手術当日。手術日は、お見舞いも不可、一般診察も不可の為、大学病院へ行くことすらできず、ただただ無事を終わる事を祈り、その連絡の電話を待つのみ。


午後1番の手術と聞いてはいたものの、変更もあり得るとのことで、何時頃に行われ、連絡が来るのか見当もつかず、仕事も手につかない。


猫の尿管結石手術には、3つの方法がある

①尿管切開術

②尿管膀胱新吻合術

③皮下尿管バイパス術(SUBシステム)


1番ポピュラーで昔から行われているのが①の尿管切開術だ。逆に言うとコレしか術方がなかったとも言える。

猫の尿管は、かなり細く、平均1㍉程度、内腔に至っては、0.8㍉程度と言われている。その為、かなり高度な技術が要求される。また、腎臓結石が見られない場合、再び石が出来てしまうリスクを予防、回避出来る可能性が高ければ、この術方を用いられることが多い。


切開術とは、字の如く、結石の詰まった部分の尿管にメスを入れ、石を取り出し縫合するという術方だ。手術自体が成功しても、猫特有の細い尿管が、術後高い確率で癒着を起こし、石ではなく癒着により詰まってしまうリスクが高い。


そこで次に考えられた術方が、②の尿管膀胱新吻合術だ。コレは結石の部分を切開し、石を取り出し、その部分をそのまま縫合するのではなく、直接膀胱に穴をあけ繋いでしまうという術方だ。腎臓結石がある場合、今詰まっている石を取っても、また腎臓から石が尿管へ移動し、詰まってしまう可能性が高いことから、尿管で詰まらないよう、直接膀胱へ繋ぎ、腎臓から落ちてきた石を膀胱へ落として、閉塞を防ぐことができる。もちろん、今以上に石を作らないように予防していくことも必須だ。デメリットとしては、膀胱との繋ぎ目がやはり癒着しやすいことと、術後の腹腔内への尿もれの可能性があること。


そして、最新の術方が③の皮下尿管バイパス術(SUBシステム)だ。アメリカでは、主流になりつつあるらしいが、こちらもメリットとデメリットがある。術方としては、猫の尿管をSUBシステムと言う人工的なシステムに置き換えてしまうというものだ。もちろん片側の尿管手術のみも可能だ。本来の結石の詰まった尿管は、そのまま残し、腎臓から膀胱へSUBシステムという人工物でバイパスを作ってしまう術方だ。試験的に、元の尿管の結石除去も行い、更にバイパス手術を行った場合、どちらも詰まってしまうと言うデータもあり、そのほとんどが、結石除去をせず、バイパスを繋ぐのみ行われているのが現状のようだ。


一見してみると③が、最新ですごく良さそうにも見えるのだが、やはりまだ実績が(特に日本では)あまりなく、行える病院もまだ少ない。そして、デメリットととして、数年に1度は、交換の手術が必要となることだ。人工物なので、体内にとっては、やはり異物として認識されることからか、バイパス内に付着物が溜まり、目詰まりを起こしてしまうらしく、もしこの術方を選択するとするならば、老猫の方が交換の必要なく生涯を過ごせるのではないだろうか。何度もの開腹手術は、人でもかなりのダメージがあるのに、小さな体の猫ならもっとだろう。そして、時には、この交換を待たずして、バイパスが体内で捻れたりと、再手術が必要となることもあり得るようだ。


それぞれのメリット、デメリットを聞き、調べ尽くした限り、当初ポピュラーで、成功率の高い①切開術で行う方向で考えていた。兄猫は、多発性嚢胞腎で更に腎臓と尿管を繋ぐ場所に大きな結石があり、バイパスを繋ぐのがかなり難しいと言うことだった。そして私もデメリットから③は、出来れば選択したくなかった。


手術時の兄猫の状態は、両方の尿管に結石があり、片方は結石かあるものの尿が流れている状態なので、逆にそのまま動かないでいてくれれば、今のまま現状維持でOK。問題は、もう片側の石。これが完全に閉塞させてしまっているようで、結石の周りが腫れて太くなってきていた。ある意味これが手術のタイミングとでもいおうか、ドクターにとっては太くなってくれた尿管の方が、手術しやすく、猫自身にとっても、コレが限界の状態なので、このタイミングで手術を行わなければ、その結石で詰まった方の腎臓は、尿を送り出すことができず、腎臓が尿で溢れ機能を失うことになる。もう片方の腎臓と尿管にもリスクを抱えている兄猫には、手術を回避するということは、考えられなかった。


手術ギリギリになって、ドクターからの提案があったのが、②尿管膀胱新吻合術だ。この時点で兄猫は、両腎臓にも大きくたくさんの結石があり、多発性嚢胞腎による嚢胞もかなり出来ていた。それを考慮して、ドクターは、猫の負担になる再手術(再び石が腎臓から尿管へ落ちて詰まる、術後の癒着等々)を回避すべく、お腹を開いた時点で、②の方がベストだと思ったら、そちらへ変更してもいいですか?と問われた。


もう一度頭の中で、メリットとデメリット、手術の成功率等々考えを巡らせた結果、ドクターに信頼してお任せすることにした。


次回→術後〜術後入院