『果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語ー㊹ー』にゃんく | 『にゃんころがり新聞』

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果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語

ー㊹ー

 

 

 

 

 

にゃんく

 

 

 

 

 パンを食べながら、リュシエルとミミ、メメの三人は今後のことを話し合いました。まだ此処ら辺りでは、カエルたちが追いついて来そうで不安に思ったので、明日の朝にはこの家を発ち、南にあるカルマ村に向かうことにしました。ふたりは最終的にはもうすこし南へ逃げて、名前も知らないような田舎の村でも構わないから、安心して暮らせる場所に辿り着けるといいねと話し合いました。
 さて、検問などで捕まらないのがいちばんでしたけれど、もし万一何かあった時のためにも、自分の素性をミミに話しておいた方がいいかもしれないとリュシエルは心を決めました。
 メメは太っちょの奥さんがまだ部屋の中にいる間から、小声でリュシエルに、「おじさんはあんなに痩せているのに、おばさんがこんなに太っているのは一体どういうわけなのかしら?」などと囁いて、リュシエルから、「知らないよ。失礼だよ。黙っていなさい」と注意されると、今度は部屋の中の棚を調べてみたりとせわしなく動き回っていましたが、リュシエルに「話があるからこっちに来て」と云われ、廊下にまで拡大していた探検を仕方なく一時中断して、ミミの横にちょこんと並んで坐りました。
 三人膝を突き合わせると、リュシエルは声をひそめて話しはじめました。
「大丈夫と思うけど、これから話すことは、絶対他の人には喋っちゃいけないよ。ぼくは、王家の人間なんだ」
「えー!」とメメが大声をあげました。
「シッ。静かに!」
「王家の者って……?」とミミ。
「ぼくはね、亡くなったシン王の嫡子、リュシエル王子なんだ」
「……リュシエル王子……?」
「リュシエル王子?」メメが同じ言葉を繰り返しました。
「じゃあ、リューシーっていう名前は?」
「……今まで黙っていてごめん。騙すつもりはなかったんだ。王宮の追っ手から逃れるために、ぼくはリューシーという仮の名を使っていたんだよ」
「姉が海岸であなたが倒れているのを見つけたっていうのは……?」
「王宮で、シン王が亡くなった後、情けないことに、王宮では、跡目争いが起こったんだよ。つまり、ぼくと、ぼくの弟のディワイ。シン王にはふたりの息子がいたからね」
「ディワイ殿下は、確かまだ六つか七つの子供じゃなかったかしら?」
「そのとおりだよ。ディワイは自分が王様になりたいと思ったのかどうか分からないけれど、ディワイの母親のネリが、ディワイを王様にしたいがために、王位第一継承者であるぼくを亡き者にしようとしたんだよ」
「亡き者に?」
「ある時は、毒を盛った食事がぼくの元に運ばれて来て、味見役の者が死んだよ。またある時は、王宮の天井から巨大なシャンデリアが突然落ちてきて、危うくぼくの頭を粉々に砕いてしまうところだった。その時は、護衛のマデラーがぼくを突き飛ばしてくれたおかげで助かったんだ。
 それからシン王の后だったぼくの母のソフィーは、ぼくの身の回りで次々と起こる奇怪な事件の下手人捜しを命じたんだ。兵隊は四方に飛び、犯人はすぐに捕まった。そして、その犯人を追及した結果、それらの事件を起こすよう命令した黒幕が誰であるかも、分かったんだ。つまり、シン王の愛妾ネリだ。ネリは元高級娼婦で、正式には妻として認められてもいなかったけれど、だからこそ、ネリは王の死後、自分の地位を確かなものにするために、ぼくを亡き者にし、息子のディワイを国王にしようとしたんだ。
 でも、母のソフィーがネリ逮捕の命令を下すよりも早く、ネリがソフィーに無実の罪をなすりつけて、一部の取り巻き連中を使ってソフィーを穴蔵に幽閉してしまった。つまり王宮内で、一種の反乱が起こったんだよ。それからというもの、ぼくは黒ずくめのターバンを巻いた男達に襲われ、彼らに執拗に命を狙われ続けた。ぼくは彼らに殺される寸前まで追い詰められた。でも、再びマデラーに助けられた。マデラーは、ソフィーから、特にぼくを守るよう云いつけられた護衛の騎士のひとりだったんだ。
 ぼくは、護衛の騎士たちと共に城を脱出し、放浪の旅に出た。いつか正統の王として城に戻れることを夢見て……。でも、ネリの追っ手におびやかされ、護衛の者は、ひとり、またひとりと討たれていった。ぼくの命と引き換えに。そうして、ついには、ぼくとマデラーのふたりきりになった。
 マデラーはぼくと一緒でとても苦労したと思う。ぼくは、生まれてからこの方、城から一歩も出たこともない世間知らずだったから。それまで過保護に育てられて、食事の準備ですらいつも世話の係の者がやってくれていた。全く外の世界を知らなかったんだ。そうして時が経ち、ぼくたちは、追っ手から逃れて、人も住まない荒れ果てた北方の土地に辿り着いた。そこは身を隠す場所はたくさんあったけれど、やがて、食べる物、飲む物にも事欠き、ぼくは衰弱して病気になってしまった。マデラーは食糧を探しに行くためにぼくをその場に残して離れた。『必ず戻って来ます。それまでどうか此処を動かないでください』そう云い置いて行った。でも、ぼくはとても喉が渇いていた。飲み物が手元に一滴もなかったんだ。ぼくもしばらくはマデラーの云いつけを守ってその場所から動かなかった。でも、どうにも我慢が出来なくなった。ぼくは水を求めて歩いて行った。元いた場所から相当離れて、ぼくは海岸まで出て、海の水を飲んだ。それから元いた場所まで帰る力もなく、ぼくはそこで意識を失ってしまったようだった。目を醒ますと、ぼくは知らない部屋の布団の上に寝かされていた。寝ている間に随分時間が経ってしまったような気がした。ぼくの隣に、あたたかいパンとスープが運ばれて来た。それを運んでくれたのがミミ、君だった。ぼくは君が看病してくれたおかげで、すっかり病気も良くなったし、元通り元気になった」
「あなたを看病したのは、私じゃなくて姉のリーベリよ」
「そうだったね……でも、ぼくはあの時、ひと目見て、君のことを忘れることが出来なくなった……」
「……」
 メメはリュシエルの話が終わると、大切な話をいったい理解したのかしていないのか、再び部屋の内外の探検を開始していました。リュシエルはメメのやりたいように放っておきましたが、戸棚の上に乗りかかり窓から外を眺めていたメメが突然、叫び出したのでした。
「見て! 窓の外、誰かいるわ!」

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

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