果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語
ー㊵ー
にゃんく
ジョーはリューシー、ミミと名乗ったふたり連れと別れた後、西へ向かう旅を続けていましたが、ふとリューシーという青年のことを考えているうちに、自分が王宮の晴れがましい兵隊だった頃、一度だけ都の閲兵場で王子のリュシエルを見たことを思い出していました。
ジョーは煌びやかな装備に身を包み、少々得意げに胸を張って、王家の旗を手に捧げ持っていました。
それは今から三年ほど前、王のシンと王妃ソフィーに、最強の誉れ高い王宮の軍隊をお見せする盛大な式典でのことでした。その時十八歳だった若い王子も、ソフィー王妃に付き従うようにして、自分たちが行進する様をご覧になっていました。ジョーはひと目見た時、これが未来の王になられるお方かと思い、王子の顔が脳裏に焼き付いて離れませんでした。
ジョーはまさかとは思いましたけれど、あのリューシーという若者が、一度だけお見かけしたことがあるその王子にそっくり似ているような気がしてなりませんでした。
もちろん、王子はもう二年も行方不明になっており、ネリが放った刺客によって、何処かで暗殺されたというもっぱらの噂でした。
しかし最近都で起こった反乱のために、今やそのネリはいなくなり、ソフィー様が王様代理の座に返り咲いたという話でした。もう少しソフィー様が政権に戻るのが早ければオラもクビを切られずにすんだかもしれないのだが。ジョーは溜息をつきました。でも、あのお方がもし本物のリュシエル王子ならば、一日も早く王宮に戻りたいはず……おそらく王子様はソフィー様が政権を取り返されたことを御存知ないのだ。だからいつまでも放浪生活を続けていらっしゃるに違いない……。
自分の病を治してくれた恩もある――。
ジョーは決心し、そこから東にある北方総督府に引き返すことにしました。
リュシエル様らしき人物を目撃したことを北方総督府に報告しようと思ったのです。