過去の出来事を書きかえられる、魔法の万年筆。~バラ色の未来を、ご堪能ください。 | 『にゃんころがり新聞』

『にゃんころがり新聞』

にゃんころがり新聞は、新サイト「にゃんころがりmagazine」に移行しました。https://nyankorogari.net/
このブログ「にゃんころがり新聞」については整理が完了次第、削除予定です。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。

本記事執筆者/にゃんく

 


「あのとき、こうしていれば。」
と後になって、後悔することって、ありませんか?
今頃、もっと違う自分がいたのに。
そう思い悩んで、クヨクヨすることは、誰にでもあることですよね。
そこで、今回、ご紹介するのは、DN社から発売された、『魔法の万年筆』です。
昨年、発売されてから、知る人ぞ知る、隠れたヒット商品となりました。
その日本向けの商品となります。

人体に有害な点など、いっさいありません!
過去を一度だけ書きかえることができます!
これであなたも、バラ色の未来が思いのまま。
それが今回、たったの10万円(税込み)で買えるのです!

 

好評の口コミも多数。


東京都在住のAさんの声をご紹介します。

 

Aさんの声。(42歳。男性。既婚者)
学生のころ、ある女学生から告白されたんです。もう20年前のことですけどね。
で、「ぼく好きな人がいるから」ってカッコつけて、断ったんですね。
そんなことが、42歳になるまで、ときどき、思い出されるんですよね。
なんで、そんなことしたんだろって。
フッたりしないで、仲良くしてれば、あわよくば……いい思いできたかもって、そんなことばっかり思い出されるんですよ。男ってそんなもんかもしれないですよね。
あ、ちなみに、そのころ好きだったっていう女性は、その後結婚した同級生の妻のことなんですけどね。
もちろん、そんな話は、妻には言えませんよ。
で、あるとき、この「魔法の万年筆」の存在を知ったんです。
何しろ、口コミで評判の良い商品ですからね。
知るのが遅すぎたくらいです。
さっそく、購入しました。ネットで申し込んでね。妻には内緒です。ヘソクリで買える範囲の商品だったのも、好都合でした。
仕事から帰ってきたら、家に宅配便でとどいていました。
包装を破いて、中から出てきた、七色にひかる流麗なかたちの万年筆に、いたく感動しましたね。
妻は、キッチンで料理のしたくをしておりました。
ぼくのやっていることには、まったく関心を示していませんでした。
ぼくは、書斎にこもって、さっそくノートに書いてみたんです。
「あの女学生に告白された時、断らずに、付き合っていたら」
ってね。
途端に、魔法の万年筆が七色にひかりだして、その光が、数え切れないくらいの流星になって、四方八方に飛び散っていきました。
でも、しばらく、光が飛び散った以外には、とりたてて、何も変化がないなって思っていました。
それで、居間にもどってみたんです。
すると、さっきまで夕飯の支度をしていた妻の姿が何処にも見あたらないじゃないですか。
おかしいな、と思っていると、不意に、玄関のベルが鳴りました。知らないあいだに、妻が外に出ていて、イタズラでベルを鳴らしているのかもしれないゾ、と思いました。妻はそういう遊びみたいなことを、ときどきやるんです。
何気なくドアを開けてみました。すると、そこには、見知らぬ女性の姿がありました。たぶん、ぼくと同じくらいの年代の、中年の女性ですね。
「ただいま」
って言うんですよ。
え? って思いました。まったく知らない人だったもんですからね。
ちょっとドギマギして、この人、頭がおかしい人なんじゃないかって思いながら、
「失礼ですが、お宅様は?」
って聞くと、ケタケタ笑うじゃないですか。気味わるかったですね。
「何言ってんのよ、アンタ!」
って、そのおばさん、まったく知らないのに、いきなりぼくの肩を思いっきり叩いて、家のなかに入ってくるじゃありませんか。びっくりしましたよ。でも、おばさんの後ろ姿を追いかけながら、そのとき、ぼくは気づいていたんです。結婚して、もうすぐ10年になろうとする妻が、もうこの世にはいないだろうこと。そして、この知らないオバサンが、学生時代にぼくに告白して、そのまま付き合うことになって、その後結婚した女性になってしまったこと。
過去が完全に書き換えられたのであるということに。
ちょっと複雑な思いでしたね。まったく見知らぬ女性と、結婚したことになっているのは。
とりあえず、これから新しい妻と、思い出作りに励んでいこうと思っています。

 

(イラスト/gotogoal)

 

 

いかがですか?
威力抜群でしょう?

それでは、本製品の威力を実感していただくために、もう一件、口コミをご紹介します。

 

Bさんの声。(42歳。女性。既婚者)


魔法の万年筆の使用者は、私ではなく夫です。
夫は交通事故で、2年前に友達を亡くしておりました。
酒に酔ったトラックの運転手が犯人でした。
多額の賠償金が家族に支払われる判決がくだされても、当の犯人に支払い能力がなければ同じことです。酒を飲んで事故を起こしたことを、犯人が後悔している様子もなく、半分、犯人が、公判でも、自分の人生を、まるであきらめたような態度をとっていることにも、主人は憤慨しておりました。
亡くなった友人は、もどらないのです。
約束していた、富士山への登頂の予定も実行することができなくなり、そのことを友達の墓前で、泣きながら悔しがっておりました。
そんな夫のことですから、魔法の万年筆の販売が日本で開始されたというニュースを聞き及んで、飛びつかないはずがありません。
10万円で友達が生きかえるのでしたら、安いものですよね。
案の定、申し込みが殺到し、商品が購入できるかどうか不安な気持ちでいたのですが、無事、杞憂におわりました。
抽選で当選し、見事、商品が自宅に届けられたときの主人の喜びようといったらありませんでした。
七色にひかる万年筆でした。主人は、さっそくメモ紙に書きこみました。
「あのとき友人があの場所を通りかからなければ」と。
一瞬、万年筆のまわりのすべての物体が消え失せたかのように見えました。わたしと主人は、七色のヒカリが交錯する、無重力の世界にうかんでいました。
と、見る間に、夢のようにイメージは消え失せ、いつも通りの家のなかです。
「うまくいったのかな……?」
主人は、気もそぞろに、家のなかを歩きまわっておりました。
やがて、何か思いついたのか、ガラケーを手にもって、何処かに電話をかけはじめました。
普段あまり笑顔をみせない夫が、ニコニコしております。
事故で亡くなった友人に、電話をかけているのだと言います。
友達が亡くなってからも、彼の番号を、なんだか消す気にならなくて、登録したままにしておいたようです。
10秒ほどしてから、声のトーンがいつもと違う夫のことばが聞こえておりました。
「俺だけど、おまえなのか……!?」
やがて、裏がえった夫の声が、涙声にかわりました。
「生きているのか……おまえ!」
そうです。魔法の万年筆の効力により、夫の友人は、あの事故で死んでいないことになったのです。
夫の喜びようといったらありませんでした。
夫はさっそく友人に会いに行こうとしましたけれど、友人のほうが用事があるとかで、(生きかえったばかりで用事があるのも、何だかおかしなものでしたけれど。)夫が友人と再会したのは数日後のことになりました。
その日は、友人といっしょに夕食をたべる予定だと聞いていたので、夫の分の夕飯の支度はしておりませんでした。
その日お休みだった夫は、夕方から出かけましたが、一時間ほどして、すぐに帰ってまいりました。
何だか浮かぬ顔をしているので、理由を聞いてみますと、生きかえった友人が、全然喜んでいないということでした。
友人にしてみたら、自分はずっと生きていると思っているようで、夫がいくら魔法の万年筆で命を救ってやったんだぞ、と言っても、実感がないようで、まったく張り合いがないというのです。
その後、友人が生きかえってから一ヶ月がたち、夫は放心したような状態になってしまいました。夫にしてみたら、自分が一生懸命、動いて友人を生きかえらせあげたのに、友人のほうは、夫の話を作り話か何かのような態度でしか聞いてくれない、という不満があり、友人にしてみたら、夫が何か自分からお金をせしめようとしているのではないか、と勘ぐっているようで、ふたりの仲は、事故が起こる前のような良好なものではなくなってしまったのです。
現在は、夫と元友人は、絶交状態です。
たぶんふたりが元の仲にもどることはないと思います。
夫の場合は、こんな結果になってしまいましたけれど、魔法の万年筆の効力は、たしかに抜群でした。私も、こんど使ってみたいと思っています。

 

 

いかがでしたか?
威力を感じていただけましたでしょうか?

魔法の万年筆をつかうと、願いは叶うが不幸になる、という噂が一部出回っているようですが、競合他社が言いふらしているデタラメにすぎません。
それを証明しつつ、もうひとつ、最後に強力な口コミをご紹介して、終わりにしようと思います。

 

Cさんの声。(21歳。男性。未婚)

 

ぼくの両親は元気でしたが、魔法の万年筆で願いを叶えた翌年に、それまでの頑健さが嘘のように、憔悴して死んでしまいました。
ぼくの弟も、魔法の万年筆のおかげで東大に合格することができましたが、入学したその年に発狂してマンションの11階から飛び降り自殺をしました。
ぼくが付き合っていた彼女も、魔法の万年筆で芸能人と付き合いたいという願いを叶えましたが、願いがかなった6ヶ月後には、薬物使用容疑で警察につかまり、精神的におかしくなり、現在は、病院で治療中です。
ぼくのまわりでは、魔法の万年筆で願いを叶えたばかりに、不幸になった人の実例は、枚挙にいとまがないくらいです。
そんなぼくが、魔法の万年筆を買った理由は、他でもありません。
ぼくの願いはただひとつ、こんな商品、開発されない世の中であったなら、ということです。
その願いをノートに書きつける瞬間、おそろしさに、手がふるえました。願いが叶うかわりに、ぼく自身に、どんな不幸が降りかかってくるのだろう。それを思うと、開いたノートに、しばらく文字を書きこむことができないほどでした。
でも、それは、やらなければならないことでした。
亡くなった家族や、今なお脳病院で治療している元彼女のためにも。(もちろん、毎週、お見舞いに行っています。彼女は、ぼくのことを認識すらしませんが。)

<魔法の万年筆なんて、開発されない世の中だったなら>
心臓がバクバク音をたてているのを感じることができました。
最後の一文字を書き終えたとき、ぼくが今の今まで握っていたはずの、万年筆が、消えていました。

人々の希望の星だった、魔法の万年筆。
人々の希望を糧に、何万本もの売り上げをほこった大ヒット商品。
それがこの世から、はじめから存在すらしていない朝をむかえたのです。
万年筆のおかげで死んだたくさんの人が、生きかえり、生きかえったたくさんの人が、死にました。


ぼくの父親は、生きかえりました。そして、父のおかげで生きかえった友人は、事故で亡くなったことになりました。
別人にすり替えられたぼくの母親は消え去り、ぼくを生んだほんとうの母が、長い旅から帰ってきました。


すべてが、元通りにもどったのです。

いま、願いは魔法の万年筆のように簡単には叶いませんが、ぼくはそれでも元気にやっています。

 

 

いかがでした……か?
なかなか教訓的な実例でしたね。
それで、何の商品のご紹介をしているんでしたっけ……?
そうそう、魔法の万年筆でしたね。
これまでご紹介してきたように、それはすでに消滅してしまいましたので、げんざい、販売はいたしておりません。
また開発されるときまで、お待ちください。
え? 二度と開発されないって?
それはわかりませんよ。
需要があるかぎり、開発される可能性はありますよ。
ひとびとの、希望や欲があるかぎり、それはいつだって、再開発、販売される道は、残されているのです。
こんどは、グレードアップしたバージョンで、ぜひとも、お届けしたいものです。
それでは、そのときまで、ごきげんよう。魔法の万年筆とともに消えはてた、透明人間より。

 

(おしまい)

 

 

 

ブログTOPへ
http://ameblo.jp/nyankodoo/