埼玉県 北本市 大友外科整形外科の
栄養療法実践整形外科医の今日の独り言です。

60代の男性のお話しです。

腰が痛いというその男性がやって来たのは、
1月の始めでした。

特に何をしたわけでないとの事。
まずはレントゲンをチェックしました。

私『骨は大丈夫そうですね。』
患『こんなに痛いのは始めてだよ、先生。』
私『血液検査で原因を調べて見ましょう。』

こんな時、
 患者さんの訴えを客観的に判断するため、
また、栄養状態の確認のために大事なのが、
血液検査です。

私は初診時にレントゲンを撮る前に、
腰椎の圧迫骨折があると思っていましたが、
当日は確認されませんでした。

しかし、腰痛は比較的強かったので、
脊椎脊髄外科医である私はレントゲンを見て、
『腰の骨が折れている事があるので、血液検査の結果が出る1週間後にまた来てください。痛みが取れないようなら、もう一度レントゲンを撮りましょう。』と、説明させて頂きました。

痛み止めの飲み薬を処方し、
圧迫骨折が起こっいることを前提にして
生活指導をさせて頂きました。

1週間後、
『先生、やっぱり痛いよ。』と
痛そうに診察室に入って来ました。

レントゲンをもう一度撮りました。
やっぱり腰椎に圧迫骨折がありました。

1週間前の写真では全く正常なのに、
今回は3番目の腰の骨が僅かに凹んでいました。

丁度その日の午後は
装具屋さんが来る日でした。

腰椎のコルセットを採寸してもらい、
本人専用のコルセットが出来上がり次第、
宅配でクリニックに届けてもらうように
手配をしました。

痛みが強いため、
坐薬も処方させて頂きました。

そして、血液検査の結果を説明しました。

まずはいつもの質問からはじめます。
『普段、朝は何を食べていますか?』
『朝は、.........。』

なるほど、
『では、お昼は何を食べますか?間食は?』
『昼は、.........。間食は、.........。』

なるほど、なるほど、
『じゃあ、夜はどうですか?』
『夜は、.........。健康には気を付けていて、今年も健康診断で大丈夫って言われたばかりです。』

やっぱりそうでしたか。

この男性、
身体は大きく、
声は低く、
ダンディーで、
見た目は全く骨折とは程遠いのですが、
問診で食事内容を聴くと、
骨折は起こるべきして起こってたのでした。

しかも、
”健康にいい食事を摂っていた” 
のです。

その食事とは、
朝 : パン、野菜サラダ、ヨーグルト、バナナ
昼 : 麺類
間食 :あまり摂らない
夕 : ごはん、魚か肉(鳥か豚)、野菜炒め

大雑把に見ても、栄養バランスは
炭水化物(糖質と食物繊維) 80%
タンパク質 15%
脂質 5%
ミネラル少々

カロリーという見方からすれば、
”ちょっと糖質は多いけど、健康的です。”
という評価がされる内容です。

しかし、栄養素という見方からすれば、
”糖質の過剰摂取です。タンパク質を増やして、脂質でもっとカロリーを上げて、ビタミンやミネラルも増やしましょう。”
と、指導を必要とする状況なのです。

整形外科患者さんのほとんどが、
このような ”健康的な食事” をしています。

仕方ないのが現状です。

なぜなら、3年前まで
医師である私自身も全く同じ食事でしたから。

この方の血液検査データから読み取れたのは、
まず筋肉量の低下です。
コレステロールが低く、
タンパク質不足が目立ちました。
『最近ももの肉が落ちて、疲れる』
というのはこのせいでした。

次に目立ったのは、
高い中性脂肪と微妙に高い血糖でした。
『普段はこんなに中性脂肪は高くない』との事ですが、仰る通りです。

なぜなら、
健康診断では朝一番の食前の採血だからです。

つまり、
空腹時は食事の影響がないため、
食後にどれだけ中性脂肪が上がっているのか、
その現実を患者さん達は知らないのです。

しかも、
ほとんどの患者さん達は健康診断の前には、
姑息な準備をしています。

だって、大抵健康診断は予約制ですから。

例えば、
前日に甘いものを摂らない、
酒を飲まないなど、
悪いデータにならないようにズルしています。

整形外科の患者さんは、
まさか腰痛や肩こりで血液検査をされる
なんて思っていないので、
私の患者さん達は普段通りの自分の状態を
曝け出されてしまうのです。

だから、
採血結果を説明した時に言い訳をします。

例えばこんな風に、
『ああ、先生、実はこの血液検査の前に大福を食べちゃったのよ。いつもはこんなに中性脂肪は高くないので、大丈夫です。』

いやいや、
普段通りのあなたは大丈夫ではないのです。

ちなみに、
患者さんがたまに持って来る
内科や健康診断の血液検査の数値は
患者さんの努力の証として、
私は参考程度にチラ見するだけです。



話を戻しましょう。



腰痛の患者さんのデータから
他にわかったことは、
ビタミンAやビタミンB群の不足と
鉄や亜鉛などのミネラルの不足でした。

多くの先生方が、
”基準値に入っているから異常なし” 
とスルーしているAST,ALT,LDHや尿酸、

”基準値に入っているから貧血なし” 
としてスルーしているHb,MCV,MCHCなど、

それらから栄養を読み取ると、
整形外科患者さんで
ビタミン、ミネラルが足りている人は
まずいません。

タンパク質、ビタミンB群、鉄、亜鉛の不足。

これを全て含む食材が
私がこれでもか!と、ブログアップして来た
赤身のお肉なんです。

私は圧迫骨折をして痛がっていた患者さんに
『赤身のお肉を食べて下さいね。』
と、簡単なお食事指導をしました。

『そう言えば、
(赤身)肉は体に悪いと思って
魚や鳥ばっかり食ってたな〜。
お肉食べるよ、先生。』
と言って患者さんは帰って行きました。

昨日の午後にお見えになったその患者さん、
診察室に入るなり、

『先生の言う通りだったよ。』

と私に話しました。

『えっ、何ですか?』と尋ねたら、 

『腰が痛くなくなったんだよ。
お肉食べたら治ったよ。
足もフラつかなくなって来たし、
元気になったんだよ。』

良かったですねと私も喜び、
『2週間したらレントゲン撮りましょうね。』
と、約束しました。

『わかりました。』
と、スッと立ち上がり、
スタスタと診察室を後にしました。

”赤身のお肉とレバーを食べてね”

このワンフレーズを、
一年で何人の患者さんに言ったことでしょう。

いやいや、
この先も沢山の患者さんに言うと思います。



『お肉食べたら治ったよ。』って、
また言われたいからです。



では、また。