果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語
ー58ー
にゃんく
代理官殿は今、山あいの土地で、その卵型の体型を馬の上で揺らしていました。
代理官殿は此処まで来る途中、馬の上でほとんど眠っていました。ジョーがよくも馬上から転げ落ちないものだと関心するほどでした。
ジョーが、「ブヒ―!」という豚の鳴き声を聞いたので、吃驚して、おかしいな、こんな処に豚はいないはずなのになと周囲を見回したところ、「ブヒ―」と鳴いているのは他でもない代理官殿自身なのでした。
代理官殿は眠りながら、頻繁に「ブヒー」と豚のような鼾をかいていて、ますます高まっていくその自分の鼾に愕いて、今の今、目を醒ましたばかりなのです。
代理官殿は目を醒ますと、参謀の手を借りて時間をかけながら馬から降りると、草叢に入って行きました。
白の参謀が後ろに付き従っていたので、またトイレかと思い、ジョーはそちらの方に目を向けないように気をつけました。代理官殿は太りすぎているために、自分のお尻に手が届かず、用を足した後はいつも白の参謀にお尻を拭いてもらっているのでした。ジョーは偶然その様子を目撃してしまい、代理官殿の濁った目に睨まれて以降は、彼が用を足す時には近付かないように用心しているのでした。
用を済ませた代理官殿は参謀ふたりにお尻を押されて馬上の人に戻ると、一行の行軍は再会されました。
突然、白の参謀が背中にしょったカバンの中から進軍喇叭(ラツパ)を取り出し、パラッパッパーと派手に吹き鳴らしはじめました。喇叭の音を合図に、黒の参謀もお腹の前にブリキの太鼓をセットし、テッテケテー テッテケテーと叩き出していかにも元気良く行進しています。伸ばした脚を、大きく踏み出し、
テッテケテー テッテケテー
まるでおもちゃの兵隊さんのように、リズミカルな歌を口ずさんでいます。
罪もない老若男女が
今日もまた無駄に殺されていく
代理官殿がダイエットすれば
いったい何人の人を救えるというのか
テッテケテー テッテケテー♩
可哀想などと思ってはいけない
疑問に思ってもいけない
ただこの命令が
正しく実行されることこそ我らの望み
我らの歓び
テッテケテッテケテッテケテ♩
我ら 未来の代理官
輝くばかりの栄光と
大きな出世が約束されている
我ら 未来の代理官
黒の参謀が片手に持った長い銃を、気のおもむくままに発射しました。ズガンッという音がして、ジョーは銃弾が耳元を通過したように感じ、飛び上がって愕きました。
「もっと偉くなりたい! もっと偉くなりたい!」と興に乗った代理官殿が吠えました。そうして歌の一番が終わると、気が済んだというふうに代理官殿はまた居眠りをはじめ、一行の捜索は続けられるのでした。
つづく