埼玉県 北本市 大友外科整形外科の
栄養療法実践整形外科医の今日の独り言です。

72歳女性の話です。

左変形膝関節症でクリニックで
パワープレートによるトレーニングに通い
膝の痛みも取れて体力がついて
大変満足されていた患者さんです。

『サボってトレーニングに来なかったら、体が重くなって足が疲れるんです。』

トレーニングが大好きな方で、
ほぼ毎日頑張っておられました。

しかし、
今年の年明けから
『先生、最近両足が痛くなって、立っていると辛くなって来るんです。夜寝ていても足の置き場がない感じで、なんだかおかしいんです。』

”ここ最近、
何か変わった事をしませんでしたか?”
と、尋ねました。

『トレーニングもちゃんと来ているし、変わったことはしていません。トレーニングやり過ぎでしょうか?』

元々腰部脊柱管狭窄症がある方でしたので、
早速レントゲンをチェックして診察しました。

レントゲンや診察では進行した様子はなし。

お薬を飲むほどではないとの事で、
様子を見ることにしました。

1ヶ月ほどしてからまた診察の約束をしました。


そして、1ヶ月後。

『先生、足の痛みが続いています。』との事。

診察をしても
神経がやられている事はなさそうでした。

”MRIを撮ってみましょうか?”

とお勧めしましたが、もう少し様子を見ながら回数を減らしながらトレーニングを続けたいとのご希望でした。

『歳でしょうか、先生。』というので、 

”違います。何か必ず原因があるんです。でも、トレーニング回数は控えめにしておきましょう。”
とお答えしました。

原因がわからないままでしたので、
血液検査をしようと提案したした。

『昨年11月に採血をしたばかりだから
次回にお願いします。』との事。

”症状が取れなかったら次回に”
と約束しました。

そんなやりとりの後、
クリニック以外のある場所で
『先生!』
と聞き覚えのある声が。

声の方向に目をやると、
やはり足の痛みが続いていた患者さんでした。

『私、足の痛みがなくなったんです!原因がわからなかったんですが、秋に健康診断を受けたら、コレステロールの値が高いからって内科からコレステロールを下げる薬をもらってずっと飲んでいたんです。よく考えたら足の痛みは、その薬を飲んでからだったんで、薬のせいかな〜?と思って、飲むのをやめて見たら、足の痛みがとれたんです!だから、薬はやめちゃいました。ごめんなさいね、呼び止めちゃって。』

”やっぱり歳のせいじゃかったですね。
よかった、よかった。”

と挨拶して別れました。

その患者さん、
今では足の痛みがとれて
また毎日トレーニングに来ています。

患者さんは、市の健康診断を受けて、内科で健康診断結果からコレステロールが高いと指摘され、動脈硬化の説明を受けて、その予防を勧められてコレステロールを下げる薬を飲み始めたそうです。

その結果、足が痛くなり、
歳をとったと不安になってしまいました。

コレステロールを下げる薬は、
スタチンと呼ばれるもの。

下の図を見て下さい。
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コレステロールは食べたものから作られた
アセチル-CoAを出発点に様々な酵素反応を経て合成されます。

スタチンは、赤い文字の酵素のうち
HMG-CoA還元酵素を阻害して、
図の矢印が下に進まないようにしています。

この薬は、矢印の一番下の
ユビキノン、
コレステロール、
ドリコール、
を作れないようにする薬です。

つまり、
コレステロールだけを下げているのではありません。

私達の身体は、
神様が作ったとしか思えない機能を持ちます。

コレステロールはblogでも書きましたが、
①脳や神経の構成成分
②細胞の骨格を作る
③胆汁の材料
④ホルモンの材料
でした。

では、ドリコールって何?

これは、細胞壁や糖タンパク質の生合成過程で重要な役割を担っていると言われています。

では、ユビキノンって何?

これは大変重要なもの。
私達の身体では、CoQ10そのものです。

CoQ10は、
細胞膜を構成する脂質二重膜の間に局在し、
細胞膜を酸化から防いでくれているビタミンEを
再生する働きぐあります。

コレステロールを下げる薬は、
このCoQ10も作れなくするのです。

足の痛みが続いていた患者さんは、
コレステロール値も下がったかも知れませんが、
当然ドリコールやCoQ10も下がったのでしょう。

その結果、
細胞膜が弱り、
筋肉が壊れて筋肉痛が起こっていた
と想像されます。

ちなみにコレステロールを下げる薬の副作用は、
”腹痛・発疹・倦怠感などのほかに、重篤なものとして横紋筋融解症末梢神経障害・ミオパシー肝機能障害血小板減少などがある。(Wikipediaより引用)”と、あります。

全ての副作用は、
コレステロールの減少、
ドリコールの減少、
CoQ10の減少、
で説明可能です。


また、かなり前の話も思い出しました。

右人差し指の第2関節(右示指PIP関節)の腫れと痛みで来院し、
レントゲンで異常なし、
痛み止めや湿布も無効で、
治療に困った60代の女性がいました。

私は何もできないでいましたが、
数ヶ月後痛みがなくなったからと来院。

患者さんが言いました。

『内科で健康診断を受けて飲み始めたコレステロールの薬のせいだと思って、薬を飲むのをやめたら、指の腫れと痛みが消えたのよ。その後、本当に薬のせいか確かめたくて、またコレステロールの薬を飲んだら、また痛くなったのよ。先生、コレステロールの薬って、怖いのね。』

”えー、そんな事があるんですねー。”

当時は私自身、あまり血液検査なんかしない
普通の整形外科医だった頃のお話です。

健康診断って、何なんでしょうか?

閉経後女性のコレステロール値は、
年々上がってくるのは当たり前です。

しかし、
健康診断の基準値が
年齢を考慮に入れずに設定されていれば、
ある年齢を超えたら
”コレステロールが高いから薬を飲みましょう”
と、たくさんの方が薬を飲むことを勧められています。

そのような薬を飲んでいる方に聞くと、
多くの方が
『健康診断を受けてコレステロールと中性脂肪の値が基準値を超えているから下げた方がいいと医師に言われて薬を出されてからずっと飲んでいる』と、言います。

              ❓

私なら、まず薬を出す前に、
なぜコレステロールと中性脂肪が高いか、
その原因を探します。

糖質の摂り過ぎか脂肪の摂り過ぎか、
アルコールは飲んでいないか、
食事の質はどうか、食事のタイミングはどうか、
甲状腺機能はどうか、
食物繊維はどれだけ摂っているか、
多くは生活習慣を正す事で改善できます。

改善できない場合や、
特別な病気を考える場合にだけ、
お薬を使いましょうと助言します。

整形外科にくる患者さんで、
スタチンが関係している
と思われる患者さんは意外と多い気がします。

自ら、

”お薬のせいでは?”

と、気づいた方は大正解。

薬のせいだと気づかない方は、
残念ながら”お気の毒”というしかありません。

なぜなら、
コレステロールのお薬が効き過ぎていますとやんわりと指摘しても、内科で続けなさいと言われると、やめられないからです。

さあ、
あなたの足の痛みは一体何のせいでしょうか?

では、また。