先週のある日、仕事を終えて帰宅しようとしていたら私のプロジェクトにアナリストとして参画しているモニカ(仮名)からちょっと話したいことがあるのだけれど、その翌日時間をとってくれないか、と言われました。組織図上、正式に私にレポートしているわけではないけれど、日々の業務では私の部下。エクセル関数に強いのと、メールの返信が早いので、頼りになって働きやすい人の一人です。
業務に関することはメールやチャットでコミュニケーションできるので、直々に話したいと言われるとやはり緊張します。気のなったので「今でもいいよ、どんな相談?」と聞くと、「ある男性の行動が不快でたまらない」という内容。うちの会社ではセクハラは御法度なので、マネージャーとして部下から報告されたらすぐに相談に乗る義務があります。内容が内容なので、その場で立ち話ではなく空いてる会議室に行って話を聞くことに。
会議室に行くまでの間、心の中では「う〜ん、モニカが不快に感じてるのは誰だろう?彼女の隣の席の、お調子者のジェイク(仮名)かな?それとも、引退間近でやや古い時代の価値観を露呈させるスティーブン(仮名)かな?」などと考えていました。
モニカ:「急な話なのに、呼び止めてしまってごめんなさい」
私:「いえいえ、話したいことって?何でも言って?」
モニカ:「家から近くの駅に行くまでに、毎朝、半裸の若い男に会うんです。もう不快で不快で毎朝憂鬱なんです。社内のセクシャル・ハラスメント窓口に通報しようと思うんですが、どう思いますか?これが証拠写真です。」
ジェイクやスティーブンの名前が出てくることを想定してたので、正直やや安心。でも、ここは突き放したりしないように細心の注意を払います。NWに言ったのに、相談に乗ってくれなかった、などと後で言われる可能性もあるので。
私:「それは大変な思いをしているんだね(←とにかく共感を示す)。その半裸の若い男性って、うちの会社の人なの?」(モニカがスマホで撮った証拠写真に興味津々だが、まずは淡々と事実確認モードで。)
モニカ:「いいえ、近所に住んでいる人です。この人。」
(わ〜やっぱりイケメンだ。公衆の面前でシャツ脱ぐのは顔とガタイがいいと相場が決まってる。しかし、それだけで社内セクハラ窓口に訴えるような案件なのかな?とは思いつつ)
私:「その半裸の男性に遭遇するのはいつ頃からなの?」
モニカ:「6月くらいから仕事にくる日はほぼ毎日」(その後、目が合った、Hiと言われた、服を着ていない男性を見ると怖い、という話を10分くらい。写真も、何枚も撮ってる。)
私:「それは大変だったね(と共感を強調します)。しつこく誘われたり、追いかけられたりしてるなら、警察に相談するとか、、」
モニカ:「それはないんです。う〜ん、でも不快に思っているのは私だけではないと思います。」
私:「聞いている限り、その男性は社内の人ではないようなので、セクハラ窓口に通報しても、何ができるかわからないね。」(と念の為期待値を抑えます。ただ、突き放したりしないように、物分かりのいい聞き役に徹します。)
モニカ:「ええ、警察に言うようなことでもないけれど、通勤途上のことなので、会社に相談してもいいかなと思ってるんです。」(しかし、なんでそんなに彼に固執してるんだろう、、というのが私の素朴な疑問。)
夏の時期、アメリカの路上には半裸男は普通に見かけます。特にガタイ自慢の白人の若い男はまるで日頃のトレーニングの成果を見せびらかしたいのか、わざわざ半裸になっていると思えるくらいです。朝ならきっとジョギングとか散歩をしているのでしょう。性的な意志がなくても、アメリカ人は目が合えば、おはよう、くらい言ってきます。だいたい露出が多い男は容姿に自信があるイケメンが多いので、私にとっては目の保養でいいんですが。
一方で、モニカの言い分もわかります。私が以前住んでいたアパートにも、セントラルパークでのジョギングを終えた男たちが汗びっしょりで半裸でエレベーターに乗ってきて、住人が文句を言っていました。
ということで、モニカには「もし自分の立場だったら、アパートの管理人に相談して、少なくとも敷地内を半裸で歩くのを禁止させるとかするかな〜?きっと、不快に思っているのは君だけじゃないと思うしね。もちろん、社内セクハラ窓口に相談してみてもいいかもしれないね。あとは、道の反対側歩くとか、自分から避けるかな?」と無難なアドバイスをしておきました。
半裸はNYでの迷惑行為の一つ。
「本人に面と向かって注意したほうがいい?きっと女子はみんな嫌だと思う」と聞かれたので、それは止めたほうがいいよと諭しておきました。どんな男かわからないし、逆にモニカがその男に興味があると変な誤解を与えてしまう可能性もありますし。(そこから恋が発展するというのは映画の中の世界だけ。)
この一件で、面白いなと思ったのは、モニカの、というか若い後輩社員の思考回路。彼女の年代を指して、Z世代というそうで、仕事場でも、我々のような世代の価値観が通用しない新しい世代と言われています。一方、彼女はクレーマーでもないですし、普段から文句ばかり言ってるモンスター社員でもありません。きっと異性の半裸への不快感と、それを払拭したいと思っての行動なのでしょう。他の女性もきっと迷惑している、と連呼しているのを聞くと、女性代表としての社会的正義感も強いように思います。一方で密かに写真を撮ってるあたりはデジタルネイティブ。きっと、ソーシャルメディアなどで他人に相談してるのかもしれません。
これが、ベテラン社員だと、在宅勤務を押し通すため通勤途上で嫌な目に遭う、とでっち上げに近いような口実を作る悪知恵を働かせたりするものですが、モニカは皆がテレコミュートしている時でも率先して会社に来ていました。しかし、それを社内セクハラ窓口に通報するとか、他の女性も嫌がっているから本人に向かって注意したほうがいいかと真顔で言っているのを見て、この正義感はどこからくるんだろう、とある意味尊敬してします。労災は通勤経路で発生した怪我などもカバーされるらしいので、通勤経路で遭遇する迷惑半裸男のことも、社内セクハラ窓口でカバーされるかもしれない、というロジックで、社内規定をリサーチして、理論武装もしていることにも関心してしまいました。
セントラルパークのジョギングコース。夏は半裸男で溢れる
半裸で散歩も、この季節ごく普通の光景
その後、モニカが本当に社内セクハラ窓口に通報したかはわかりません。もしかしたら、私と話したり、自身でいろいろ調べている間に、これはセクハラに該当するような案件ではないと判断したのかもしれません。ニューヨークでは場をわきまえない半裸は迷惑行為だと思われていますが、半裸で通りを歩いてはいけないという法律も条例もありません。よって、モニカが嫌がっている半裸男を排除するのは不可能で、彼の裸体を見るのが嫌なら、モニカが通勤経路を変えればいいだけの話のような気がします。一方、もしかしたら、以前、こういう風貌の男に嫌がらせをされてトラウマになっているのかもしれないので、とにかく、素人の私ではなく、セクハラ窓口の担当者に話して、次のアドバイスをもらって欲しいと思っています。
そして、最後に本音を吐露すると、美しい体躯のイケメンの半裸がセクハラだというなら、私にとっては、通勤電車で隣に座ってくる、ノースリーブで二の腕を押し付けてくる上に、鼻の奥ちくちくする程大量の香水の匂いを漂わせるニューヨークのおばさん達のほうがよっぽど私には不快だけどなあーと思ったりもしてしまいます。




