又吉直樹(作/hiroendaughnut)
文/にゃんく
又吉氏のイラスト/hiroendaughnut
STORY(ねたばれがあります。物語の最初から最後までの要約です。)
熱海の花火会場での、相方と「ぼく」こと徳永との漫才のシーンで幕が開きます。徳永たちのコンビ名は「スパークス」です。
人々は打ち上げられる花火の方へ歩いていくため、二人の漫才にはまったく関心が払われていません。徳永たちの前に出演した、老人会の大道芸が長引いたため、花火があがる中での漫才となりました。
徳永はその夜、「あほんだら」というコンビ名の神谷と出会います。「スパークス」の次に余興をやった「あほんだら」は、道行く人たちをひとりずつ指さして、
「地獄(行き)」
「地獄(行き)」
「地獄(行き)」
「地獄(行き)」
と叫び続ける凄いものでした。徳永は神谷を、この人以外から学ばない師匠と決めます。徳永は神谷に弟子にしてください、と頼みます。神谷はオーケーを出しますが、ひとつ条件を出します。神谷の伝記を書くことがそれです。徳永が二十歳。神谷が二十四歳の頃のことです。
神谷の相方の大林は、地元では有名な不良でした。
さて、神谷は大阪に住んでいましたが、東京へやって来ます。そして、吉祥寺に住むようになります。駅に向かった徳永は、井の頭公園に神谷を連れて行きます。太鼓のような楽器を叩きやめた若者が公園におり、その若者に神谷が
「ちゃんとやれや!」
と叫びます。徳永が若者にすぐ去るので少しだけ楽器の音を聴かせてほしいと頼むと、若者は叩き出し、神谷はそれを指揮する即興の指揮者となります。
飲みに行き、酔っ払い、神谷に家へ来いと言われ行ってみると、華奢な女の人(真樹さん)がいるアパートに辿り着きます。その日、眠いのに悪ふざけする神谷のせいで徳永は眠れません。真樹さんは神谷の彼女ではないと知りますが、神谷にとって大切な人であると徳永は思います。
年が明けて間もなく、神谷に渋谷に呼び出され、女性数名と合コンしますが、徳永は楽しめません。
徳永は相方の山下を公園によんでネタ合わせをしますが、うまくいきません。ちょっとしたすれ違いから、徳永は相方を殴ろうと思いますが、神谷に電話して話すと気持が静まります。
日をおいて、シアターDというところで、何組かが出演するライブが行われます。観客による人気投票で、あほんだらが四位、スパークスは六位になります。あほんだらにはスタイルがあるが、自分たちにはあるだろうか、と徳永は思います。
徳永は髪を銀髪にします。神谷がそれを見て、
「へー」
と言います。
神谷は、どんなに金がなくても、徳永と食事などに行けば奢ってくれます。でもそれは、真樹さんの収入に頼っているのです。真樹さんは神谷がアパートに転がり込んで来たタイミングで、キャバクラで働き出したといいます。神谷が徳永と外で会う時は、真樹さんが快くお金をくれるといいます。
ある日、井の頭公園に徳永と神谷が行きます。泣き叫ぶベビーカーの赤ちゃんに、神谷は蠅川柳をよみます。相手が赤ちゃんであっても誰であっても、神谷はやり方を変えない。徳永はそんなことを思います。
徳永が所属する事務所に、後輩数名が移籍してきます。後輩たちは社員も手なずけ、徳永は追い抜かれる不安を感じます。
後日、ライブの打ち上げがあり、徳永は自分に居場所がないと感じます。
その後、真樹さんに彼氏ができます。神谷は、アパートに自分の荷物を取りに行くからついてきてほしいと徳永に頼みます。真樹さんのアパートには、既に彼氏がおり、その彼氏の無言の圧力のもと、神谷は部屋の中に入ります。真樹さんとの別れ際、真樹さんが変顔をします。徳永は真樹さんを失った痛手を思います。真樹さんはやがては神谷の結婚相手になると思っていただけに、徳永は残念に思います。さらに、真樹さんはキャバクラで働いていたのではなく、風俗で働いていたことがわかります。風俗で働き、神谷との生活を支えていたことを知ります。
ある日、二子玉川の河川敷に神谷と徳永はふたりでピクニックに行きます。そのようにして、漫才をやるときの心構えなどを、ふたりで議論しあったりします。
後日、神谷の相方の大林から電話がかかってきて、徳永は高円寺の焼き鳥屋で飲みます。そこで神谷がひどい借金に陥っていることを知ります。
時がたち、神谷は三十二歳の誕生日をむかえ、徳永は二十八歳になっています。
そろそろ、スパークスは若手として注目されるようになってきます。
Zepp東京で、テレビ関係者への若手芸人見本市という趣旨の、漫才を披露するイベントがあり、神谷コンビは大きな笑いをとります。一本目は正統の漫才、二本めは一本めの漫才の音響をながし、口パクで演技をするというものでした。音と動きがズレて、大きな笑いとなります。が、審査委員長に、あほんだらの漫才は否定をされます。
秋になり、徳永が神谷と会うと、神谷は銀髪になっており、服装も徳永とそっくりの格好になっています。由貴さんという太った女性に鍋を作ってもらい、神谷の家で食べます。テレビでスパークスの漫才をやっており、それを見ても神谷は全然笑いません。徳永は神谷を殴りたく思います。
徳永は神谷の言葉に腹を立て、神谷に、ごちゃごちゃ言うんやったら、自分がテレビで面白い漫才やったら、よろしいやん、などと言います。徳永が自分の髪型の真似をしていると指摘すると、神谷は風呂場にいき、頭を自分で刈って出てきます。
翌日、徳永はメールで神谷に謝罪をします。
スパークスは一時的に売れて、風呂なし家賃2万5000円から下北沢の家賃11万のマンションに住むことができます。しかし、やがて徐々に仕事が減っていきます。
徳永の相方に子供が生まれる予定ができ、相談してスパークス解散が決まります。
後日、スパークスの最後の漫才が行われます。そこで、徳永はやってみたかった漫才を、はじめてやった気持ちになります。その漫才を見た観客の拍手が、いつまでもたえないほどでした。
ある日、吉祥寺ハーモニカ横丁に行くと、神谷がいて、はじめてスパークスの漫才おもしろかったなと褒められます。相方の山下としか漫才できないので、神谷に引退することを徳永が伝えます。徳永は、神谷から、どんな仕事をしても、芸人に引退はない、と言われます。
徳永は芸人をやめて、居酒屋で休みなく働きます。
やがて徳永は下北の不動産で働くようになります。
ある日、徳永が夜ひとりで飲んでいると、神谷から電話があり、神谷の元へ飛んでいきます。
すると、驚くべきことに、神谷はシリコンをいれて胸が大きく膨らんでいる姿となっています。神谷は、それを見る人に笑ってもらえるだろうと思ってやったことでしたが、徳永にはそれが全然笑えないことに思われます。徳永は、そういうことをしても誰も笑えないし、するべきではなかったと神谷を諭します。神谷は、徳永にそう言われることがショックで、だから、もう言わないでくれ、と頼みます。徳永は思います。神谷には笑いの才能はあるのだが、この人はそれを上手に伝える方法を知らないのだと。
最後、徳永と神谷がふたりで熱海に旅行にいくシーンです。
花火があがります。
神谷が、開催されることを知った素人漫才大会に、どうしても出たいと言い出します。徳永は、旅館の一室で神谷の伝記を書いています。
ラスト、神谷がとんでもない漫才考えついたぞと言って美しい乳房を揺らして飛び跳ねるシーンで作品は幕を閉じます。
REVIEW
漫才師を目指す、若者の挑戦と挫折を描いた作品です。
いい作品だと思います。
構成が練られていて、作者のしごとである漫才を素材にしているのもいいと思います。
神谷の名前は、神谷才蔵といいます。神がかった才能の持ち主、というほどの意味でしょうか。
才能があるのに、その伝え方を知らない神谷のコンビ名は、「あほんだら」。
徳永のほうのコンビ名「スパークス」は、タイトルの「火花」を連想させます。徳永と神谷との関係には、仲がいいだけではありません。時に火花のように緊張が走っています。考えられたネーミングですね。
途中、徳永たちのコンビの方が売れ出してくる部分がありますが、そこのところで、神谷が、徳永の髪型を真似してきます。徳永は、唯我独尊の道をいく神谷が好きだったのに、自分の真似をされて、不快に感じます。このへんも、よく考えられたプロットだと思います。
ちなみに、又吉氏は、2003年まで原偉大と「線香花火」というコンビで活動していたそうです。作品の、冒頭とラストは花火のシーンが描かれています。
最後から二つめのパラグラフで、「僕達はまだ途中だ。これから続きをやるのだ。」と書かれています。漫才命で生きてきた若者たちですが、漫才を捨てて、暗い結末にするのではなく、多少、明るさを感じさせるために、このような記述があるのでしょうか。
この作品、ぼくはかなり評価しております。芥川賞を受賞する前から、好きでした。
読書家でもあり、読書は、すでに2000冊ほど読んでいるという又吉さん。1980年生まれ(にゃんくより、歳下です。)今後が楽しみな作家ですね。
にゃんくの評価
*レーティング評価(本ブログ内での定義)
☆☆☆☆☆(星5) 93点~100点
☆☆☆☆★(星4,5) 92点
☆☆☆☆(星4) 83点~91点
☆☆☆(星3) 69点~82点
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(『火花』文藝春秋発行)
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