トランプ政権が発足してから、毎日のよう世界の秩序が変わるようなニュースを見聞きするようになっています。今日は、教育庁の職員を半減するという発表がありました。ニューヨークで同性婚したゲイという立場の私から見た、トランプ再選後のアメリカ生活を過去2回に渡って紹介していますが、多くの方に興味関心を持っていただいているようで、ブログはとても多くのアクセス数を獲得しています。

 

 

今日はその第3弾。前回は移民政策について、私が見聞きしていることを書きましたが、今日は相次ぐDEI政策の廃止や見直しに関して、正直な感想を述べてみようと思います。

 

トランプが就任後に成し遂げた大きな成果の一つにあげるのが、大統領令により連邦政府のDEIプログラムを終了したことです。DEIとは、「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包括性)」の頭文字をとった略称で、多様性が尊重され、誰もが公平に扱われ、包括される社会や組織を目指す取り組みを指します。バイデン政権下では、DEIが推進され、政府高官任命時に人種やジェンダーの多様性が考慮されたと言われています。トランプによれば、前副大統領で昨年大統領選を闘ったカマラ・ハリス氏も、黒人女性だからDEI枠で採用されたということになっています。DEI枠、というのは半ば貶し言葉で、「真の実力もないのに選ばれた、」というようなニュアンスが含まれることが多いです。

 

つい昨年までは社会通念として、政府や企業や教育機関の組織で、取引先や購買先選定から人事採用や昇進などに渡ってDEIが考慮される傾向が続いていました。それを葬り去って、実利主義、効率主義、実力主義という大義名分を掲げたのがトランプです。色々なデータや研究で、DEIが進んで色々なバックグラウンドの人が活躍する企業は競争力が増すということが証明され、これまでに多くの多国籍企業がDEIを推進していましたが、今はそういった企業の多くも、トランプ就任後は手のひらを返したように、企業内のDEI政策を縮小、廃止しています。なお、下の記事、DEIについて日本語でわかり安く解説してあります。

 

 

日本語のメディアでは、DEI廃止縮小傾向について、「マイノリティの発言力が過度に増し、割りを食ってきた白人男性たちの声にトランプが応えた結果だ」という分析が一般的になっているようです。また、大手企業が続々とDEIを取り止めているのはトランプにすり寄るためだというようなメディア記事も見かけます。私には、ここ数年DEIに対する行き過ぎを感じる流れもあり、敬遠する人たちが増えてきていたことをトランプが巧みに汲み取って自分の当選の原動力にした、というように見えます。

 

以前、前の会社のホリデーパーティーのことを書いたブログでも書きましたが、DEI配慮が行き過ぎて、会社主催のクリスマスパーティーでは「メリークリスマス!」という言葉は基本使われず、使うとしたら「ハッピーハヌカ!」というユダヤ教のお祝いのほか、延々と他宗教を同等に並べる配慮、忖度がなされていました。さらに出される食べ物が、野菜スティックと、鶏肉と豆腐と植物由来の擬似肉だけになってしまったことがあります。ほとんどの社員は乳製品入りのスィーツや、ビーフなどの他の食材で作られた料理を食べたいのに、、、。わかりやすくいえば、菜食主義者や宗教的制約のあるごく一部の人たちのことを考慮するがあまり、大多数の人が食べたいものを我慢する、という状況になっていたのです。なお、どうして企業において、DEI見直し傾向が進んできたのかということに関してもっと詳しく知りたい方は、この記事が詳しいです。

 

 

 

さて、自らがアメリカで働く、ダブルマイノリティ(アジア人でゲイ)という立場から意見を述べると、DEIの取り組みが廃止されたからといって、少なくとも私は困らないし、本当に困る人はどのくらいいるんだろう、とまず最初に思います。DEIは公民権運動を起源としており、アフリカン・アメリカンの基本的人権を要求する運動から始まったという説があります。その後、それぞれの時代の要請に合わせて、発展してきたのかと思います。それなので、トランプが煽動するように、DEIが悪だとも思いません。DEI施策がなくなったからといって、一気に社内で性差別や人種差別や横行するということもないでしょう。既に、ダイバーシティは行動様式として根付いているので、トランプが大統領になったからといって、少なくとも手のひらを返したように、白人至上主義を唱えるような輩は今の所、少なくとも私の会社では見かけません。もちろん、アメリカ全体を見ると、マイノリティーの意見を代弁する必要がある場面というのは、多々あります。しかし、会社など組織の中での枠組みを考えると、DEIはある程度の役割を終えたのかなと思ったりもします。うちの旦那の会社も同じような感じだそうです。

 

という私が勤務する会社は、全世界にオフィスを展開する大手企業ですが、今のところDEI関連で大きな変化はありません。元々「DEI推進室」みたいなDEI専門の部署はなくて、役員数人がスポンサーになり、人事部のマネージャーの一人が(黒人女性)がコーディネーターになって、社内横断的Dに社員のボランティアで構成される委員会が運営されています。この会議が毎年1回に、その年の取り組みについて発表する、というのが恒例です。

 

 

数年前に受けたDEI研修。今思えば、一体なんだったのだろう

 

どんな活動をしていたかも定かではありませんが、ゲイでアジア人というマイノリティでありながら、DEI委員会の提案に共感することはなかったです。昨年DEI総会の前後に色々なメールが来てたな、というくらいにしか記憶にないです。アメリカでのDEI縮小のトレンドを受けて、もしかすると、うちの会社のDEI総会も廃止になるかもしれませんが、大きな反対もないような気がします。何より、スポンサーになってるシニア・マネジメントの間で「やらされ感」が漂っていた気がします。私の超絶イケメン上司が、DEIスポンサーの一人として社内キャンペーンのサイトに、マイノリティの一人として歓迎のコメントしてましたが、彼は、DEI会議当日はその他のビジネス上の優先事項があり欠席したと聞きました。結局、DEIは企業経営の最優先課題と言われるのも建前だったのかと思います。それと、DEI委員会が多様性を推進するという理念をどの程度実行に移しているのかも甚だ疑問です。例えばうちの会社のDEI委員会のメンバーはみんな有色人種の中でもキラキラ系な人たちばかりで、はからずも有色人種の中のイケてる人たちによる排他的雰囲気すら漂っています。うちのイケメン上司もアジアの血が入ってるということでマイノリティ枠に入ってますが、圧倒的な有能さと持ち前のルックスとでDEIの助けが必要な風には見えません。

 

 

先週末、ゲイ友のホームパーティーで会ったユニセフNY本部に勤める白人中年ゲイから、彼はDEI廃止を密かに歓迎しているのだと聞きました。日本では共同募金で有名なユニセフ。外から見ると非営利・援助産業の最高峰、リベラルでDEI最先端組織という印象ですが、彼のように白人男性は、ゲイであろうがストレートであろうがDEIの恩恵は受けないそうです。それどころか、ユニセフ社内で上位のポストに応募しても、選ばれるのは有色人種の女性ばかりという状況だそうです。なんでも、社内の空きポストの公募時に有色人種と女性を半分以上ショートリストしないと、面接を設定することが許されないとか。「それって、白人男性に対する逆差別じゃないんでしょうか、」と彼に聞いてしまいました。彼は、良くぞ言ってくれました、という反応で、ユニセフでもDEI縮小されるのではないかと希望的観測を持っているそうです。もちろん、彼自身はとてもリベラルで、トランプのことは大嫌いなのですが、それでもDEIの廃止に関しては内心喜んでいるのです。

 

ユニセフなど国連系の非営利組織では今もDEIが健在だそう

 

そのユニセフ勤務のゲイの話を聞いた後、旦那が帰り道で、彼自身の数年前の昇進の時の話をしてくれました。旦那はその昇進をかなり長い間待っていたらしいのですが、同じ日に、会社にたいして貢献してたとは思えないある有色人種の女性が飛び級で昇進になっていたそうなのです。それも、彼女より職歴も長く有能で誰が見ても彼女以上に激務をこなしてきた白人男性を追い抜いて。これは物議を醸したそうで、女性社員たちからすら文句が出たそうです。

 

ということで、今日は相次ぐDEI政策の廃止や見直しに関して、 私の正直な感想や身近な経験をシェアさせていただきました。ゲイでアジア人という立場のマイノリティーなので、「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包括性)」というDEIの理念の恩恵を受けててもおかしくはない筈の私ですが、これまでアメリカに住んできた20年間、少なくとも直接的な恩恵を受けた覚えは一切ありません。もちろん、本当にDEI政策の助けが必要な方々もいるのは事実ですが、今のトランプ政権の動きを見る限り、今後それは個別案件として配慮する、というように企業も変わっていくのかなと推察しています。

 

NYCは既にDEIが内包されている街と言える