今回は、多発性嚢胞腎にトルバプタンが作用し、嚢胞の成長を抑制する効果以外にも、よい効果が得られたという研究結果の話を書かせて頂こうと思う。
トルバプタンが嚢胞の成長を抑制するのは、もう既に何度も書かせていただき、尚且つ実際にトルバプタンを服用してから、結果小さくなっていたことから効果があると実感している。
が、その他にも実は腎臓に良い効果があることがわかった。2021年に日本腎臓学会英文紙に発表された論文によるとトルバプタンとプラセボ(偽薬)を3年間飲み続けた結果、トルバプタンを飲んだ方は、嚢胞が大きくなるのを抑制出来ている場合と、ある程度抑制出来ている場合があるものの、腎機能低下の抑制に関してはどちらも効果が見られた。ちなみにプラセボの方は、嚢胞の抑制はもちろん腎機能低下の抑制も見られなかったということだ。
嚢胞の成長が抑制されることももちろん重要だが、腎機能低下の抑制にも効果があるということは、バソブレシンの作用をトルバプタンが抑えた結果であることがわかる。
バソプレシンとは、尿を出さないようにするホルモンであり、糸球体濾過量を増やす(腎臓を頑張らせる)作用がある。また、最近では腎機能低下を後押しする作用もあるということがわかってきた。2020年のアメリカ腎臓学会誌で、バソプレシンは嚢胞の周りの支持組織(間質)の繊維化をすすめるという報告もあった。どういうことかというと、嚢胞がおおきくなるとその周りの正常な尿細管は徐々に消失し、間質に繊維化が進んでくる。正常に働く細胞が減り、腎機能が低下していくということだ。
この繊維化に大きく関わっているとされているのが、バソプレシンだ。このバソプレシンの刺激により嚢胞ができる細胞の中にYAP(タンパク質の一種)やCON2(結合組織成長因子)などの物質が増え、嚢胞が成長し繊維化を進めるもいうことがわかってきた。
さらにもうひとつ、2019年に国際紙のnature Communicationsで報告された、猿の嚢胞の研究では、嚢胞は尿細管の様々な部分から出来ており、その中でも大きくなるものの大部分がアクアポリン2という物質からなる細胞(主に集合管に存在)から出来て来ることがわかり、このアクアポリン2という物質は、バソプレシンが働くことにより出てくるものだとわかった。この結果から、嚢胞があった場合でも、バソプレシンの働きを抑えることで、嚢胞の成長を抑制できることがわかる。
上記のことからもバソプレシンは、嚢胞に悪影響を与える可能性があることがわかる。身体の水分調整に欠かせないホルモンではあるが、嚢胞がある場合には、働いてほしくないホルモンといえる。バソプレシンを出さないようにするには、十分な水分を摂取することが重要だ。
また、別の研究でも、バソプレシンを投与することで間質の繊維化が進むことがわかり、その原因がバソプレシンを刺激する物質CCN2という成長因子が発見された。このCCN2の役割を確認するための研究では、この物質を発現しないように遺伝子操作した場合、嚢胞の成長抑制や繊維化が減少したということだ。さらにこのCCN2は、YAPという物質で抑制されていることもわかった。この物質に関しても、遺伝子操作で発現を抑えると当然ながら嚢胞、繊維化のどちらの抑制も得られたということだ。
トルバプタンは、バソプレシン抑制によって、上記の作用を抑制することにより、糸球体濾過量を減らすので一時的にクレアチニン値が上がり、eGFR(推算糸球体濾過量)値は減ることになるが、長期的に見ると腎臓に負担をかけないことになるので、腎保護効果にも繋がるということになる。
トルバプタンがどうして、多発性嚢胞腎に効果があるのかが、少しは理解出来たかと思われる。残念ながら、効果があるのは間違いないのだが、このトルバプタンで消失させることは出来ない。今後、嚢胞を小さく、そして更に消失出来るような医学が進むことを強く望む。