果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語
ー㉗ー
にゃんく
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それから数日後の夜更けの、皆が寝静まった頃を見計らって、リーベリはリューシーを連れ出して洞窟へ向かって歩きました。リューシーの財布や剣など、彼の持ち物は全部家から持ち出していました。
リーベリはリューシーと手を繋いでいました。飛んで行けばもっと速く着いたのですけれど、リューシーが歩いて行きたいと云ったのでした。リューシーの手はあたたかくて大きいなとリーベリはひとりで感心していました。
「一体どっちの方向に向かっているんだい?」とリューシーは訊ねました。
「北の方にある洞窟よ」リーベリの顔からは自然と笑顔が溢れるのでした。「そこはリューシーが倒れていた海岸からは、それほど離れていない場所なのよ」
外にふたりで出掛けることは考えてみればはじめてのことでしたので、ただ歩いているだけでもリーベリは楽しくて仕方ありませんでした。夜が更けるのも、睡眠不足で明日の仕事が辛くなるのも別にかまわないと思いました。
途中、足元が悪くて、バランスを崩して転びそうになった時、リューシーは優しくリーベリの身体を引き寄せて支えてくれるのでした。
闇の中でフクロウがほーほーほーと鳴いていました。
一時間半ほどかかって、ふたりは大きな岩山の裾に辿り着きました。
「着いたわよ」とリーベリが云うので、リュシエルは周囲を見回しました。建物らしき建造物はひとつも見当たりません。闇と月、背後には自分たちが歩いて来た道と、その両側にある林、そして前方には聳え立つ岩山しかありません。
「この洞窟なの」リーベリが前方の岩山を指差して云いました。
見ると岩山の裾には真っ黒い穴がぽかりと口を開けていました。
穴の入り口まで来ると、「ちょっと待ってね」と云ってリーベリが顔の高さに設置された蝋燭に火を灯しました。揺らめく焔の影が穴道に落ちて火影を揺らしました。
リュシエルはリーベリに手を引かれて洞窟の中に這入って行きました。
穴道はきれいに掃き清められていて、石ころひとつ落ちていません。蝋燭台が等間隔に設置されていて、手際よくリーベリがそれに火をつけていきます。
「すごい。こんな場所、よく見つけたね」
五十メートルほど下って行った行き止まりに、木の扉があり、リーベリが扉を開けて中に這入って蝋燭の火を灯しました。優しい光がリュシエルの足元をつつみました。「どうぞお這入り」と云うリーベリの声に誘われるように、リュシエルは足を踏み入れました。
扉の奥は薄いピンク色の壁紙に囲まれた部屋でした。部屋の周囲には瀟洒な家具類や趣味の良い鏡台が並んでいます。リュシエルは息を呑みました。とてもかわいらしい女の子の部屋、という感じでした。部屋の中は清潔で、整頓されています。隅っこには、屋根のついたお洒落なベッドが一台置かれていました。
天井から水滴が落ちる音がしました。リーベリが慌ててお皿を持って来て、水滴が落ちたあたりの床にあてがいました。時間を置いて、水滴はぽつりぽつりと落ちてきました。「水漏れかい?」とリュシエルが訊ねると、「そうなの」とリーベリが申し訳なさそうに云いました。「これさえなければ、完璧なんだけれど」
リュシエルはつかつかと部屋を斜めに横切って行って、ベッドの上に腰掛けました。弾力のあるベッドです。「でも、ここまできれいにするのは、さぞかし大変だっただろうね」
その言葉を聴いて、「良かった。気に入ってもらえたみたいで」
リーベリは心の奥から嬉しそうに微笑みました。