『世界の中心で愛をさけぶ』(片山恭一作)は、あまりにも有名な、300万部以上のベストセラーです。
STORY
朔太郎とアキの恋物語です。
朔太郎がアキと出会うのは、1990年、中学2年生のとき。
当初は、アキには恋人がおり、朔太郎もアキに恋しているわけではありませんでしたが、学級委員でよく顔を合わせたり、朔太郎の実家が図書館の敷地内に建てられているために、受験勉強をするために図書館にやって来たアキと会話を交わしているうちに、二人の距離は縮まっていきます。
やがて、同じ高校に通いはじめた二人は恋に落ちます。業者が倒産したために、建設途中で放置されたテーマパークの廃墟に、はじめてのお泊りをするために出掛ける二人。
そんな冒険と心地よい刺激に満ちた、青春の1ページが、美しく描かれています。
ところが、病魔の影が二人に忍び寄ってきます。アキが白血病を発病してしまうのです。
病状は良くなるどころか、ますます悪くなっていきます。
朔太郎は、アキが元気なうちに、2人でオーストラリア旅行へ出掛けることを計画します。こっそり病院を抜け出すことに成功したアキですが・・・。
REVIEW
もし、恋愛小説ベスト10を選べと言われたら、ぼくはこの作品をそのひとつに挙げたいと考えています。
他には何があるのかというと、村上春樹『ノルウェイの森』などを入れたいです。まあ、あとの8作品については、これから発表していきますので、お楽しみにしていただければ、と思います。
今回『世界の中心…』を読み返してみて、あらためてその気持ち(恋愛小説ベスト10に入るくらい良い作品であるということ)を強くしました。
悲痛な恋愛小説ということで、痛々しい感じの地の文が続くのかと予想されるところですが、そんなことはありません。確かに出だしの1章は、アキが死んだばかりのため重苦しい語りですが、アキが生きていたころの過去の回想シーンに語りが及ぶと、まるでアキが存在しないのを忘れたかのように、軽快な語りの文章が続いてゆくのがわかります。
会話の面白さ、特に主人公の朔太郎のユーモアが効いていて、後半、アキの体調が崩れていったときの深刻さとの対比のメリハリが効いています。
そして、もちろん病院を抜け出してのアキとのオーストラリア旅行を決行しようとするストーリーも秀逸ですが、注目すべきは、ベストセラーだと馬鹿にできない文章力がある点です。クライマックスの章は当然として、それ以外の章も、地の文がしっかりと書かれていることに、慧眼な読者は気づくはずです。
構造的には、冒頭付近で取り上げられる、ラジオ番組への投稿エピソードが現実のものとなる仕掛けも、伏線としてうまく機能しています。
もちろんキャラの造形もしっかり描かれています。
総合的に見て、あまり欠点の見当たらない作品で、ほとんど古典的ともいえる完成度だと思われます。
これを批判する人は、ベストセラーに対するただのやっかみでしょう。
『世界の中心で愛をさけぶ』というタイトルですが、もともとのタイトルは、『恋するソクラテス』だったようです。編集者に助言され、『恋するソクラテス』から、『世界の中心で愛をさけぶ』に変更をしたようです。
タイトルがすべてではありませんが、『恋するソクラテス』のままだったら、あれほどのベストセラーにはならなかったかもしれません。
文:にゃんく
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