『果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語ー54ー』にゃんく | 『にゃんころがり新聞』

『にゃんころがり新聞』

にゃんころがり新聞は、新サイト「にゃんころがりmagazine」に移行しました。https://nyankorogari.net/
このブログ「にゃんころがり新聞」については整理が完了次第、削除予定です。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。

 

 

果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語

ー54ー

 

 

 

 

 

にゃんく

 

 

 

 

 

 

Ⅹ 鞭打つリーベリ

 



 一方リーベリは自ら御者台に坐り、牽き手のカエル二匹に容赦なく鞭をくれて、夜を日に継いだ強行軍で車を飛ばしていました。
 休憩はほとんどありませんでした。車を牽っ張る役目のカエル二匹は、既に体力の限界に来ており、リーベリに聞こえるか聞こえないかの小声で、ぶつぶつ不平を云い出しはじめていました。
 そんなところへ、走行中の車が急に傾いて、停止しました。何事が起こったのかと後ろを走っていたカエルたちも集まって来ました。
「どうしたんだ?」と後ろからやって来たカエルの一匹が訊ねました。
 それまで車を一所懸命牽いていたカエルの一匹が、足を抱え込んで道端に蹲っていました。
 リーベリは興味がなさそうに、黙って御者台に坐っていました。
 足を抱えたカエルはただ苦しそうに呻いていました。
 周りにいたカエルが、リーベリに事情を説明しました。「足を怪我したようです。出っ張った石に、足をぶっつけてしまったみたいです。これ以上歩くことは難しそうです」
 リーベリが御者台に鞭を置いて、降りて来ました。
 足を折ったカエルは、恐れを湛えた眼差しでリーベリを見つめていましたが、リーベリが自分の間近に近付くと、まだ動く方の片足でよろめきながら立ち上がろうとしました。「リーベリ様、オレはまだ走れます。まだ充分、働けます。リーベリ様のお力で、どうかこの足さえ治して頂ければ……」
 リーベリは立とうとして立てないでいる足を怪我したカエルをしばらく無言で見下ろしていました。ややあってリーベリが答えました。「あたしが、回復の魔法を二度と使わないって誓ったことは、知ってる?」
 足を負傷したカエルは、神を崇めるような目つきで、「ああ」とただ一言漏らしました。それでもカエルは縋るような目つきでリーベリを見つめていました。
 リーベリは御者台に戻り、カエルのぬいぐるみとナイフを持って戻って来ました。そのぬいぐるみは、オオヒキガエルに魔法をかけてカエル人間に変身させた時に使った、あのぬいぐるみでした。リーベリは、カエルのぬいぐるみを路上に置いて、ナイフを胸に突き立てました。そしてぬいぐるみの胸の部分から、綿を取り出し、それを掌で握り潰す仕種をして見せました。すると足を怪我したほんもののカエルの方が左胸を押さえて苦しみ出し、口から緑色の体液を吐き出し、俯せに倒れました。リーベリは丸めた拳にさらに力を込め続け、カエルの痙攣が止まり、息絶えるまで容赦しませんでした。
 リーベリが掌を開くと、今の今まで脈打っていたカエルの心臓が体液を垂らして押し潰されているのでした。
 他のカエル達は固唾を呑んでこの様子を見守っていました。
 リーベリは地面にぽいと黒ずんだ心臓を投げ捨てると、「さあ、先を急ぐわよ」と云って再び御者台に坐りました。
 牽き手の穴の空いた分は、後ろを走っていたカエルから一匹補充されました。
 一行は唸りを上げて、嵐のように森の中を突っ走って行きます。
 あたしに回復の魔法を使えだって?
 リーベリの脳裏に浮かんでいたのは、若くして亡くなった元気なママの笑顔でした。
 貧しい村人たちの際限のない注文に、ママは笑顔でいちいち付き合っていた。年がら年中病気して腹ばかり空かせている村人たちが、ママの体に良くない病気を招き寄せてしまったに違いない。
 リーベリは車を牽いているカエルに一層強く鞭をくれました。
「出来るだけ苦しみが少ないように、すぐ殺してあげるから」
 リーベリは、牽き手のカエルたちに話しかけました。カエルたちは、よく聞こえず、? という顔つきをしていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく