第18話「救い」その1 | にゃんすけのオモチャ箱

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黒いF00…機体名はバンシィノルンという。

暫く生明と格之進はバンシィノルンを見たまま動けなかった。


その止まった空気を動かしたのは、バンシィノルンだった。


「お前が…シンの妻か?」


「そうよ…。あなた…シンさんを知っているの?!」


「(それに応えず)、それならば頼みがある。オレは投獄コロニーから来た。どうか、助けてくれないか…?」


「投獄コロニー?!どうやって抜け出したというの?!」

投獄コロニーとは、凶悪犯罪を犯した人間が放り込まれる、地球外刑務所的な役割を果たしている宇宙コロニーのことだ。


その遺伝子を断つべく、投獄された犯人の子孫も、そこで産まれ、一生を終える運命を背負われるのだ。


「このようなモビルスーツを作る技術もある。コロニーから抜け出すのは、もう訳ないことだ。まぁ…時間はかかったがな」


「投獄された犯人を、あたしに救えとでも言うの?」


「気持ちはわかる。だが、その子供達はなんの罪もないのに、あの様な隔離された世界で生きていかねばならぬのだ。それでなくても息が詰まる牢獄のようなコロニーの中で、常に死の危険と隣り合わせの中での生活は…生きた心地なんてしない。せめて子供達だけでも…」


確かに生明も、その子孫まで罪を背負わなければ生らないのは、心を痛めていた。

そして…どうしても気になっていた事があった。


「考えさせて。少しだけ…1週間だけ」

驚いた格之進が生明を見た。


「分かった…ありがとう」

バンシィノルンの搭乗者は、姿を見せぬまま、その場を飛び立って行った…


「いいのかい?あんなこと言って!」


「投獄コロニー…気になる人がいるのよ」


「そうか…わかった。生明さんが決めたなら…僕も出来ることがあれば手伝わせてくれ」


「ありがとう。じゃ、テツヤとアラタ、りりのことを、頼んでいいかな?」


「…やはり、それしかないよな(笑)」


「なんか色々気にしてるみたいだけど…頼りにしてるのよ、あたしは格さんのこと?」


「えぇ…そうかなぁ…」


「適材適所っていうでしょ?それに、りりもいるから」


「生明さんは…?」


「あたし…?あたし、何が出来るのかな?あんなふうに頼まれたけど、何を期待されてるんかなぁ」


なんとなく、格之進は生明がオトボケ女に見えてきた。

それで、ここ最近気になっていたことをつい、聞いてしまった。




「話変わるけど…生明さん…どうしてあんなに頑なにマァルと戦わなかったの?」


「え…?だって怖いじゃない。格さんだって痛いの、嫌でしょ?」


「え?…まぁ、そ、そりゃまぁ、そうだけど…」


「明らかにあたしより強い相手に向かうのは、無謀でしょー、やっぱ。いかに逃げられるかしか考えてなかったよ」


「…い、意外だった。そうなんだ」


「意外?そう?だからね、格さんだってがんばり過ぎないで、逃げたい時は逃げていいんだからね?勝てない相手に立ち向かっていくのがカッコいいなんて、あたしは嘘だと思うんだよねー」


「で、でも…もし向こうが仕掛けてきたら、どうしてたの?」


「もちろん…逃げる(笑)」


「やっぱり逃げるんだ(笑)」


「だからね、戦うだけが偉いわけじゃないからね。子供の面倒も、大切…つーか、それがいちばん大切だ!」


「確かに…!」


と言って、ふたりで笑い合ったのだった。


(その2へつづく)