きじゃない人に好かれたこととか、

死ぬほど恥ずかしいこととか。


ああ…そうだ。

意地悪されたことも…

思い出してきた。