『林檎の樹』ゴールズワージー・・・82点 | 『にゃんころがり新聞』

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 『林檎の樹』 ゴールズワージー (新潮文庫)


 なかなかよかったですね。


 (ネタばれがあり)


 アシャーストという主人公がいるのですが、老いて、林檎の木の下へ妻とともにやって来ます。その林檎の木には、ある思い出がある。


 昔、若かった頃に、ミーガンという女性と恋に落ちた。


 そうして、二人は結婚を考えるのですが、自分たちは結ばれないと考える。親の反対などもあるだろう、と。


 だから、二人は駆け落ちすることを決心します。


 そうして、アシャーストは町へ行きお金を銀行から下ろしてくる、と言って、出掛けます。しかし、アシャーストは、町で友人と出くわし、友人の妹のステラたちと日がな遊び暮らして、ミーガンの元へは帰ろうとしない。


 結局、そのまま、アシャーストは、ミーガンの元へ帰らないのですが、老いて、銀婚式の日に、思い出の林檎の木の下へやって来ます。妻のステラとともに。つまり、アシャーストは、ミーガンを捨てて、町で偶然出くわしたステラとその後、結婚したのです。


 そして、林檎の木の下で、アシャーストは意外な事実を知ります。


           *


 風景描写が多くて、なかなか話が前へ進まないのですが、アシャーストの心理が抑制されていて、それが読者の想像を駆り立てるのが良いです。

 例えば、アシャーストはミーガンと結婚の約束をしますが、ステラと出会ってから、ミーガンの元へと帰りません。途中、たいして仲も良くない友人と会って、その友人の妹たちに、今日は泊まっていってなんて言われたりします。アシャーストたちは今晩駆け落ちする予定なので、読者はアシャーストがそんな勧誘には乗らないだろうと思います。しかし、アシャーストは、女の子たちに言われるがままに、そのまま何日もミーガンの元へ帰りません。

 そんな筈ないやん、って、読者は思います。ミーガンのこと愛してるのに、なんで帰れへんねん、って。アシャーストは、内心、ミーガンに懺悔します。読者は思います。それだったら、すぐ帰れよと。

 でも、最後に、読者は、アシャーストがステラと結婚したことを知ります。

 つまり、アシャーストは、ミーガンよりもステラの方に魅力を感じたのですが、その心理描写は最後まで伏せたままです。


 そういう心理を「描かないこと」でかえってより多くを想像させているところが、文学作品って感じで良いと私は思いました。