『異類婚姻譚』本谷有希子〜小説レビュー「ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりに」 | 『にゃんころがり新聞』

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writer/にゃんく

 

STORY

 サンちゃんは専業主婦。バツイチの旦那と、ネコと一緒に暮らしています。
 ある日、サンちゃんは、自分の顔が、旦那の顔とそっくりになっていることに気づきます。
 夫婦の顔がだんだん似てくることに、薄気味悪さを感じるサンちゃん。
「自宅では何も考えたくない」
 という旦那は、単調でつまらないスマホのゲームに一日中ハマっています。でも、覇気がないのかと言えば、そういうわけでもなさそう。というのは、外国旅行に行ったとき、旦那はとつぜん生き生きとしはじめ、ひとり活発に行動しはじめたことがあったからです。
 旦那の嫌な面ばかりが目に付くサンちゃんですが、自分も旦那に依存していることに内心気づかされてきます。
 旦那が自分に似てきているのか、自分が旦那に似てきているのか……。
 しだいに顔がくずれはじめた旦那に、サンちゃんはついに戦いに打ってでます。

 

 「結婚」を経験した作者が、「夫婦」をテーマに挑んだ作品です。
 

 

REVIEW

 

 本作は、2016年の芥川賞受賞作です。
 本谷有希子といえば、自意識過剰な女主人公のハチャメチャ人生ぶりがおもしろく、ぼくも昔は好きでよく読んでいました。
 本谷 有希子は1979年生まれ、肩書きは、小説家だけにとどまらず、演出家、女優、声優など、多才です。
 もとはといえば、「劇団 本谷 有希子」を立ちあげ(2000年)、劇団のホームページに掲載していた小説が、雑誌「群像」の編集者の目にとまり、「群像」に小説を書くようになったことが、小説家としてのデビューでした。
 なので、本谷 有希子は新人賞などを受賞してデビューしたわけではありません。
 しかし、初期の作品は、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』、『生きてるだけで、愛。』『江利子と絶対』、『幸せ最高ありがとうマジで!』、『あの子の考えることは変』など、タイトルだけを読んでも、「いったい何がはじまるのか?」と期待させられます。それまでの文学作品にはないタイトルであることは確か。
 『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』は映画化もされています。おもしろい作品なので、見てみることをオススメします。
 さて、本谷 有希子の受賞歴ですが、今となっては、多数におよんでいます。

 

鶴屋南北戯曲賞(2007年)
岸田國士戯曲賞(2009年)
野間文芸新人賞(2011年)
大江健三郎賞(2013年)
三島由紀夫賞(2014年)
芥川龍之介賞(2016年)

 

 芥川賞は新人が受賞する賞とされていますが、なぜか一番最後に受賞しています。芥川賞に関しては、なんども候補になっていて、そのたびに落とされています(4度めで受賞)。今回のレビューでとりあげた『異類婚姻譚』より、もっと早くに受賞していてもよかったと思います。
 

 

 途中、登場する、「サンショ」という名前の飼い猫。
 おしっこを家のなかであたりかまわずしてしまうので、キタエさんというおばさんが、山にサンショを捨てに行きます。
 そして、主人公の名前は、サンちゃん。
 この名前の類似は、偶然ではありますまい。
 旦那に捨てられようとしていることを暗示している名前なのか……。
 たぶん、そうでしょう。

 

 また、『異類婚姻譚』では、おとぎ話ふうの結末となっています。
 ある日、サンちゃんが、自分の顔が、旦那の顔とそっくりになっていることに気づく、という出だしからして、カフカの「変身」を思いだされた方もいるかと思います。
 そして、『異類婚姻譚』の結末では、旦那の身に「変身」が起こります。
 カフカの『変身』では、主人公のグレゴール・ザムザが巨大なゴキブリのような虫に変身しています。そして、『変身』のテーマのひとつに、「家族」があります。
 『異類婚姻譚』でも「変身」のモチーフが出現します。そして、本作のテーマは「夫婦」です。
 『異類婚姻譚』は、カフカやおとぎ話や、作者本人の経験など、いろんな要素がつまった作品なのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

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