『告白』湊かなえ・・・93点
(ジャンル:ミステリー、本屋大賞受賞作、双葉文庫)
担任の教師、クラスメート、犯人の母親、犯人。様々な立場の人物が入れ替わり語っていき、真相が明らかになっていく。古典的とも言える 手法だが、それが効果を上げてもいる。
不自然な箇所を上げればキリがない。研究か子供をとるかで悩んだ修哉の母が子供を選択するのはいいが、研究より大事な息子を虐待するだろうか?
愛美を殺す「びっくり財布」を発明した修哉はそんなに頭がいいのにその「財布」が実際には子供を殺すほどの威力のないことにどうして気づかないのだろう?
気絶しただけの愛美は心臓も止まっていないのにどうして修哉は愛美が死んだことの確認もせずに現場を去るのか?
直樹くんにあれほど優しく弱々しい存在であるその母親がたちの悪いクレーム手紙を校長に出すのも不自然だし、あれほど直樹くんを庇っていたのに直樹くんを突如殺そうとするのも変だ。
とはいえ、すらすら読ませるので、不自然だと感じる暇もないほど、物語はスピーディーに展開する。
これだけの推理小説をとりあえずの辻褄を合わせながらクライマックスまで持っていった努力は賞賛に値する。
女教師が最後には修哉の母の元に爆弾を設置しふっ飛ばして殺してしまうラストはどうかと思うけれども。これじゃあこの女教師が犯罪者になってしまう。復讐するなとあれほど言って死んでいった熱血世直し先生の愛すべき遺言をこの女教師は何とも思っていなかったのか?
嘘発見機や殺人財布、ボタン式爆弾などトリック装置には事欠かない。すこし修哉くんが頭が良すぎるような気がしないでもない(まだ中学生だよ)。自分のことを捨てた母親のことなんか執着しないで自分で彼女を作り幸福な家庭を作ればいいだけの話。誰しもいつまでも母の愛情に頼るわけにはいかないのである。
物語のどんでん返しはたくさんあるが、話の芯となるべきものが何なのかイマイチよく分からない。
イジメが主題かと思ったが、そうでもないようだし。
第一章の聖職者の章で終わっていた方が良かったかも知れない。2章より後は色んなことを説明しようとしていて、それが逆にリアリティを失わせてしまっている。本来、第一章で終わっているお話だったようで、作者も続きを書くつもりはなかったそうである。ミステリーもいいが、色んなことが都合よく上手く行き過ぎる小説は現実を写していないと思う。
批判的なことばかり書いたが、それはこの小説が面白い小説であることの証でもある。つまらない小説にはこれほど力をいれて批評を書かないだろう。93点をつけたのはそういう意味です。