
昨日は、晴れていたと思ったら突然雨が降ったり、異常に暖かく夏みたいでしたが、今日はさわやかです。
今日深夜那須に戻って、明日明後日は早朝から宇都宮で仕事、21日は病院と多忙です。
さて、フィクション編続きます。
なお、ヒロインの前世記憶は、現世の妻もモデルになっています。
二人はアメ横の入口の寿司屋に入った。
「何にする。」
「一番安い鉄火丼で結構です。」
「おや、今度は早かったわね。」
以前娘と3人でレストランに入った時は、散々迷っていて結局何でもよさそうなので、園子が選んだことを思い出して園子はからかった。
「そう言えば、貴方と食事をするのは二度目でしたね。」
圭子が交通事故で入院した時に、彼が、彼女と母の園子の二人を自分の車で送っていったことがあり、その時大阪で一緒に食事をしたのだった。
「そう。前回は、私が決めてさしあげたわよ。」
「そうでした。天王寺近くの確かグリーン何とかって言う名前のレストランで、私と圭子さんはスペシャルメニューで、あなたはスパゲティーでしたね。」
彼にさらっと言われて、園子は驚いた。
「もう、変なこと覚えているのね。」
彼は笑っていた。
「却って変なことの方が覚えているもんです。その時、あなたと圭子さんは私の正面に並んで片手ずつでメニューを開いて、『これがいいんじゃない。』とか何とか言ってたこととか。」
「凄い記憶力ね。」
娘から聞いてはいたが、確かに凄いものだと園子は更に感心した。
「じゃあ、とにかく注文しましょう。貴方は何を。」
「私は、ちらし寿司。」
俊一郎は片手を上げて合図をしたが、ウェイトレスはなかなか気づいてくれないので、園子は立って大きな声で呼んだ。
「すいませーん。」
流石にすぐ飛んできたので、彼は苦笑しながら注文した。
するとあっと言う間に料理も出てきた。
味はまずまずだったが、ウェイトレスは素っ気なかった。
「余りサービスはよくないわね。」
「まあ、値段が値段ですからね。」
俊一郎は、東京では安い方だししょうがないと割りきっていた。
「大阪なら高いわよ。」
「大阪は特別ですよ。それから、パリでは気をつけて下さい。」
「何のこと。」
「立って大きな声で呼ぶことです。」
「どうして。」
「苦情を言う時以外は、黙って手を上げるのがマナーなんです。」
「へえー、そうだったの。」
園子は、そんなマナーは知らなかったが、彼が黙って手を挙げた理由がわかった。
「私、父はアメリカ生まれでしたし、幼少の頃から国際的なマナーについては厳しく教え込まれたんですよ。」
それを聞いて、逆に彼女はおかしくなって笑い出した。
「それなのに団体行動ができなかったとは、これ如何に。」
「そう。不思議ですね、確かに。好奇心のおもむくまま、気の向くまま。何といっても小学校1年の遠足が圧巻でしたね。」
「おやおや、また出たわね。あんたのことやから、また何か観察してたんでしょ。」
「そう。春でタンポポが一杯咲いていてきれいだったから、摘んでまわったんです。」
眼前の青年からは、彼がタンポポを摘んでいる姿は想像できなかった。
「女の子みたいやね。当然列は乱れたんでしょ。」
「そう。私の後は千々に乱れて収拾着きませんでしたね。で、大阪から西の京の方に行ったんです。そう、目的地は長岡天神でしたが、私の仕業で大幅に遅れて着きました。それで、先生考えたんですね。その後は、どこに行く時も先生のとなりが私の指定席でした。」
「そりゃ、危険人物やもん。」
園子に言われて、俊一郎は苦笑した。
「なまじ勉強が図抜けてできたから、余計始末が悪かったんですわ。」
「そりゃそうよ。勉強ができる奴が正しいっちゅう不文律があるんやから。」
「今考えると冷や汗もんですよ。当時は好奇心を抱くと、頭で考えて物凄くバカなことでもつい試してみたんです。実証してみたと言いますか。」
「へえー。で何したの。」
「例えば、4階建てのアパートの屋上のへりを歩いて一周したとか。」
「当然、手すりぐらいあったんでしょうね。」
「いいえ、つかまるものも何も無くて、へりの幅も10センチぐらいでしたかね。」
「考えただけで鳥肌立つからやめてちょうだい。」
園子は、高所恐怖症だったから、考えるだけでも怖かった。
「軽業師の素質でもあったんでしょうかね。まだ運動何やっても駄目なころでしたが、ちゃんと一周したんですよ。」
「もう、やめて。」
「じゃあ、次は笑い話を一席。」
「それなら許す。」
「ある所にとても好奇心の強い男の子がおりました。」
「あんたや。」
「ピンポーン。それで、彼、テレビを見ておりますと、マンガで傘さして飛び降りるとパラシュートみたいになるシーンがありました。それ見て彼は、どうしても自分で試してみたくなったのです。それである雨上がりの日に、ジャングルジムのてっぺんから傘さして飛び降りたんです。当然ああは行きません。傘が反ってものの見事に墜落し膝をすりむいたわけです。ところが困ったことに、その好奇心の強い男の子、滅法勉強ができたもんで、常々先生が『あいつのようにできるようになれ。』と言っておったんです。すると、どこにもバカな子はいるもんで、その問題の男の子が墜落するのを見ていた運動はできるが勉強ができなかった男の子は、先生の言葉を誤解して、あいつより凄いことをやったら偉いんだとばかり、学校で一番高い登り棒の上から傘さして飛び降りたんです。哀れなことにその子は傘が反っただけでなくまともに飛び降りたので足を骨折してしまいました。『お前がやるから真似して怪我したんだぞ。』と先生が叱ると、その好奇心の強い男の子、こう答えました。『バカだなあ。僕ができないことを証明して見せたのに、あいつ同じことするんやから。』先生一瞬何も言い返せませんでしたが、『お前がやればいいことだと思って真似するバカな奴もいるんだから、今後気をつけるように。』と言って彼を帰しましたとさ。」
「あっはっは。それは笑うしかないわ。」
「でも、あなたはある面幸運だったのよね。運って変なものね。」
園子がつぶやくように言うと、俊一郎は意味あり気に微笑みながら付け加えた。
「一つ順番を間違えると全ては狂う。」
園子は愕然として、彼の顔を見た。その言葉は、最初の結婚の前に易者から言われた言葉だったから。
「何故それを…。」
彼は、微笑んだまま何故自分がそう言ったか答えた。
「別に不思議なことではないんです。以前お宅に伺った時、私が圭子さんを姉だと思ったことで『順番を間違えた。』と言ったら貴方の顔色が変わりました。だから、きっとそんなことがあったんだろうと思っただけです。」
園子は、改めて俊一郎を怖いと思ったが、彼は優しい口調で付け加えた。
「でも、世の中順番なんていくらでもあるんです。運も自分で作るものです。」
「どんな風に。」
「まず、自分は運がいいと思うことですね。」
「それがなかなかできんのよ。」
園子は、結婚してこの方、自分は不運に付きまとわれているように感じていた。
「そうですね。では、私が不思議に幸運に何でもできる秘訣の一つをお教えします。」
「私にできることなら教えてちょうだい。」
二度の結婚生活の破綻だけでなく、今回の娘の失踪で、園子は溺れる者は藁をもつかむの心境になっていた。
「私は、ある感情が生まれつき欠けているとまでは言いませんが弱いんです。」
「何の感情。」
「妬みの感情です。」
言われてみると、園子はいろいろ思い当たることがあった。娘が時々言っていたのだ。『神坂さんね。他人の幸福に凄く素直なの。仲のいいアベック見て私が怒ると不思議そうに見るの。うまく行っていればいいじゃないかって。他人を妬ましいと思ったことないみたい。』と。
「一つ聞いていい。」
「どうぞ。」
「妬みと運の関係は。」
「あっ、それは簡単なんです。妬む相手はどんな状態ですか。」
「どんな状態って。」
「つまり、金持ちだとか、美人だとか、いろいろあるでしょう。」
「そやね。まあ、それもあるけど、一番思うのは幸運だってことやね。」
「そう。そう言ってもらえると一番説明がしやすい。」
「なあに、それ。」
「幸運な人がねたましいといいましたね。」
「うん。」
「で、聞きますが、その人の幸運な状態は、もし自分がその立場にいたらどんな状態ですか。」
「何だかややっこしくなってきたわね。どういうこと。」
「つまり、自分が妬まれる側に回って見れば、その状態はどんな状態ですか。」
「うーんと、そう、幸運な状態ね。」
「そう。で、貴方は幸運になりたいですか。」
「そりゃ、当然。」
「じゃあ、妬まないことです。」
俊一郎は言い切ったが、園子にはさっぱりわからなかった。
「何のこと。その辺の理論がわからないのよ。」
彼はちょっと考えてから説明しだした。
「貴方は幸運になりたい。そうですね。」
「うん。」
「では、言い変えると、幸運は貴方の目標です。」
「うーん、そうね。その通りやわ。」
「つまり、幸運な人を妬むということは、間接的に自分の目標を否定しているんです。」
「えっ、それがよくわからない。」
「妬むと、そのことをどこかで嫌だなと思ってしまうんです。わかりますか。」
「そうでしょうね。」
「だから、結局は自分がなりたい状態なのに、他人が同じ状態になると嫌だと思ってしまうんです。」
「それは、わかるわ。」
「つまり、間接的に心の中の自分の目標を否定しているんです。」
しばらく考えた末に、園子はようやく納得した。
「わかったわ。でも、なかなかそれができないし、理解できないのが人間ね。」
俊一郎は、笑いながら言った。
「そのことを表した名言があります。」
「なあに。」
「他人の幸福は私の不幸。他人の不幸は私の幸福。あるいは、他人の不幸は蜜の味。」
園子も思わず笑ってしまった。
「そうやって、自分で自分の足を引っ張っているから、人間自分自身の持っている力を十分発揮できないで終わってしまうんですよ。」
続く。
画像は、福岡の大濠公園です。
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