栄養療法実践整形外科医の今日の独り言です。

背骨や腰の骨のジワジワ骨折は、

整形外科的に表現すると
   "骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折" となり
病名がついて
骨粗鬆症と圧迫骨折の治療が始まります。

骨粗鬆症には
治療のガイドラインというものがあり、
通常これに則って治療が行われます。

行うべき検査や
使うべき薬や注射が
ガイドラインに載っており、

それに沿って保険治療が行われます。

圧迫骨折の治療は、
酷い場合には手術も必要になりますが、
通常はコルセットを装着します。

痛みに対しては、
痛み止めが使われますが、

強い痛みや慢性的で頑固な痛みには
更に強い痛み止めや
時には麻薬やうつ病のお薬も使います。

しかし、
この痛みが曲者です。

ジワジワ骨折が起こっている間は、
実際には
痛み止めなんかあまり効きません。

どんな薬を出しても、
ジワジワ骨折が止まって、

新しい骨が造られ始めなければ、
痛みはなかなか止まらないのです。

2〜3週間で楽になる方もいれば、 

楽になるまでに
        半年以上かかる方もいます。

並行して行われる骨粗鬆症の治療も
保険治療では薬物治療がメインです。

骨粗鬆症の保険治療は次の3つです。

①骨を壊す破骨細胞の働きを抑えて、
②骨を作り骨芽細胞の働きを応援して、
③骨を作らせる。

どんな治療になるのか?

①破骨細胞の働きを抑えるには、

ビスホスフォネート、
SERM、

などの薬剤が使われます。

主流はビスホスフォネート。

ビスホスフォネートは、
骨の中に入りこみます。

骨は常に代謝しています。
Scrap &Buildです。

つまり、

古くなってリペアが必要になると、

破骨細胞が古い骨を壊し、

その壊された部分に
骨芽細胞によって新しい骨が作られます。

だから、
骨は皮膚と一緒で
本来一生衰えることはないはずなんです。

しかし、
何らかの原因で
骨代謝がうまくいかなくなると、
骨は弱り、骨強度が衰えます。

一例を挙げます。

女性特有の閉経後骨粗鬆症です。

女性の閉経とは、
卵巣機能の低下もしくは停止した状態です。

卵巣が元気なうちは、
女性ホルモンを効率よく作っています。

破骨細胞の働きを抑えるのが、
女性ホルモンの働きのひとつなので、
閉経前の女性は骨が壊れにくいのです。

しかし、
閉経すれば
女性ホルモンがガクンと減り、

働きを抑えられていた破骨細胞が
急に活発になってしまうために
骨を壊すスピードがグンッとアップします。

一方で、
骨を作る骨芽細胞の働きは変わらないため、

壊すスピードがアップしても
骨を作るスピードは変わらないのです。

当然、
知らないうちに、
毎日毎日、
少しだけど確実に、
骨量が減って行きます。

そんな破骨細胞の暴走を
止めるために作られたのが、

骨粗鬆症治療薬の
SERMとビスホスフォネートです。

SERMは女性ホルモンに似ていますから、
破骨細胞の働きを抑えてくれます。

だから、これを飲めば
骨量の減少はある程度抑えられます。

ではビスホスフォネートはというと、
全くの人工物になります。

つまり、
身体の中に存在する
どんな分子にも似ていない薬剤です。

この薬剤は、
骨親和性がいい薬剤です。

つまり、
骨の中に入りこみやすい分子です。

破骨細胞は古くなった骨を食べて
分解する訳ですが、

ビスホスフォネートは骨の中に入りこみ、
破骨細胞がその骨を壊す時に
ビスホスフォネートを食べると
破骨細胞が死んでしまうのです。

だから、
骨が壊されなくなり
骨量が減りにくくなります。

このビスホスフォネートが発売される前、
骨粗鬆症の治療は
女性ホルモンの投与、
ビタミンD製剤の投与、
カルシウム剤の投与、
くらいしかなかったので、

それらを飲んでも
骨密度はあまり上がりませんでした。

しかし、
ビスホスフォネートは違いました。

内服した患者さんの骨密度は
ちゃんと上がりました。

"骨粗鬆症の新しい薬"は
こうして骨粗鬆症治療の主流になりました。

私もそうでしたが、
ビスホスフォネートは
かれこれ20年以上も処方しました。

しかし、
発売から10年以上経ってから、
様々な副作用が報告されました。

大腿骨の非定型骨折。
顎骨壊死。

えっ?

骨折を防ぐために飲んでいるのに、
副作用に骨折⁈

骨を強くするために飲んでいるのに、
顎骨が壊死⁈

薬剤とは、
人が人工的に作った分子です。

効果があるからっと使うと
確かにその通りの効果がらあります。

しかし、
新薬と呼ばれるものは、
使い続けるとどうなるかは未知です。

だから、
新薬は発売後に
使用後調査が行われます。

"飲み始めて5年、10年経ったら、
どんな事が起こってくるのか?"
という調査です。

骨粗鬆症治療は、
女性なら閉経後から飲み続ける薬剤です。

骨量が減らないように、
将来の骨折を予防するために、
飲むお薬です。

でも、
ビスホスフォネートは
飲み始めて5年くらいは骨量が増えますが、
10年経ったら
骨折する方もいる薬剤だった訳です。

私はこの結果から
漫然と飲み続けてはいけない薬剤だ
と理解して、

今ではこの薬剤の使い方を変えています。

ビスホスフォネートは、
骨の中に入りこむ薬剤です。

骨は常に代謝しますが、
ビスホスフォネートは
この骨代謝を止めてしまう薬剤でした。

代謝を止めると、
古い骨が新しくならず、

骨密度が増えても
古い骨が増えて行くため、

骨強度は逆に落ちてしまうようです。

骨強度 = 骨密度 + 骨質
の式から考えたら、

骨密度が上がっているのに
骨強度が落ちるということは、
それ以上に骨質が悪くなるって事です。

顎骨壊死も
骨質の低下から来るものだと考えられます。

骨粗鬆症の治療って、
破骨細胞の働きを抑えて
骨密度を上げるだけではダメだったんです。

次は

②骨芽細胞の働きを応援する

治療についてです。

これの保険治療で使われる薬剤が、

オステオカルシン製剤、
ビタミンK製剤、

などです。

骨芽細胞は骨を作る細胞です。

オステオカルシン、
ビタミンK、
は骨芽細胞が骨を作るのに
必要な分子になります。

しかし、
実際にこれらの薬剤を使ってみても、
臨床的には
目に見える結果は出にくいようです。

つまり、
これらの薬剤は
骨芽細胞を元気にしてはくれないようです。

単独で上手くいかないため、
何かと併用して使うのがいいようです。

最後に

③骨を作らせる治療です。

運動、
ビタミンD製剤、
カルシウム剤、
PTH製剤、

があります。

運動ですが、
これは意外と難しいのです。

骨粗鬆症の患者さんは、
痛みがあり、
できれば運動をしたくないからです。

運動指導をしても、
99%の患者さんがやっていません。

それが現状、
実はそこが大問題なんです。

運動すると、
筋肉が動き、
骨を刺激して、
その結果、
骨と筋肉が強くなるのです。

患者さん自身がやる治療、
それが運動なんです。

でも、
患者さんは治療を受けるだけで、
自ら治療をしようとしていません。

私はいつも思っているんです。

"お願いたがら、運動して下さい!" って。

ビタミンD製剤とカルシウム剤は、
"骨はカルシウム出でいている"
という考えから来ている治療です。

しかし、
ビタミンD製剤と
カルシウム剤の併用だけでは、
上手く骨は作られていない印象があります。

自論ですが、
この二つも
人工物だからかなって思っています。

もう一つのPTH製剤、
これは骨を作るホルモン製剤です。

注射薬ですが、
効果の出る方の骨量増加は
大変素晴らしいものです。

しかし、高価。

50代、60代の骨粗鬆症の方には、
是非お勧めしたい治療です。

なぜなら、
高齢になるほど効果が薄い方が多くなり、
骨量が全く増えない方もいるからです。

理由は、
骨を作れという命令が来ても、
現場で活気がないために
骨が作れないんだと思います。

骨粗鬆症の治療は、
薬剤を使うと
一筋縄ではいかないように思います。

現在の健康保険による治療だけでは、
骨粗鬆症の治療は難しくと感じています。


うーむ、
ちょっと長くなるので、

次回に続きますね。

今日も書籍を紹介します。