散々悩んだ挙げ句約束の時間から2時間経過し店についたジェジュンは窓際に座りスマホを見ながら外を何度も確認しているユノを見つけた。
ジェジュンは気持ちを落ち着かせるために大きく息を吐きユノの所へ近づいた。
ユノはジェジュンに気づき視線をスマホに戻した。
「おせーよ」
スマホをいじりながら呟くユノがあまりにも自然で付き合っていた時の感覚が瞬時によみがえってきた。
違う。ユノは結婚して子供が生まれ、二人は別れた……
ジェジュンはそう自分に言い聞かせた。
「誰も待っててくれと頼んでないし来る気もなかったけど……」
ジェジュンはぶっきらぼうにそう言って座った。
「だけど俺はお前をこうして待っていたし、お前もここにきた」
何が言いたいんだとジェジュンは言いたかったが口をつぐんだ。
「……いくらなんでも聞いた以上お祝いは言わなくちゃな、おめでとうユノ。女の子だって?また今度出産祝い買ってチャンミンに預けるよ」
ユノの言葉を遮るようにジェジュンが一気にまくし立てた。
「そんなのいらない……それよりもチャンミンのスマホを何故お前が受けた?」
「チャンミンは今俺のいるスクールの生徒だ。チャンミンが他の生徒さん達と飲んでて酔いつぶれてしまって困った生徒さんから俺の所に連絡があって・・・」
「それでそのままチャンミンと寝たのか?」
ジェジュンの目が大きく開いた。
「は?お前今自分で何言ってるかわかってんの?バカじゃねぇ?」
ジェジュンは声を荒げながら立ち上がった。
周りの人達が怪訝な顔をして自分達を見ているのを感じたジェジュンはそのまま座った。
「話をごまかすな!寝たのかって聞いてるんだ!俺に対する復讐のためにチャンミンを利用したのなら俺はお前を許さない」
「3流小説家にでもなれば?バカバカしい。勝手に想像してろ。それに俺がチャンミンと寝ようが寝まいがお前にはもう関係ないだろ?」
「なんだと!?やっぱり寝たのか!」
ジェジュンはユノを睨みつけ無言で店を出た。
来るんじゃなかった……
ジェジュンにとってチャンミンは二人の一番輝いていた時の象徴だった。
ジェジュンはその崇高な思い出までも汚された気がして怒りが頂点に達した。
何を期待してのこのこ出て来たんだろう。
期待?
早足で歩いていたジェジュンは立ち止まった。
違う。もっと単純な事。
期待なんかするわけない
ただ会いたかったんだ
ユノにもう一度だけでも……
(情けない……)
ジェジュンはそんな自分に対し悔しくて泣けてきた。
涙をぬぐっていた時、後ろから強い力で腕をつかまれた。
びっくりして後ろを振り向くとユノだった。
「・・・お前・・泣いてるのか?」
「泣いてるわけないだろ」
ユノの手を振りほどき歩き出そうとするジェジュンをユノは自分の胸に引き寄せ抱きしめた。
ジェジュンは初めてユノにハグされた日を思い出した。
俺から好きになってユノに思いを伝えてきたある日
「俺達つきあおっか」と軽いノリで言われこうして抱きしめられた。
その日も耳が真っ赤になるほどの寒い日だった。
待ちわびた言葉だったけどあまりにも軽い口調で告白され遊ばれるんじゃないかと不安がよぎった。
だけどその不安を払拭するかのようにユノの速まる心臓の鼓動が耳に伝わった。
「ユノ、ドキドキしてる?」
「そりゃするだろ?好きな奴を抱きしめてるんだから、そんな事聞くな」
その時と同じ速さの心臓の鼓動がジェジュンを戸惑わせた。
「ジェジュン、どうして俺を置いていった。どうして俺のそばにずっといてくれなかったんだ」
その言葉にジェジュンは我に返った。
(俺が一番後悔している。怖ったんだ。ユノのために何もかも捨ててしまいそうな自分が・・・今までバイオリンにかけてきた、とてつもなく長い歳月が無駄になってしまう事が・・)
「ユノ、目を覚ませよ。お前は今日父親になったんだぞ・・・」
強く抱きしめていたユノの力が緩んでいきジェジュンは解放された。
「もう二度と会う事ないようにしよう。俺達、会っちゃいけないよ」
そしてジェジュンはユノを残しその場を去った。