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憲法!崖っぷち!私たちはおそれない

大木晴子さんの著書「1969 新宿西口地下広場」の発刊記念イベントが、昨日(8月16日)、新宿職安通り沿いの小さなライブハウスで開催された。この日はあいにく外せない用事が入ってしまい半ば諦めていたのだが、どうにかこうにか中抜けして参加することができた。

良いイベントであった。元NHKディレクター志村建世さんによる60年代当時の16ミリ映画撮影機(なんとゼンマイ式!)を実演しながらの映像論は大変分かりやすく、映画「地下広場」撮影時の苦労が伝わってきたし、何より「説明(啓蒙)するのではなく、各人に“気付かせる”のが良いドキュメンタリー」とのメッセージは、全ての表現や運動に通じる教訓として重たく胸に響くものがあった。

また、元べ平連事務局長の吉川勇一さんからは、フォーク・ゲリラにとって大きなターニングポイントとなった1969年6月28日の出来事、すなわち、機動隊が新宿西口地下広場の何千人という群衆めがけガス弾を一斉射撃し、フォークの広場が「怒声と涙の広場」と化したあの惨劇について新たな事実が報告された。これは、極めて重要な内容なので以下箇条書きにして記録しておく。

○新左翼党派(第4インターナショナル、共産主義労働者党など)は、新宿郵便局自動読取機搬入阻止闘争にフォーク・ゲリラを利用しようと考えていた。具体的には、闘争を土曜夜の反戦フォーク集会とぶつけることで、参加した数千の市民をデモに巻き込み、国家権力による郵便局合理化の企てを大衆的に粉砕しようと画策した。

○フォーク・ゲリラ側は、勿論、新左翼には利用されまいとした。悩んだ末、利用されるのでもなく、知らぬ顔をするのでもなく、「(機動隊を)監視に行く」という方針を決めた。しかし、結果は全部巻き込まれてしまった。フォーク集会に初めて暴力が持ち込まれ、怪我人も出て、フォーク・ゲリラが壊されるきっかけとなった。

○警察側は、新左翼党派の動きをあらかじめ察知しており、フォーク集会が闘争に巻き込まれることを「フォーク・ゲリラと地下広場を終わらせる千載一遇のチャンス」と考え、手ぐすね引いて待っていた。そして、警察の思惑通りになった。

○この重大な問題について当事者の間でいまだに十分な総括や検証が行われていないのではないか。

会場に一気に重たい空気が流れた。吉川さんの報告を受け、晴子さんは、「6月28日、私たちは本当に真剣に考えに考えて、人々に『見に行こう』と呼びかけた。(呼びかけた)ゴリちゃんは『何千という人たちがワーッと動き出した時、言葉の怖さを感じた。思い出すたびぞっとする』と言っている。彼は、その重さをいまだに抱えながら生きているのです」と話し、「利用というのは寂しい。左側にいた人たちも総括が必要ですね」とやや曇った表情を見せた。

イベントでは、このほか、「標的の村」を監督された三上智恵さんからの沖縄レポートがあり、それは、まさに、マスコミが報道しない国家権力による沖縄圧殺についてのリアルな現場報告であった。個人的に印象に残った話がある。基地反対闘争の最中、反対派住民が歌い出す。ウチナーンチュなら誰もが知っている沖縄民謡だ。その時、対峙する沖縄防衛局の職員も、実は心の中では「イーヤーサーサー」と合いの手を入れているのではないか。何故かって、彼らも同じウチナーンチュだから――。正確ではないが、概ねこのような話であった。歌が、闘争という極めて非日常的な場における敵と味方という硬直的な関係性を超えて、長い長い歴史を共に育んできた同胞の血と地と知の歴史を想起させる、そして人と人との関係性を紡ぎなおす、そのような手段として活きているのだということをあらためて認識させてくれるエピソードであった。

最後にどうしても書いておかなければならないことがある。それは、晴子さんの歌声の素晴らしさだ。この日、晴子さんは、60年安保闘争で命を落とした樺美智子さんに捧げる追悼歌「前進」を一番だけ無伴奏で歌ってくれた。高橋敬子さんの詩に中川五郎さんが曲を付けたこの歌は、静謐な曲調でありながらサビでやや強引な転調をみせるため、演奏無しに上手く歌いこなすのは難しい。それを、晴子さんは、まるで昨日まで地下広場で歌っていたかのように、正確な音程で、そして、説得力溢れる素晴らしい美声で歌ってみせたのだ。

  あなたがもう笑えないから
  あなたがもう愛せないから
  わたしはこんなにすすりなくのだ

当時、この歌はまだレコード化されておらず、晴子さん達は手作りの歌集と口伝えで曲を覚えたという。権力の嫌がらせが無かった頃、地下広場の小さな輪の中で何回も歌われた。そして、45年が経ち、今、新宿のライブハウスで歌っている。目を閉じて聴きながら思った。「歌声は最強の武器である」と。その武器を、彼女は何故封印してしまったのであろうか。