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大晦日の那須は、比較的穏やかな天候でしたが、今晩から久々に雪が降りそうな気配です。
さて、続きですが、舞台はヒンダスに移り、国内事情も絡んでややこしくなってきます。

留守居役を務めていたクシャトールは、叔母になったシュリーを見て驚き、かつ戸惑いました。
驚いたのは、祖父ラーマ、父クリシュナに予告されていたとおり、彼女がプラーナの女神像そのままだったことですが、戸惑ったのは、彼女のような人間に実在されると、ヒンダスの神の概念から言うと大変都合の悪い面が生じるからでした。
彼は、神官の一人として父の国王に問い質した。
「父上、シュリーさんを表に出されるつもりですか。」
クリシュナとしても、ヴァルナの予言のこともあって苦慮していました。
「公表する気は無いが、宮廷内には知らしめざるを得ないだろう。摂政の妃だからな。」
常識的な答えでしたが、クシャトールは、宗教的な影響を何よりも心配していました。
「確かに彼女は美しく、威厳もある上に、彼のミトラス国王が太鼓判を押したそうですから、人格的にも素晴らしい人だとは思います。しかし、このままでは、叔父スカンダとともに神と見なされてしまうでしょう。民衆に知れると厄介です。父上の代わりに国王にとの声があがってしまうでしょう。また、反対に、ヒンダスを乗っ取ろうとする悪魔だとして暗殺される恐れもあるでしょう。どちらにしても大変な問題ですよ。」
ラーマとしては、同じ議論をレムリアでもしてきたのです。
「そのことは、シュリーさん本人も心配していた。ヴァルナ様の予言でも、スカンダの愛する者が狙われると思われる。そのために、ヴァルナ様はスカンダに神像を渡したのだ。」
「何のためですか。神に祈るだけでは、何の予防策にもなりませんが。」
祈るだけでは何にもならないと、神官ながら現実的なクシャトールは考えていました。
「ヴァルナ様は、ずばりスカンダの愛する人の身代わりになると申されたのじゃ。だから、肌身離さぬように持たせろと。」
「なるほど。」
それなら納得が行くとクシャトールはうなずきましたが、クリシュナは、神官の癖に恐ろしく現実的な息子に苦笑していました。
「それから、その神像がシュリーさんそっくりだったのだ。」
「なるほど。彼女は合体神像そのものですな。」
「そう。だから、スカンダはこんな女性がいるわけないと思ってヴァルナ様の言葉、『陰と陽を併せ持った相手』とともに、何かのたとえだと考えていたのだ。ところが、レムリアで実際に引き合わされたものだから、これこそ運命と喜んだ。」
クシャトールも、話して見たらヒンダス語も堪能だし、教養豊かだし、気さくで親しみやすいし、その上顔も良く見れば美女で、スタイルも抜群で、レムリアのミトラス国王が薦め、スカンダが選ぶに値する大した女性であることは感じていました。
「人物としては、私も大した女性だと評価します。しかし、あの容姿ですから、苦労したのでしょうね。」
「そうだったらしい。母親とも生き別れになったと言うし。」
クシャトールは、彼女がキメラだから、母親も同じかと思って確かめました。
「母親もキメラだったのですか。」
「いや、シュリーさんの左半身と思えばいいと話してくれたな。」
彼女の左半身は、青みがかかった紫の肌である。
「それじゃあ、カーリー女神じゃないですか。あっ、もしかして…。」
カーリー女神の像は、青黒い肌で描かれることが多かったのですが、クシャトールはその女神の化身と言われている女性がいるらしいと聞いたことを思い出しました。
「お前も、噂は聞いたことがあったか。」
「ポータラ奥地のカスリルの女神の噂でしょう。でも、その噂をもたらした元商人のご隠居が若い頃に見かけたと言うキメラの女の子も、もしかしたらシュリーさんだったのではないですか。」
その元商人は、大異変の直後アガルトの山中で、左右で肌の色が違う少女を見かけたとラーマに話したことがあったのです。
「本人に確かめたら、そのとおりだそうだ。」
「じゃあ、本当に彼女の母の可能性大ですよ。」
クリシュナは、娘だけでも大問題なのに、母親まで現れたら更に大変だと心配していました。
「そうだな。一度確かめて見なければいけないな。シュリーさんの母となると、スカンダの義母にあたるしな。シュリーさんによると、彼女の母アングルさんは、ヒンダス国境に近いアガルトの町で、王族の名をかたっていた親子を殺し、屋敷に火を放ってから行方不明だとのことだから、カスリルなら可能性は高い。しかも、青黒い肌の巨人だと言うから噂とも合致する。」
クシャトールも、もしそのとおりだとすると、更に難しい問題を抱え込むことになると考えていました。
噂では、カスリルのカーリー女神は、ポータラから北の地方で熱狂的な信仰を集めていたのです。
その上、娘シュリーも合体神像そっくりの容姿なのですから、もし表に出れば民衆は彼女らを熱狂的に信仰するに違いないのです。
シュリーはまだ王族の一員スカンダの妻だからよいが、下手すると親子で王族に取って代わるだけの信仰を集めかねません。
その懸念に対し、クリシュナ国王は、王族も神の一族とされているのですから、もし表沙汰になったら逆に利用すればよいと答えましたが、クシャトールは一抹の不安を感じていました。
シュリーを紹介してきたレムリアのミトラス国王も、人外の存在である天使を政情安定に利用してはいましたが、あくまで大異変を乗り切るためであり、自分一代で関係は断ち切ると明言していましたし、神を利用するのは両刃の剣だとも話していました。
まして、シュリーもその母アングルも、容姿は変わってはいるが人間です。
同じ人間を神にしてはいけないとクシャトールは考えていましたし、その点でも、自ら神と言われながらも、ミトラス国王も、人間が神になってはいけないと断言しています。
釈然としないまま神殿に戻ったクシャトールを、同じく貴族の出の神官であり、腹心の部下とも言えるアンサ・プラーナが迎えました。
「クシャトール様、王宮で何かあったのですか。」
「いや、伯父の妃とその両親に会ってきただけだ。」
「スカンダ大臣ですね。ようやくお妃がお決まりになったのですね。それならめでたいことではないですか。」
アンサも、何時までも結婚しないスカンダを不思議に思っていましたから、めでたいことだと喜びました。
「それは、そのとおりだ。」
クシャトールは、そのとおりだが、相手が問題だと苦慮していたのです。
「お妃はどんな方なのですか。」
「レムリアのミトラス国王の紹介で、シュリーさんと言う人だ。」
「おや、ヒンダスの方でしたか。」
確かに、シュリー・サヴィートリー・クシュナガルは、ヒンダスの名である。
「いや、本当はアガルトの貴族の出身だと言う。」
「それなら問題はないし、良かったではないですか。」
「そうだ。素晴らしいスタイルの美女だし、気立てもよい。」
「それは素晴らしい。願ってもないお相手ではないですか。それなら何故クシャトール様は浮かない顔をしているのです。」
クシャトールは迷いましたが、アンサには話しておくことにしました。
「実は、シュリーさんは、本当にヒンダスの女神のような容姿をしているのだ。」
アンサは、更にめでたいと喜びました。
「それは素晴らしい。更におめでたいことではないですか。」
「お前も会ってみれば私の心配が理解できるだろう。」
「でも、シュリーさんは、神になろうとはしていないのですよね。」
「そうだ。彼女は、伯父と静かに暮らしたいだけだ。」
「じゃあ、何も心配することなどないじゃないですか。」
アンサは、女神のようなといわれてもイメージが湧かなかったのですが、見かけが変わっているだけで、大したことにはなるまいと軽く考えていました。
「それで済めばな。アンサは、プラーナ出身だから、大異変以前にプラーナにあった合体神像のことを聞いたことはあるだろう。」
彼自身は見たことはないが、両親から聞かされたことがあったので覚えていた。
「ええ。ラクシュミとカーリーの合体神像でしょう。でも、あれは神の二面性を表したものであって、実際にそんな神がいると言う意味ではないはずですよ。」
一般的にはそのような見解であり、アンサ自身、そのように理解していました。
「お前の言うとおりなのだが、実際に神像そっくりの人間が現れたら、人々はどう思うかな。」
「神と崇めるでしょうね。」
「シュリーさんは、合体神像そっくりの人間なのだよ。」
「そんなばかな。しかし、本当なら、お会いしたいものですね。」
アンサは、心配よりも明らかに好奇心が先に立っているので、クシャトールは苦笑しました。
「近い内に会うことがあるだろうが、私には実際にそのような人間がいることだけで脅威なのだ。」
「いい人なのでしょう、あのスカンダ様が結婚しようと思ったぐらいですから。」
アンサも、好人物にもかかわらず彼が数多の縁談を断ってきたのを知っており、その彼が承諾したからには余程いい相手なのだろうと考えました。
「確かにいい人だ。変わった容姿だが、良く見ると美女だし、教養豊かでもある。レムリアのサクヤ内大臣付きの女官の中でも、特に優秀な一人だったと言う。」
クシャトールは、言いながらラチナのことを思い出した。
「そうそう、祖父はレムリアからもう一人花嫁を連れてきたのだ。彼女はラチナ・コパンと言う名で、容姿は普通でまだ19歳だが、やはり元サクヤ内大臣付きの女官で優秀だ。クベーラ政務長官の妻にともらってきたそうだ。」
「じゃあ、ヒンダスはレムリアから素晴らしい人材を二人もいただいたのではないですか。喜ぶべきことですよ。」
アンサは気楽に構えていましたが、クシャトールは、シュリーの優秀さも怖かったのです。
「お前はそう言うが、私はそれだから心配なのだ。」
「クシャトールさまが心配される理由がよくわかりません。」
クシャトールは、周囲をうかがった後小声で話した。
「お前は、今のヒンダスの国家体制は合理的だと思っているか。」
「いや、大分問題はあるでしょうね。大異変前に比べれば大分ましになったと聞きますが、貧富の差はまだ凄いですからね。」
ヒンダスは、階級がはっきりしており、その差が貧富の差に直結していた。
「お前や私は、所詮上の階級の人間だ。本当に苦労したことはない。」
アンサにしても、両親は貴族で苦労は知らずに育っていた。
「そのとおりでしょうね。下々の人々の生活の実態を知ったのは、神殿に来て修行で全国を巡るようになってからでしたから。」
「ところが、シュリーさんは大異変後アガルトからスメル、ヒンダス、イュン、レムリアと放浪した人間だし、その容姿は大きなハンディキャップになったはずだ。だから、下々の人々の暮らしも熟知している上、レムリア宮廷での教育も受けている。レムリアは、実力主義の反面平等の国でもある。」
「つまり、わが国の実情を知れば、体制に疑問を抱くだろうと考えられるのですか。」
「そうだ。彼女が先頭に立って煽動すれば、ヒンダスの体制は崩壊しかねない。」
「でも、そんな大それたことを考えるでしょうか。」
恵まれた王族の一員になるのだから、シュリーがそんなことを考えるはずなはないとアンサは考えた。
「私もそんなことはないと信じたいが、私自身現体制には疑問を抱いている。」
アンサも、その点は同感だった。
「私も疑問はありますが、それを解消するのが我々神官の役目の一つではありませんか。」
「確かにそうなっているが、ある面では、我々は下々の人民をだましているわけでもある。」
「より良い生活を送っていれば、来世で報われると教えることですか。」
「そうだ。」
クシャトールは、ミドに転生の真理について尋ね、ミドは現世と来世は必ずしもつながってはおらず、いくら徳を積んでも来世で報われないこともあるし、その逆もあるとの答えを引き出していた。
しかし、人々を指導する上で、真理をそのまま伝えてはわかりにくいし都合が悪いとして、現世の苦労は来世で報われると積極的に教えていた。
「でも、それは下々の希望にもなっているわけですし、我々や王族は、大異変以降特に身を清く保つようにしています。間違ってはいないでしょう。」
クシャトールも、その点に異論はなかった。
「そのとおりだ。」
「現在のヒンダスの状況を考えると、現実的には現体制がベストかと思いますが。」
「それもそのとおりだ。」
「実際、下々の人々が考えていることが正しいとは思えません。」
下層階級の者の中には、現体制が打倒されれば自分たちの暮らしも良くなると考えている者もいるが、アンサは否定的だった。
「しかし、彼らは現実的に報われているか。」
「いいえ。でも、結局は方法論でもあります。アガルトの例を見ても、単純に国家体制を崩壊させては、却って状況が悪くなるだけでしょう。私は、クリシュナ国王の提唱する穏やかな改革が唯一の方法だと考えています。理念と実行力が伴わない革命は、国家の崩壊しか招きません。崩壊しては、誰も幸せにはならないのです。」
アンサは、旧アガルトの例をあげるまでもなく、革命は本当の意味で成功した試しはないと考えていた。
しかし、クシャトールはシュリーを一目見た瞬間から、彼女は下手すると革命すら起こしかねないと感じたのだ。
「アンサは、アガルトの革命の時、フェンリルと言う英雄が関わっていたことを知っているだろう。」
「ええ。人民派の最初の革命、半年後の王党派の再革命双方を煽動した英雄と言われていますね。」
「フェンリルは、容姿端麗の上圧倒的な武勇と人を引きつける魅力、鮮やかな弁舌を兼ね備えていたと言う。シュリーさんもそれらを兼ね備えているのだよ。」
「彼女は女性ですから、少なくとも武勇はないでしょう。」
アンサは、シュリーは美女だと言うし、武勇には縁がないと思い込んでいた。
「いや、それが違うのだ。彼女はレムリアでも注目され、求婚者が押しかけたのだが、サクヤ内大臣が面白がって選抜試験を行い、その中に求婚者たちをシュリーさんと戦わせたところ、誰一人勝てなかったと言う。」
アンサは、どうせ武勇とは縁のない男達だったのだろうと考えた。
「たまたま弱いのばかりだったのでしょう。」
「私もそう思ったのだが、リハーサルで彼女に勝ったのは3人しかいなかったと言い、その3人の名前を聞いた時、違うかも知れないと思ったのだ。」
「誰ですか、その3人とは。」
「レムリア皇太子のマルドゥーク殿下、現ヤシマ皇太子のタケル殿下、それから彼女の異母弟で実力は2人に引けを取らないと言うスレイヴニルさんの3人だ。」
アンサにはどうもイメージは湧かなかったが、タケル皇太子は有名だったので、クシャトールの言うとおりかも知れないことは理解できた。
「クシャトール様の心配はわかります。天下の美女にして天才のサクヤ王妃の女官の中でもトップクラスだったとすれば、頭脳と弁舌にかけても相当なものなのでしょうね。よくスカンダ様のお妃になってくれましたね。」
確かにアンサの言うとおり、実力評価のレムリアで認められたのなれば、ヒンダスの陰の実力者スカンダとは言え、下手すると負けているかも知れなかった。
「それは、レムリアでも持て余したので、チャンドーラが思いついて勧めたのと、ヴァルナ様の予言の偶然の一致による産物とも言えるが、結局は運命かも知れぬ。」
「それなら、心配することもありますまい。」
アンサは、クシャトールの取り越し苦労と笑っていた。
「そうなってくれればよいのだが、お前も一度会えば、私の気持ちがわかるだろう。」
「会わせていただけるのですか。」
アンサは、是非会ってみたいと思っていたので聞き返した。
「危険だから余り外には出さない方針だが、私がいるし、国家宗教なのだから神殿には婚礼の報告に来ざるを得ないだろう。その時会える。」
「それでは、楽しみにしておきます。」
「間違っても好きになるなよ。」
クシャトールは釘を刺したが、アンサは笑って取り合わなかった。
「まさか。スカンダ殿下のお妃ですよ。」
「シュリーさんは、特別な人間だ。とにかく注意しておく。」
「はいはい。クシャトール様は本当に心配性だ。」
クシャトールは確かに完全主義者であり、心配性だった。
「いや、これは一種の予感なのだ。それに素直に従っているだけで、心配性ではない。ヴァルナ様も、シュリーさんが襲われることがあると思われる予言もしておられる。」
クシャトールは身代わりの神像の話を聞かせると、アンサはレムリアのミトラス国王が同じものを沢山作って持たせろと言ったエピソードに大笑いした。
「まあ、男殺しのカーリー顧問も警備につくでしょうから、心配なさらないことですよ。」
クシャトールは、アンサがカーリーのことを「男殺し」と皮肉ったことを思わず笑ってしまった。
「何だ、お前も口が悪い。カーリーは何も悪くない。たまたま不運が重なって何人もの男を殺さざるを得なくなり、警備隊長の職務でも同じことをせざるを得なかっただけだ。」
「いや、失礼しました。でも、彼女確かにまだ若いし美女なのに愛想ないし、カーリーとは良くぞ名付けたと言いたいところですよ。」
カーリーは、ヒンダスでは死と殺戮の女神だった。
「確かに彼女、悪人罪人は容赦なく切り殺すからな。一度血まみれになったところも見たことがある。」
「ぞっとする光景ですね。」
クシャトールは、父のクリシュナ国王を狙った暗殺者を彼女が顔色一つ変えずに首を切って殺した場面に立ち会ったことがあった。
「その時、暗殺者の血に染まった彼女が、私ににっこり微笑んだのだ。不思議なことに、私は、その血まみれの彼女にぞくっとするほどの魅力を感じた。」
「おお怖い。やはり殺戮の女神カーリーですよ。」
クシャトールもそのことは認めた。
「確かに似合っていた。でも、彼女まだ19歳なんだぞ。16歳の時に誤って兄弟子を殺し、17歳の時には襲われて身を守るために7人の男達を皆殺しにしてからああなったと言うのだから、理解してやることだ。」
アンサはそのことは知らなかったので、彼女に痛く同情した。
「それは知りませんでした。可哀想な目に会ったのですね。ところで、彼女、処女ですか。」
アンサが下品なことをついでに聞いたので、クシャトールは怒りだした。
「そんなことは知らん。神殿でつまらんことは聞くな。」
「すみませんでした。以降気を付けます。」
「とにかく彼女は、忠実で信頼の置ける武官だ。つまらぬことを言ってはならぬ。」
「はい。」
クシャトールは、もう一つ思い出したので付け加えることにした。
「ついでだから、シュリーさんのことをもう一つ教えておこう。」
「何ですか。」
「アンサは、ヤタ殿を知っているだろう。」
「ヒンダス最高の剣士ハヌマーン太守が脱帽したと言う、ヤシマ出身のレムリアの武術顧問ですね。聞くところによると、奥方は人間ではないとか。」
アンサは、ヤタは恐ろしい男とのイメージがあった。
「そう。奥方のサハーラ様は天使で素晴らしい女性だ。しかし、二人の強さは人間のレベルではない。」
「そのヤタ殿とシュリーさんの関係は。」
「実は、シュリーさんはヤタ殿ともお手合わせをしたことがあるそうだ。」
「さっきの3人の中には入っていませんでしたが、当然ヤタ殿が勝ったのでしょうね。」
「そのとおりだが、おまけがつく。」
「何ですか。」
「ヤタ殿は、シュリーさんは女性では世界最強の一人だと言ったそうだ。」
「じゃあ、カーリー顧問よりも上ですか。」
「そのようだ。」
「信じられない。彼女、若いが今の近衛隊の男たちの誰よりも強いはずで、ヒンダス国内にかなう相手がいるとすれば、師のハヌマーン太守か、スカンダ大臣ぐらいですよ。それほどの腕なのですか。」
「そのようだ。」
「じゃあ、警備の者よりも強いことになりますよ。」
「そうだな。その上、今回彼女の輿入れにはレムリアから彼女の両親がついてきた。」
「えっ、彼女は、アガルトの貴族の娘さんではなかったのですか。」
「そうだ。正確には、実の父と義理の母だが、今はレムリアの政府高官夫妻だ。」
「そうですか。それで、その二人がどうしたのです。」
「私は知らなかったが、その二人がまた、恐るべき人物なのだと言う。」
「本当ですか。もう年配でしょう。しかも、一人は女性でしょう。」
アンサは、半信半疑だった。
「祖父のラーマが恐れていたと言う、夫婦で国際的にも名が知れた暗殺者だったらしい。」
「一体どういう積りですか。レムリアはヒンダスを乗っ取る気ですか。」
アンサの言葉に思わず吹き出したクシャトールだったが、確かに誤解されかねないメンバーではあるなと思った。
もう一人のクベーラの妻候補のラチナ・コパンにしても、サクヤ内大臣配下のエリート女官だと言うし、その気になれば可能な線ではあった。
「いや、両親の件はあくまで娘の身を案じてのことだ。落ち着けば帰国することになっている。」

続きは来年。よいお年を。
画像は、つい先ほど私のケーキを食い逃げしたハルです。