どうして、こんなに時々イライラするのか。
正しいことをしてきたはずなのに。
相変わらずそんなことを考えて、地下鉄に乗っている。
朝も、夜も。
地方の厳格な会社員の父と、教師の母。
少し晩婚な両親のもとで長男として生まれた洋介は、きびしくしつけられた。
同級生の親は、戦後の高度成長を謳歌した世代だが、
洋介の両親は戦争の影を受けていた世代。
もろに教育方針が、違っていた。
「あんな格好をしているヤツらは不良だ」
「本も読まないで遊ぶやつらは、いずれのたれ死ぬ」
少年の頃から、おしゃれをしたり、好きな芸能人の写真を集めることもなかった。
「悪いこと」だと思ったからだ。代わりに、岩波文庫を読み、母親が買ってきてくれる
服だけを着ていた。
大人になっても、同じように、両親の影があった。
地味なグレーのスーツ、白いワイシャツ。
「正しいことをしている。いつかはむくわれる」
そう思って、いつもこの道を歩いていた。
最寄り駅から会社まで、繁華街を過ぎるこの道を。
楽しそうに腕を組むカップルたち。
リラックスしたピンクのカットソーに、恥ずかしくなるくらいだけど
見てしまうミニスカートをはいた女の子。
楽しそうな雰囲気の中、いつも駅までと、駅からを、ひとりで歩いていた。