1987年にこの作品で海燕新人文学賞を受賞しています。
<あらすじです>
大学生の桜井みかげは、祖母が亡くなったために、アパートを引っ越さなければならなくなります。そこへ田辺雄一というひとつ歳下の男の子がやって来て、うちへ来ないか? と言ってくれます。田辺は祖母とは知り合いでしたが、みかげとはあまり面識がありません。しかし、ふわふわとみかげは田辺の家に転がり込みます。そこには雄一の母親も住んでいるのでしたが・・・
*
冒頭、みかげの台所への思いが綴られます。散らかった台所も好きだ、と。何故キッチンが好きなんでしょうか?
みかげは天涯孤独です。両親もいませんし、唯一の家族であった祖母とも死に別れてしまいます。
恋人とも別れた後です。
バスの中でおばあさんに生意気な口をきく子供に「ガキ」と心の中で罵ったりします。おばあさんの優しさが羨ましかったんすね。
主人公がなんでキッチンが好きなのか、それは読んだ人それぞれが感じることだと思うので、ここでは私は言いません。
文庫の裏には、「すべては(この作品から)はじまった」と書かれています。
せつなさ。寂しさ。哀しさ。孤独。
そういったものが、主人公の気丈な振る舞いから滲み出ている作品だと思います。
シンプルな作品ではありますが、その無駄なものを削ぎ落としたシンプルさが、こころに直接響きかけてくる作品かもしれません。
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