果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語
ー㉚ー
にゃんく
雲ひとつない、気持ちの良い晴れた日でした。
その日、リーベリの小間使いの仕事が珍しく午前中で終わりました。というのは伯爵の奥さんがこの日は特別に普段よりも早くリーベリを帰らせてくれたのです。「早く帰って、恋人にでも会ってきなよ。あんたを見てれば分かるよ。最近、生き生きしているもの。何だか昔の自分を見ているみたいだよ」四十歳を過ぎた奥さんは、左手にはめたエメラルドの指輪をひらひらさせながら、珍しく機嫌よく云うのでした。「人生、いちばん大事なのは、恋よ、恋」
リーベリは、奥さんに「ありがとう御座います」と挨拶をしてから、箒に跨って、リューシーのいる洞窟まで飛んで帰りました。リーベリはリューシーと一緒にいれると思うと、嬉しくて仕方ありません。空を飛んでいる間ももどかしく、黒い髪を靡かせて矢のように洞窟目指して飛びました。
ところがせっかく急いで帰って来たのに、洞窟の中の何処を捜しても、肝心のリューシーの姿が見当たらないのでした。リューシーの持ち物というと、財布や剣くらいしかありませんでしたけれど、それらの持ち物ですら、きれいになくなっているのです。
おかしいな、何処へ行ってしまったのだろうと思ってリーベリが洞窟の外をきょろきょろ見回していると、ストレイ・シープとジョーニーがちょうど空から洞窟の入口付近に舞い降りました。
リーベリが何かを探している様子らしいのを見て、ジョーニーが訊ねました。「如何しました?」
リーベリがリューシーの居所を知らないかとストレイ・シープとジョーニーに訊ねると、ふたりはどうしたわけか曰くありげな顔つきをして、申し訳なさそうな表情でこうべを垂れているのでした。
リーベリは不思議に思って、「どうかしたの?」と訊ねると、ややあってジョーニーが重い口を開きました。
「リューシー様は、……リーベリ様のご実家にいらっしゃいます」
「実家?」リーベリは訳が分かりませんでした。「どうしてリューシーがあたしの実家に?」
ジョーニーはリーベリと視線を合わせないように下を向いたままですし、ストレイ・シープはストレイ・シープで何もない岩山の上の方を見上げたりしています。
「いったいどうしたって云うの? はっきり云って頂戴」
「それが……非常に申し上げにくいのですが……」
「何?」思わずリーベリの口調が強くなりました。
ジョーニーは緑色の水玉模様のついたカラフルな黄色のジャケットを手でいじいじと触りながら、云いにくそうに、
「リューシー様はリーベリ様の妹のミミ様と一緒におられます」
リーベリは身体が凍り付いていくように感じました。
「ミミと?」
「……」
「続けて……」
リーベリが先を促すと、ジョーニーは自分が悪いことをして叱られているように答えるのでした。
「リューシー様とミミ様はとても仲睦まじい御様子で……手など繋いで、並んで歩いておられました。そうして、おうちの中に這入って行かれました。たまたまご実家のあたりに通りがかった時に見たのです」