(里見のり様/作画)
(*左がロコで、右がモコです。)
ロコモコ
文/にゃんく
ロコちゃんとモコちゃんには、他の人にはない、とくべつなチカラがそなわっています。
それは、どういうチカラかって?
空を飛べる能力?
ちがいます。
透明人間になれるチカラ?
それも、ちがいます。
じゃあ、タイムワープできる力じゃない?
ロコちゃんとモコちゃんは、偉大な魔法使いなどではありません。
じゃあ、いったい、どんなチカラなのかって?
それは、ふたりと一緒にいると、みんなが幸せになれるチカラです。
ロコとモコは、この町のみんなの人気もの。
おじいちゃんやおばあちゃん、ちいさな子どもたちから、若い男の子にいたるまで、みんな、ロコちゃんモコちゃんのことが大好きです。
つい先日、こんなことがありました。
れいによって、町の不良たちが、集団で、ひとりの弱いものイジめをしていたときのことです。
学校にも行かずに、ゲームセンターなどでタムロしたり、タバコを吸ってみたりして威張っていた不良たちは、お金ほしさに、下校してきた学生のひとりを、カツアゲしていたのです。
ロコちゃんとモコちゃんは、買い物に出かけるため、町のとおりをあるいていました。
モコちゃんが、ふと横の路地に目をむけると、かわいそうな男の子が、不良たちから胸ぐらをつかまれ、小突かれていました。
どうやら、カツアゲされているようだということに気づくと、ロコちゃんとモコちゃんは、路地にズンズンはいって行って、
「やめなさいよッ、あなたたち!」
と一喝したのです。
町の大人たちでさえ、この不良グループには見て見ぬふりを決め込むくらいです。
誰も彼も、自分に害がおよぶことには、関わり合いになりたくないのです。
みんなが自分たちを怖がっている。
そんな空気に慣れきって、エスカレートしはじめていた町の不良たちが、ロコちゃんモコちゃんの勇気ある行動に、出鼻をくじかれたかたちです。
町の不良たちは、あこがれのロコちゃんモコちゃんたちに注意され、自分たちの恥ずかしい行動に恥じ入り、女の子みたいに顔をあからめ、ほうほうの体で、退散して行きました。
「だいじょうぶ?」
モコちゃんが少年をきづかってたずねました。
「ありがとう」
少年は、泣いていました。
「泣くなよ」とロコが言いました。「君、いじめられないように、もっと強くならないといけないゾ」
少年は、コトバもなく、ただ何度も頷くばかりでした。
またある日のことです。
高齢のために、身のまわりのことができなくなってしまった町の何人かのお婆ちゃんのために、ロコちゃんとモコちゃんは、毎日交代で、家事のかわりをしてあげています。
ひととおり、掃除や片づけがおわると、ふたりはいつも、揺り椅子にすわったお婆ちゃんとお話をしてから帰ることにしています。
お婆ちゃんは、年をとって、お友達もいなくなり、さびしいのです。
もうずいぶん前に結婚して、お嫁さんに行ってしまった実のむすめは、お婆ちゃんの元に、もう何年も帰ってきていませんでした。
血の通った家族なのに、冷たいことです。
だから、よけいに、ロコちゃんとモコちゃんがやってきてくれるのを、お婆ちゃんは喜んでいます。
今では、元気に成長したロコちゃんとモコちゃんも、むかしは、町のひとたちのお世話になっていたことがあるのです。
というのは、ふたりに、両親はいませんでした。
もの心ついたときから、ふたりは、お互いだけしか頼れるものがない、天涯孤独の身だったのです。
ふたりがまだ小さな子どもだった頃、保護者がいないということで、町のお役人さまたちが、彼女たちを、それぞれ離れた、別々の孤児院に連れていこうとしたことがありました。
孤児院にいるほうが、食べものだってあるし、安全だというのがその理由でした。
でも、モコちゃんが、ロコの手をひいて、逃げだしました。
「離ればなれになるのはイヤよ」
といって、ふたりは泣きました。
そんなロコちゃんとモコちゃんを、町のひとたちはかわいそうに思って、お役人たちからかくまい、みんなで順番に世話をして、ここまで育ててきたのです。
そんなロコちゃんとモコちゃんが、町の人たちに恩返ししたい気持ちをもたないわけがありません。ふたりにとって、町の人たちは、命の恩人でもあるのですから。
そして、ロコちゃんとモコちゃんも、お年頃になりました。
ある日、町の学校で、トムという青年に、ロコちゃんは呼び出されました。
非常階段の踊り場にロコちゃんがおもむくと、トムという青年が待っていました。
「用ってなに?」
トムは、むかし、ロコちゃんのスカートめくりなどをして、ちょっかいをかけてきたワンパクぼうやでした。
けれど、最近は、とくに会話をすることもなく、男子と女子ということもあり、お互い遠ざかっていました。
ただ、ときどき、トムが見つめる視線と、ロコちゃんの視線が合わさるときがあって、ロコちゃんは、トムが目をそらすのを変に思うことがあるくらいでした。
「これ」
片言をのこし、トムは階段をおりて、去っていきました。
トムがロコちゃんに手渡したのは、封筒でした。
何だろうと思ってあけてみると、そこには、下手な字で、トムの手紙がはいっていました。
「好きです。付き合ってください。 トム」
そこには、そう書かれていました。
「?」
普段、会話もないのに、どうして突然こんな手紙をわたしてくるのか、ロコちゃんは腑に落ちませんでした。たちの悪いイタズラなのかもしれないと思ったくらいです。
すぐに下校の時間になり、ロコちゃんは、別のクラスにいる、モコちゃんと一緒に帰りました。ロコちゃんとモコちゃんがふたりだけで住んでいる家にむかうあいだに、ふたりは今日あった出来事などを、話し合いながら帰りました。
「大狼編集のココノエさんから、時間があるときに、ちょっとふたりに来てほしいって連絡があったの」とモコちゃんが言いました。「こないだの、不良たちから、少年を助けた出来事を、記事にしたいから、お話を聞きたいって」
大狼編集のココノエさんというのは、ロコちゃんとモコちゃんが住んでいるこの町の向こう側の、獣人の世界からきた獣人なのでした。
ココノエさんは、3180歳の獣人です。3180歳というと、人間からみれば、すごく長生きしたと思われることでしょう。実際、大狼編集女性社員の中では最年長の存在です。獣人界の世界の話は、また次の機会に語られることでしょう。
「あの、ココノエさんからじきじきのお願いなの? びっくり。いつ来たの?」
「ココノエさん、堂々と授業中に、教室に入って来たのよ」とモコちゃん。「みんなの注目の的になっちゃった」
「せめて、授業おわってからとかにすれば、いいのにね」
そんなことを話すうち、ロコちゃんがトムからもらった手紙のことに話題がうつりました。その手紙を読んでみたモコちゃんは、
「すごいじゃない。ラブレターもらったんだ」
と言いました。
「それで、どうするの? 付き合うの?」
降って湧いたラブレターの行方に、モコちゃんも興味津々です。
ロコちゃんは、ちょっと遠くを見ながら、かんがえているふうです。
「……」
「お似合いのカップルじゃない?」
とモコちゃんが囃すように言うと、ロコちゃんはすこし身を固くして言いました。
「お断りよ」とロコちゃんは言いました。「あんなヤツ」
「断るの?」
とモコちゃんが聞くと、ロコちゃんは黙っています。
なんとなく、毎日一緒にいるモコちゃんには、なんだかんだ言いながら、ロコもトムのことが好きなのではないかなという気がしていました。
「とりあえず、家にかえって着替えたら、ココノエさんとこに、顔出そ」
とロコちゃんは言いました。
それきり、トムのラブレターの話は打ち切りになりました。
さてさて、ロコちゃんの、トムへの返答は、どうなりますことやら。
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