デヴィッド・クロスビーのカリスマ | AFTER THE GOLD RUSH

AFTER THE GOLD RUSH

とおくまでゆくんだ ぼくらの好きな音楽よ――

先月発売されたモンタレー・ポップフェスティバルのDVDは、素晴らしかった。特にDisc3に収められた未公開映像の数々・・・。エレクトリック・フラッグやローラ・ニーロの「動く姿」にも大いに興奮したが、ボクにとって一番エキサイティングだったのは、デヴィッド・クロスビーの若き日の雄姿が見れたこと。ロシア帽を被った彼は、尋常ではないテンションでケネディ暗殺について観客にアジり、「He was a friend of mine」を、ロジャー・マッギンと一つのマイクに顔をつき合わせ、激しく歌っていた。そのエキセントリックなまでの「怒れる若者」ぶりは、観る者を全面降伏させる凄まじい迫力があった。

 

正直、今まで、ザ・バーズにおけるデヴィッド・クロスビーのポジションというのは、どうにもピンとこないものがあった。特に印象に残る曲を書いているわけでもなく、ギターも凄腕というわけでもない。確かに歌は上手いが、それだけの歌手なら、あの時代ゴマンといる。大体ルックスからして、ロック・スターとは程遠い、小太りで人の良さそうなお兄ちゃんといった感じである。だから、女性に人気があったという話も腑に落ちず、そうだ、ビートルズのリンゴ的存在だったのかな、と勝手に思っていた。

 

でも、この映像でようやく分かった。彼は、ザ・バーズのスポークスマンであり、また、時代のオピニオン・リーダーでもあったのだ。カリスマが発する独特のオーラというヤツは、残念ながらCDの音像だけでは充分に伝わらない。それは、決意に満ちた語り口、強い目の輝き、チャーミングな立ち振る舞い、等々、映像と音が一体となって、そして時代の空気を伴って、初めて全体像が伝わってくるものだと思う。例えば、昭和40年代生まれのボクの世代にとって、ボブ・ディランの本当のカッコ良さは、1965年の記録映画「Dont Look Back」を観て、初めて理解できたように・・・。

 

david crosby  

 

クロスビーに話を戻すと、モンタレーで、バッファロー・スプリングフィールドの臨時メンバーとしても演奏した彼は、マッギンとの関係に決定的な亀裂を生み、バーズをクビになり、その後、Crosby, Stills & Nashを結成。音楽性、人気共に絶頂期を迎えるが、恋人の死などを契機にドラッグにはまり、急激に転落していく。1983年に銃とドラッグの不法所持で逮捕され、1986年にも逮捕、結果としてこれが立ち直りのきっかけともなるのだが、かつてのカリスマは落ちるところまで落ちてしまう。

 

クロスビーの曲でボクが一番好きなのは、Crosby, Stills & Nashが1982年に発表したアルバム「Day Light Again」にひっそりと収録されているピアノバラード「Delta」だ。当時、重度のコカイン中毒にあった彼が書いたこの曲は、しかし、そんなことは微塵も感じさせない静かで美しい仕上がりになっている。陰鬱で難解な曲調を得意としていたクロスビーの、その、すっかり毒気も覇気も抜けたような姿は、かつての彼のファンには、どのように映ったのだろうか?