夫の神坂俊一郎、完全にリタイヤして暇になったので、自治会副会長職を推薦されて、無難に務めています。
私、彼の妻美奈子、不愛想と言うのか、社交的とは言い難い夫にそんな役職が務まるのか心配だったのですが、彼、語学の天才の能力を応用しているのか、実はどんな相手とも話を合わせて会話する能力もありましたから、その場で突然降られても、臨機応変に対応できるのです。
娘二人の結婚式でも、何の因果か、二人ともシングルマザーではないにしても、両親が離婚した男性と結婚していましたから、本来、式の最後の挨拶を、新郎の父が務めるものなのですが、その場で突然振られても、全く慌てず騒がず、アドリブで挨拶していました。
もっとも本人、2回とも、最初に、「おっ、こりゃ本日一番のサプライズだ。」と言いましたから、本当に全く用意していなかったのにできたわけです。
まあ、娘二人が二人とも、事前にきちんと頼んでおかなかったのが悪いのですが、最初はともかく、二回目は予想できたはずですから、用意ぐらいしておいてもおかしくはないのですが、完全アドリブでもちゃんとこなしてしまうところは、こんな面でも天才です。
しかし、本人、自治会副会長なのに、こうも言っています。
「自治会役員で、名前と顔がわかるのは、会長、事務局長、の他、5人ぐらいだ。」
それでも、堂々としていますから、誰も、彼が人の顔と名前を区別できないことに気付きません。
私は、彼が、その人生で、かなり苦労してきたことは知っています。
しかも、そのほとんどは、15年前に亡くなった両親の仕業であることとともに、彼には、生来の感情が欠けていますから、そのことをなんとも思っていないことも。
妻の私は、夫のことを、1990年代の終わりごろに、人気になった「GS美神 極楽大作戦!!」と言う題名の漫画の中に、登場する、マッドサイエンティストの「ドクターカオス」みたいだと、心の中でずっと思っていました。
ドクターカオス、1051歳の天才錬金術師で、不死なのですが、不老ではなく、どんどんものを忘れて行っているのです。
そして、落ちぶれて、食うに困って、自身が作った人造人間のマリアに助けてもらっているのですが、俊一郎も、実は、過去の前世記憶を通算すれば、1051歳ぐらいは行きそうなのです。
そして、どんどん忘れて行っている所も、ドクターカオスで、最近は、パッと立ち上がったら、何をしようとしていたのか忘れていることも少なくないのです。
昨年9月から、霊感人間の彼、20年前に亡くなった元カノ摩耶美紀子さんの霊に依頼されたとかで、私ではなく、彼女と結婚、いや、再婚して幸せになるストーリーを書いているのです。
腹の立つことに、その設定上、私は死ぬことになっているのですが。
でも、不思議なことに、私と彼の二人しかいない我が家なのに、もう一人誰かが居るような気がすることが増えてきましたから、本当に美紀子さんの霊が居座って、彼がちゃんと依頼の原稿をかいているのか、確かめているのかもしれません。
呆けてるところもありますが、彼、幸いなことに大変元気で、毎日のようにサイクリングで10キロ以上走り回ったりする体力もありますし、いまだに走っても速いし、69歳とは思えぬ怪力も持っています。
でも、日常生活の方は、マリアならぬ、私、美奈子に頼っているのも事実ですから、そんなところも、ドクターカオスだと、私は笑っています。
さて、レクイエム的小説、どこまで進んでいるのでしょうか。
スタートが2000年の設定で、つまり、その小説の中の私は2000年に死んで、彼は、生きている美紀子さんと再婚し、2001年に、私は、彼と美紀子さんの娘に転生していますが、まだまだ3歳ぐらいですから、この先どうなるのでしょうか。
楽しみであるような、不安なような。
まあ、小説が書けている限りは、彼もこれ以上呆けることは無さそうですから、安心して見守ることにします。




今年は、雪が多いのか、成人の日の雪は、10センチ以上積もって、雪かきが必要でした。