栄養療法実践整形外科医の今日の独り言です。

「尻餅をついてから腰が痛くなった」

または、

「介護している家族を支えてから腰痛あり」

という訴えで、

整形外科を受診する患者さんは
比較的多いものです。

ギックリ腰とは違い、
その時から動けなくなるのではなく、

" 痛みがだんだん増してきたり" 、
" なかなか痛みが取れない" 、

などの訴えで受診して来ます。

" 登っていた塀や
      脚立から尻餅をつく格好で落下した" 
〜そんな状態で
        背中や腰の骨が潰れる圧迫骨折では、

骨はいきなりグチャッと潰れるため
    大変に痛くて急に動けなくなりますが、

ただ尻餅をついたり、
重い物を持ち上げたり、
人を支えたりして起こる圧迫骨折は、

知らないうちに時間をかけて
     ジワジワと潰れて来ます。

毎日、毎日、
ジワジワと、
1mmにも満たないくらいジワジワと、
しかも
確実に骨が潰れて行きます。

だから、
痛くなって数日後に
整形外科を受診してレントゲンを撮っても、

" 骨は折れていない "

と言われてしまう事があります。

レントゲンで骨折が分かるのは、
そう言われてから
1〜2週間が経った頃になります。

最初に整形外科でレントゲンを撮って、
例え " 骨折なし " と言われても、

痛みがあれば1〜2週間後には
また整形外科でレントゲンを撮ってもらう、
そんな必要があります。

(その時先生から、
"前回レントゲンで大丈夫だったから、
もう一度レントゲンを撮らなくても大丈夫"
と言われたら、
迷わず違う整形外科に行って
レントゲンを必ず撮ってもらいましょう。)

背中や腰の痛みが取れない
または
背中や腰を痛がっている
ような場合には、
ジワジワ潰れてくるタイプの
圧迫骨折が起こっているかもです。

病院ならば、
MRIを最初から撮ってくれれば、
初診で骨折がわかりますが、

開業医の先生の多くは
    MRIなんか持っていません。

私のクリニックにも
    MRIなんかありません。

しかし、
尻餅をついただけで、
または
重い物を持ち上げただけで、
または
家族を抱き起こしただけで、
または
孫を抱っこしていただけで、
または
縄跳びをしただけで、
普通は
    背骨や腰の骨が潰れたりしませんが、

中には
    そんなことで骨折する方がいるのです。


どんな人でしょうか?


骨強度が弱くなっている人です。


骨強度は何で決まるのか、
    知っていますか?

骨強度 = 骨密度 + 骨質

これはよく
鉄筋コンクリートに例えられます。

骨密度はコンクリート、
骨質は鉄骨です。

鉄筋コンクリート製のビルって
建てたらそれで終わりではなく、

雨風に晒されているコンクリートは劣化し、
中の鉄骨すら錆びていきます。

放置すれば外壁が落ち、
地震などが来れば倒壊もします。

ビルは建てたらすぐに劣化が始まるため、
    常にメンテナンスが必要です。

5年目、
10年目、
私の住んでいるマンションも
その都度改修工事が行われています。

実は、
    私達の骨も同じです。

私達の知らない間に、
骨は常にメンテナンスされています。

古くなった骨は破骨細胞が壊して、
骨芽細胞が新しい骨を作ります。

私達の骨は
常にリフォームされているのです。

そのはずなんですが、

ある程度の年齢になると
ジワジワ骨折が起こってしまいます。

小学生の頃、
日直の号令で授業前の挨拶をしました。

起立!
           礼!
                   着席!

私が小学生だった頃のある朝、

同級生の1人が号令を聞いて座ったら、
あるはずの椅子がありませんでした。

誰かが意地悪して椅子を引いたんです。

同級生は尻餅をついて、
 "やられた!"って顔をして、
教室は爆笑の渦。

こんなことをされても、
当時は誰も怪我をしませんでした。

しかし、
高齢者が椅子に座り損ねたら、
高確率で背骨は骨折をします。

子供の骨は硬くてしなやか、
高齢者の骨は硬いけど脆い。

(なぜ脆いかは、
私の過去のblog 
コラーゲンの話⑥で書いていますので
後で読んでみてくださいね。)

しかし最近では、
本来尻餅をついたくらいでは
怪我をするはずがない子供が、

そんな悪戯をされて
なんと怪我をしてクリニックに来ます。

現代の人の骨は、
かなり弱っていると思います。

若くても、
歳を重ねても、
人の骨は弱くなっています。

そんな自分も、
骨密度の検査をしてみたら
3年前は平均より低くてショックでした。

では、
なんで現代の人の骨は弱っているのか?

ジワジワ骨折を起こした人は、

骨密度の検査、
血液検査、

をしますが、

骨密度の検査結果が良くても、
血液検査で栄養状態が悪いのです。

今月に入ってから、
尻餅をついてから背中の痛みや
腰の痛みが取れないと受診した
70代、80代の男女が何人も来ました。

皆、
骨密度の検査では問題ありませんが、
栄養の問題があります。

タンパク質の不足、
鉄の不足、
カルシウムなどのミネラル不足、
また明らかなのは
ビタミンCの不足です。

血液中でカルシウムは
タンパク質と一緒になっていますから、
タンパク質の不足があると
血液中のカルシウムは足りなくなります。

血液中のカルシウムが減れば、
骨からカルシウムが抜かれて、
血中カルシウム濃度を上げようとしますが、

タンパク質が足りなければ、
結局カルシウム濃度は上がらず、

身体は"血中のカルシウムがまだ足りない"
と判断して
更に骨からカルシウムを抜きます。

こうして骨は弱くなってしまいます。

タンパク質が足りないと、
いくらカルシウムを摂っても、
血中のカルシウムは増えず、
骨のカルシウムも減るのです。

また、
骨は鉄骨が不十分だと
コンクリートで固める事が出来ません。

鉄骨はコラーゲン、
つまりはタンパク質で出来ています。

タンパク質が足りないと
鉄骨が組めないため
やはり骨は弱くなっていきます。

またコラーゲンはタンパク質の他に
鉄とビタミンCが必要です。

ジワジワ骨折を起こした方は、
もれなく鉄欠乏になっています。

ビタミンCの不足も現れています。

普段する血液検査では
ビタミンCの不足を見抜けませんが、

ジワジワ骨折の女性には
ビタミンC不足に特徴的な所見があります。

アザです。

手の甲や、
腕や、
脛に、
いつ出来たかわからないアザがあります。

この原因は打撲ではありません。

ビタミンCの不足で、
血管のコラーゲンが弱くなり、
毛細血管が脆くなって破れた結果、
いつのまにかアザができるのです。

血管が勝手に破れるほど、
コラーゲンが減っており、
その結果、
骨まで弱くなっているのです。

圧迫骨折を栄養面から見て行くと、 
タンパク質、
鉄、
ビタミンC、
をたっぷりと摂取した上で
カルシウムを摂らないと、

"ジワジワ骨折の予防も治療もできない"

という事が言えるようです。

そして、
コラーゲンを劣化させる
酸化と糖化を防がないと
やはり
"ジワジワ骨折の予防も治療もできない"

という事が言えます。

そのために大事なのが、
禁煙、
禁酒、
糖質制限になります。

ブドウ糖よりも果糖の方が
糖化を起こしやすい事が明らかです。

パン、
麺、
白米、
砂糖、
を減らして、
甘い果物、
甘いジュース、
を避けていく事が大事になります。

次回は、
最近行っている圧迫骨折の治療について
お話ししますね。

骨とコラーゲンの話、
こちらの書籍もどうぞ。