今朝もさむーい那須でした。
冬で餌が減ったのか、我が家は雀のお宿になっています。
ヒヨドリも居ついていますし、カラスも来るし、鳥の餌場です。

さて、続きです。

京子が居間に落ち着いて、朋子と美華子が紅茶を用意している間、真由美と俊一郎は、清輝と京子の二人に話を聞くことにしましたが、俊一郎は単刀直入に切り出しました。
「秦野京子さん、あなたは、息子清輝とどのような交際をしたいと考えているのかな。」
清輝、まさか父が最初に聞くとは思っていなかったので慌てました。
「父さん、何も最初に聞かなくても。」
すると、京子が清輝を押し止めました。
「あっ、いいのよ。お父様に最初にちゃんと聞いてもらえたことは、とても嬉しいから。」
「ちょっと、唐突じゃないか。京子さん、父にも話す覚悟はできてるのかい。」
「最初にはっきりしていた方が、お父様方も、考えやすいでしょう。それに、今日こそは、清輝に告白するつもりで来たのよ。」
「そうだけど。」
清輝も、京子から予告はされていたのです。
「それとも、昨日のうちに清輝は心変わりしたの。それならそうと、今はっきり言って頂戴。私もお父様に対する答えを変えるから。」
恋人の父親と祖母を前にして今そんな台詞が言えるだけ京子は沈着冷静だし、答えを変えると言い切るだけ臨機応変の対応もできるようだし、何だか孫が圧倒されているようなので、真由美は笑いながら見ていましたが、俊一郎は、微笑みながら京子の返事を待っていました。
「大丈夫だよ。京子に対する思いを変えたりはしないから。」
「じゃあ、はっきりご返事して構わないのね。」
「いいけど、僕から言おうか。」
「いいえ、お父様は私に聞いてくださったのだから、私からご返事します。」
「じゃあ、お願い。」
二人のやりとりを見た俊一郎は、二人は肉体的には何もないようだが、信頼では結ばれているように思えましたし、京子の方が強そうにも思えましたが、むしろ息子にはその方が安心できそうだと感じていました。
京子は、立ち上がって一礼した後、答えました。
「神坂のお父様、私、秦野京子は、息子さんの神坂清輝君と、結婚を前提とした交際を進めたいと考えています。認めていただけますでしょうか。」
京子の答えに、俊一郎が笑い出したので、二人はきょとんとしました。
「何か、おかしなことを言いましたでしょうか。」
京子が心配になって聞き返すと、俊一郎は首を振りました。
「いやいや、親子揃って同じような経験をしたように思えたから、つい笑ってしまったんだよ。失礼。」
真由美も、俊一郎の答えに笑っていました。
「と言いますと。」
「ああ、私も朋子の方から告白されたんだよ。驚かせたなら、悪かった。あなたが変なことを言ったわけじゃないし、私は、あなたの思いを認めるよ。」
「では、認めてくださるのですか。」
俊一郎は、清輝の方を見ました。
「清輝もわかっているだろう。父さんがどう考えているか。」
「うん。神坂家として、京子さんを僕の結婚相手に認めてくれることには自信がある。」
すると京子、突然涙をこぼしたので、清輝と真由美は慌てた。
「わっ、どうしたの。」
「大丈夫やの。」
京子、清輝の手を握りながら言い訳した。
「済みません。嬉しくて涙が出てしまいました。でも、お父様は、本当にこんな私のことを認めてくださるのですか。」
普段、ほとんど感情を外に出さなかった京子が泣いたことは、清輝には驚きであったと同時に、それだけ心を許したのだと思うと嬉しくもありました。
「京子さん、あなたは、容姿端麗だし、成績も優秀だし、清輝のことも大切に思ってくれているようだ。息子の結婚相手として、あなた以上の娘はいないと確信しているよ。」
京子、どうしても隠しておけないと考えていましたので、自分の家庭のことを告白しようとしました。
「いいえ、私はそんないい娘じゃありません。家庭の問題もありますし、忌まわしい過去もあるのです。」
清輝は、彼女からそのことは匂わされていたし、彼女が話す覚悟をして我が家に来たであろうことも理解していましたが、俊一郎はそこで制止しました。
「京子さん、忌まわしい過去と言ったが、あなたは、そのことを本当に話したいと思っているのかな。」
京子、俊一郎の質問の意図がよくわからなかったので、正直に答えました。
「本当は話したくありません。辛いことですから。でも、将来家族となるであろうあなたがたに隠しておくことは、もっと辛いことになります。ですから、正直に告白したいと考えました。」
俊一郎、京子が少し誤解したように思いましたので、別の聞き方をすることにしました。
「では、別の方向から聞きましょう。」
「えっ、どういうことですか。」
「あなたは告白したいと言う。」
「はい。真実は、聞いていただいてもらった方がよいと。」
「では、その真実は、たとえ真実であったとしても、聞く側の人間に負担をかけないだろうか。」
京子は、俊一郎の言葉にはっとしました。
自分の過去は、自分にとって忌まわしいものであるだけでなく、聞いて知ってしまった方にも忌まわしいものとなってしまいます。
俊一郎は、自分の過去を知っていて、それは話すべきではないと言ってくれていることがわかったのです。
「そうですね。確かに、聞く方も嫌な思いをするかも知れません。」
「ならば、話すことはない。君は、今の、ありのままの君でいい。清輝には、過去を含めて全てを受け入れてもらえばよいし、喜んで受け入れるだろうから話してもよいが、何も、私たちにまで受け入れさせることはないだろう。」
すると京子、また涙をこぼしました。
「そう言ってもらえると、嬉しい。話してしまう以上に理解していただいたようで。」
「そう。全て話す相手は、清輝だけにしておきなさい。まあ、好奇心旺盛で聞き出そうとする姉がいるかも知れないが、君が無理して話すことはない。」
確かに、俊一郎の言うとおりなのですが、普通の家族なら、息子の交際相手の過去は気にするだろうし、汚点があれば反対するように思われました。
しかし、俊一郎は、京子の過去を推測した上で、彼女の全てを認めてくれたのです。
最初に認めると言ってもらえましたが、京子、再度確かめました。
「では、お父様は、清輝さんの恋人として、過去に汚点のある私を認めてくださるのですね。」
俊一郎、まだこだわっている京子に苦笑しました。
「京子さん、もう一つ聞いておこう。」
「何をですか。」
「今、汚点と言ったが、それは、君自身が望んだことかい。」
「いいえ、私は…、絶対望んでいませんでした。でも…。」
俊一郎、清輝に目で合図して京子を後ろから抱かせました。
「それなら、君自身に責任はないことだ。そのことで、君が責められるのは理不尽だ。だから、君も、自分を責めないことだ。」
「本当に、それでいいのですか。」
俊一郎は、改めて京子に尋ねました。
「私が、何か間違ったことを言ったかな。」
「いいえ、お父様は正しいと思います。」
「それなら、それでよいではないか。君は、清輝をかけがえのない相手として大切にする。我々のことは、家族として大切にすればよい。我々も、君を家族として大切にする。それでよいだろう。」
京子、俊一郎の言葉に感激しました。
「ええ。それ以上はありません。」
「私は、ありのままの君、それ以上は望んでいない。幸い、君は大変優秀だし、容姿にも恵まれている。息子の相手として、君以上の娘はいない。」
「本当に、そう思っていただけるのですか。」
「うん。俊一郎嘘つかない。」
はらはらしながら見ていた清輝でしたが、父の言葉に吹き出しました。
すると、京子もつられて笑い出したのです。
「それなら、私も幸せです。」
「そう。幸せならいい。それ以上はない。わかってくれたか。」
京子は、立ち上がって深々と頭を下げました。
「はい。ふつつかな娘ですが、よろしくお願いします。」
おやおや、しっかりしているのは素晴らしいが、17歳でこれが言えるということは、それだけの苦労をしているのだろうなと真由美は察しました。