埼玉県 北本市 大友外科整形外科の
栄養療法実践整形外科医の今日の独り言です。

首が痛いのに、
何人もの先生に、

              "なんともないよ"

と言われて、

遠くからやって来た患者さんが、
血液検査の結果を聞きに来ました。

『"貧血はないよ。"って言われました。』
と初診の時に教えてくれましたが、

うーん、

確かに、

この血液検査データでは
一見して貧血は無いように見えます。

なぜなら、
Hb(ヘモグロビン)は 16.0以上ありました。

このHb(ヘモグロビン)ならば誰でも

                     "貧血なし"
        
                             と言います。

しかし、
これだけのヘモグロビンの値があっても、
この患者さんには貧血症状があるんです

そこが理解できなければ、

①医師は患者さんの苦しみを消せない、
②患者さんは苦しみから解放されない、

という事になってしまいます。

私は医師が言う "なんでもない"  は、
二つあると思います。

一つは、本当になんでもない場合、

二つ目は、
医師がある言葉を
素直に言えないが故に
出る言葉だと思います。

ある言葉とは、何だと思いますか?

多分、専門家としてのプライドから、

            『わからない。』

って、言えないんだと思います。

MRIやCTなどでは所見がないから、
本音では原因がわからないのに、
"(MRIでは)なんでもないよ。"
と、事実を言っているんだと思います。

私は患者さんから
症状について質問があって
わからない時はよくこんな会話になります。

私『いやー、どうしてかわからないなー。』
患『先生にもわからないの?』
私『うん、わからない。』
患『どうしたらいいの?』
私『どうしようか?』

その後、
少し様子をみよう、
ほかの先生に診てもらおう、
お薬を飲んでみよう、
リハビリをしてみよう、
次までに調べておくね、となり
また後日来てもらって経過を追います。

症状がある人に、
          "なんでもない"
                    なんて、
本当になんでもない場合にしか言えません。



話を戻します。



世の中の常識は、
貧血 = Hb(ヘモグロビン)値の低下 です。

栄養療法実践医の常識は、
貧血症状 = 鉄欠乏症
         = 鉄代謝がうまくいっていない状態
と捉えます。

この患者さんの場合、
治らない首の痛みがあり、
過去に疲労骨折を3回起こしたという
鉄欠乏症を強く疑う症状があります。

この方の血液検査を見るとき、
いろいろな数値を基準値で考えず、

鉄を吸収できるのかな?
鉄をうまく運べるのかな?
鉄は足りているかな?
鉄をうまく使えるのかな?

ということを考えて数値を眺めます。

鉄が
口から入って、
胃酸がちゃんと出ていて、
小腸から吸収されて、
身体に運ばれて、
組織で使われて、
ちゃんと蓄えられているか?

健康保険でできる血液検査だけで、
患者さんの自覚症状を出している
原因はどこなのかを探る作業は
栄養療法実践整形外科医として
1番大切な仕事です。

この方の血液検査の結果から
私が導いた事は、

ヘモグロビンの値が高いけど、
小さくて質の悪い赤血球が多いだけ。
鉄も足りないし、
エネルギー不足。
しかも、
上手く鉄を利用できずに、
鉄の貯蔵が少ない。
おまけにストレスがかかっていて、
いつも緊張しているため、
胃の消化力が弱っている。
自分で自分を治せない状態。

なぜこんなデータになっているのか?

この方はランナー。
しかも駅伝ランナーです。

高校時代は優秀な長距離選手。
大学に進学してみたら、
先輩、同僚も皆、長距離エリート。

レギュラーになるために頑張ります。
走り込みます。

頑張り過ぎて、
身体が壊れて、
それを治せないのです。

練習について行けずに焦り、
無理をして怪我を負い更に焦る。

どうしようか悩み、
眠れなくなり、
交感神経が高ぶって、
胃腸の働きも悪くなります。

筋肉も緊張しやすくなり、
首まで痛くなって、
ついに練習を休んだのです。

これは完全に
オーバートレーニングです。

強いランナーになるために、
この方はそのプロセスを考えずに、
ただ練習に参加してしまった結果、
練習ができなくなったのです。

では、
強いランナーになるための
プロセスとは何か?

まずは己を知ることです。

自分はどれくらい走れるのか?
どれくらいの距離が走れるか?
どれくらいのペースで走れるか?
自分の限界は現時点でどれくらいか?

限界を知っておけば、
練習量が決まってきます。

もっと練習したければ、
練習できる身体づくりが必要です。

練習して、
壊れた細胞や組織を修復するために、
休養と栄養が必要です。

この選手はこれができなかったんです。

血液検査の結果をお話しして、
休養と栄養の大切さを説明し、
日々の食事指導を行いました。

そして、
身体の調子を回復させる
栄養素、
つまり、
サプリメントの処方をしました。

ヘム鉄、
ビタミンB群、
ビタミンD、
ビタミンE、
ビタミンC、
グルタミン、
BCAA 、
プロテイン、
アスタキサンチン。

この方が駅伝ランナーとして、
練習再開するまでに必要な栄養素です。

壊れた身体を治すために、
こんなに栄養が足りていないのです。

休養をするだけや
薬やリハビリでは解決できない痛みが、
栄養素の不足から来る
自分の身体の修復力不足が原因なんです。

この選手は
首がどうして痛くなったのかを
理解してくれたかどうかは、
今のところわかりません。

通院を続けてもらって、
そのことが理解できるように
フォローして行けたらいいなと思います。

一般的にはあまり理解されていない
栄養療法を実践していく
楽しさと難しさ、
これからもその狭間で
もがいてやって行こうと思います。

では、また。